<you are my shining
star>
見渡す限り広がる水。
深い青に囲まれて、進んで行く。
潮風が肌を凪いで行く。
高い空がだいだい色に染まり、もうすぐ日が水平線へ落ちようとしている。
デッキに一人、中の喧騒を聞きながらグラデーションの空を見つめていた。
南の島。
熱い風。
緑色の海。
ビデオ撮りの為にやって来たこの島だけれど、こうしていると日本人の一旅行者だ。
何て世界は広いんだろう。
陳腐な言葉かも知れないけれど、本当に今はそう思う。
ここは本当に広々としている。
こんな所にいるといつものあの日本という小さな国の中で
せかせかとコンクリートジャングルを動き回っている自分が馬鹿みたいに思えてくる。
ここの人達は本当におおらかでそれでいて強く、前向きだ。
まるで太陽みたいに、そのエネルギーをさんさんと浴びせてくれる。とってもパワフルだ。
陽が 。
落ちて行く。陽が。
今日最後の黄金色の輝きを放つようにきらきらとしている。
それは周りの海も、空も、雲も、巻き添えにして、あたりの景色を変えて行く。
引きずり込まれた景色達はそのぬくみを肌に感じながらも、次に来る静寂を温かく迎え入れる。
そうして景色はだんだんと塗り替えられ、黄金色と正反対の深い温かさを空にくれる。
陽が水平線に頬擦りすると、その対角はますます青さを増してその触手を伸ばし始める。
こんな時は総べてを忘れて、何もかもを解き放ってみる。
世間のモラルを脱ぎ捨てて、
自分という殻を破り捨てて、
名も無いひとつの生き物に、
どんなものにも変化できるゼロの生命体に。
呼吸を合わせて、
この波に鼓動を合わせて、
大気に溶ける。
指の先から糸をほどいて、
染まって行く 。
染めて行く。
今日最後の黄金色に。
薄く引かれて行く温かな青に。
空を仰げば、さっきまでの黄金色にもう薄いヴェールが敷かれている。
安らかな色に、雲は安息を覚える。
こうやって暮れて行く空を見た事があっただろうか。こんなにも美しい光景を見た事があっただろうか。
見落としていた。こんなにもきれいな瞬間がある事を。世界はこんなにもきれいに生きているのに。
胸が熱くなる。
沈んで行く夕日はこんなにもきれいで、染まって行く空気はこんなにも優しくて。
「きれいだね。」
声に気付いて振り返ると、そこに彼が居た。
青のグラデーションの中で黄金色の光を優しく受けて、彼はこちらへ歩いて来た。
そのまま目を細めて輝く黄金色の空を見つめた。
あぁ。
なんて美しいんだろう。
まるで一枚の絵のように、彼はそこで見つめている。
いつも近くにありすぎて気付かなかったもの。
当たり前すぎて見落としていた事。
それらは何てきれいなんだろう。
そしてたぶん自分はそれを知っていて、そのそばに近付こうとしてるんだ、きっと。
涙が出るほど痛い感動も、言葉が消えてしまうほど温かい感動も、きっとみんな自分のすぐ近くにある。
たとえば今、この瞬間。
太陽がどんどん海に引きずり込まれて行く。すると黄金色の輝きは海の上に長い一筋の道を作る。
波間に揺らめいてその道は傍らの彼を照らし、だんだんと短くなって行く。
空は青に包まれ、もはや幾分かの輝きを残すのみとなって行く。
彼は、と、横を見ると、何も言わずに黙っている。
その瞳だけがまぶしそうに短くなって行く道を見つめ続け、彼自身もまた、青のヴェールに包まれて行く。
静寂が訪れる。
安らぎの音が聞こえてくる。
それは繰り返し、繰り返し、子守唄のように、心地良く耳に届く。
黄金色が最後の輝きを放ち、薄く霧散してしまうと後には青のヴェールが、静かにその帳を降ろした。
やがて幾つかの星が瞬き、温かい光を放つようになると、彼はやわらこちらへ視線を返して笑んだ。
「何だか夢のようだね。」
夢覚めやらぬ彼の瞳は少し潤んで、もはやどこにも見付からない黄金色の輝きを見つめていた。
そんな彼を愛おしく見つめる。
この先、何があっても彼を見失わぬように、
その横顔を脳裏に焼き付けて、
これからもっと輝き続けるであろう彼を、
今輝き始めた大自然のプラネタリウムの中で見つめた。
END