<Jealousy>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時々無性に主張したくなるんだ。

 

バカだって解ってる。

 

そんな事して後が大変だって事も解ってる。

 

もういい歳なんだし、お互いを信じる気持ちにウソはない事も知ってる。

 

だけどさ、気持ちは裏腹に、無性に苛立って、無性に悔しくて、ワガママな独占欲を持て余してる。

 

そして無性に主張したくなるんだ、こんな瞬間に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのさ、やりすぎ。」

 

 

ため息混じりになじられて、それでも半ば諦めムードなオレの恋人は、収録を終えて今日は一緒の車に乗り込んでからそう言った。

次の収録までの間にご飯でも食べようって話になって、半ば強引に彼の車に乗り込んだのだ。

マネージャーも置いてきぼりできっと後で叱られるんだろう事は目に見えてるけど、そんな事はどうでも良かった。

ただ彼を独占したかった。

ため息をつく彼を急かすように促して、一足先に街の雑踏へスタッフを撒くようにして消えた。

何も聞かない彼をいい事に、助手席からじっと彼を見つめて。

 

 

「あのね、僕の言ったこと、聞いてた?」

 

 

何度目かの盛大なため息と共に睨みつけられて、それでもオレは嬉しくて。

 

 

「もうさ、呆れてものが言えないよ。一体どんな言い訳を用意してあんな事したのさ。」

 

 

ツンと済ました表情で対向車線に気を配りながら問われた言葉に、オレは答えを持ち合わせていなくて。

 

 

「全く、どうせ何も考えてないんでしょ。ヒロだもんね。」

 

 

また彼が盛大なため息をつく。

 

 

「だって・・・。」

 

 

「だってじゃないよ。」

 

 

ピシャリと言い放たれてオレは益々言える言葉を失った。

 

 

あの瞬間、最初は冗談だったのだ。

 

いつものようにパフォーマンスとして優しく肩を抱き寄せて、「いつでもそばにいるよ」と囁いて、ファンの子達のいつもの反応だって想定内。

オレと大ちゃんがこういう事をしたら大抵は盛り上がる。だからそのつもりだった。

大ちゃんだってカワイコぶってオレの腕の中におさまって、それでおしまい。

 

おしまいだったはずだった。

 

もう一回と言われて「もうやりませんよ」とか言って、冗談で、あくまでも演出で。

 

だけどあの瞬間、なんだかカチリと何かが動いて、隣の彼をじっと見つめていた。

楽しそうにしゃべる彼と彼を見つめるたくさんの熱いまなざし。

くるくると回る表情になんだか無性に腹が立って・・・。

 

 

見つめていいのはオレだけ、笑いかけていいのはオレだけ。

 

 

何でこの人はオレだけのものになってくれないんだろう。

 

 

 

オレ達は熱い眼差しだって隠し合わなきゃならなくて、好きと言葉にする事も出来なくて、いつだって他人。一番近い、他人。

そんなことが無性に腹がたった。

 

オレのものだって、誰にも渡したりなんかしないって、ぶっちゃけて、後のことなんかどうでもいいから、ただ所有の証を見せ付けたくて。

 

だからオレはいつものように抱き寄せて、言葉に出せない誓いのくちづけを想いを込めて刻んだ。

 

その瞬間、オレ達を見つめるたくさんの顔に軽い嫉妬と敗北の色合いが浮かんだ事に、オレはたまらない快感を覚えた。

 

 

そうだ、この人はオレのもの。

 

 

 

ホントは誰にも見せたくないし、世界中の人に自慢したい。

 

 

誰にも渡さない。

この人はオレのもの。

 

 

周りの興奮にオレは充実感を感じて、所有の証を見せ付けた事に満足した。

彼はオレの腕におさまるようにちょっぴり俯いてからオレを睨んだけど、キスの瞬間、彼のまつげが待ちわびたように震えながら閉じられた事をオレは見逃さなかった。

 

 

ほら、やっぱり彼はオレのもの。

 

 

「ちょっと、真面目に聞いてる?」

 

 

呆れた彼の声音に遠くへ追いやっていた意識を手繰り寄せる。

 

 

「ちょっとはマシな言い訳でもしてみたら?ヒロのせいで僕まで同類扱いだよ。」

 

 

信号待ちで停止すると彼はオレのこめかみをコツンと殴った。

 

 

「なんかさ、みんなの反応見たくて。」

 

 

「それで?」

 

 

「あんまりにもファンの子達が大ちゃんのこと見つめてるから。」

 

 

「なに張り合ってんのさ。」

 

 

「だって・・・。」

 

 

ホントは自分だけを見て欲しかったとは言い出せず濁した言葉を、それでも彼はオレの考えなんかお見通しのようにその言葉を汲み取って。

 

 

「バカだねぇ、ホントにこの男は。」

 

 

青に変わった信号にアクセルを踏み込みながら彼は嬉しそうに小さく笑った。

 

 

「オレはいつだって大ちゃんを独り占めしたいんだよ。」

 

 

開き直ってそう呟くと今度は彼が短く言葉を失った。

 

 

「だ、・・・だからぁ・・・そう言う事ばっかり言うなよ。それにずっとリハで一緒だったろ?」

 

 

「だってリハじゃん・・・。」

 

 

彼の肩に頭を預けるようにしなだれかかると、危ないよと一蹴される。

 

リハじゃない、恋人としての甘い時間を求めているのは自分だけなのかと淋しくなる。『会う』のと『逢う』のじゃ話は違う。

それじゃなくても既に仕事がライバルなのだから、他のものなんか何一つ見ないで欲しい。

 

 

「大ちゃんはオレのものって言えたら悪い虫も寄ってこなくなると思うんだけどなぁ。」

 

 

「悪い虫って何さ。」

 

 

「だって大ちゃん、誰にでも可愛いって。今日も言われてたでしょ?ウツさんもキネさんも葛Gにも、最近は年下の子達からも言われてるでしょ、オレ知ってるんだよ。」

 

 

嫉妬丸出しの言葉を吐き出すと彼はうんざりしたような顔。

 

 

「ばっかじゃないの。」

 

 

「オレは心配なんだよ。」

 

 

情けない独占欲。

そんな事は彼に言われるまでもなく自覚してる。

だけど一度蓋を開けてしまった感情のループから抜け出せない。

 

トコトン情けない男だと思う。

彼につり合うように大人でカッコイイ自分でいたいのに、本当のオレは自分でも笑っちゃうくらい情けない。

彼が呆れるのだって無理はない。よくこんなめんどくさい男と付き合ってくれてるななんて感謝してしまう。

だからこそ余計に愛しく思う。

 

何度目かのため息を彼が零す。信号は黄色に、右折の矢印が点灯する。

 

 

「もう、今日はリリース祭りだからな。」

 

 

ぶっきらぼうにそう吐き出すと、彼にしては珍しい乱暴な車線変更。右折の点灯に乗っかった。

 

 

「大ちゃん?」

 

 

斜めになる身体を支えながら彼を見ると、

 

 

「次の収録まで特別ディナー。今からなら5時間くらいあるから一眠り出来るだろ。」

 

 

「え?」

 

 

「急なんだからあんまりいい部屋じゃなくても文句言うなよ。」

 

 

うなじまで赤くして彼は窓の外に見えていた大きなシティホテルへ車を滑らせた。

 

 

「大ちゃん!?」

 

 

さっさと車を空いている場所へ止めるとサイドブレーキを引きながらポツリと言った。

 

 

「・・・充電、させてくれないの?」

 

 

目元を赤くしながら強がってそんなセリフを吐く彼を、オレはやっぱりこの独占欲は彼がこうしている限りどうする事も出来ないのだと悟った。

 

 

「携帯の電源、切っとけよ。」

 

 

そんな事をしたら互いのマネージャーが血眼になって探し回ることは目に見えていたけれど、きっと彼も同じ気持ちだったんだろう。

その事が嬉しくてオレは彼の言いつけ通り携帯を彼の車の中に放っぽって彼の後を追った。

もう誰にも邪魔されたくなかった。

 

 

「大ちゃん。」

 

 

先を行く少し猫背の背中が早足で歩きながらオレを待っている。オレはそんな背中に追いついて後ろから抱き締めた。

「暑い。」なんて言いながらオレの腕から逃れようとして、まるで鬼ごっこみたいにじゃれあいながら駐車場を横切った。

 

 

独占欲はどんどん加速していく。

 

オレを見つめる彼の瞳がいたずらに笑う。

 

だからこの責任は彼にとって貰うことに決めた。

 

この先もずっと永遠に。

 

 

 

 

 

 

   END 20110705