EVERY TIME YOU WALK

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、LAZY KNACKって、大ちゃんとこの?」

 

 

振り返って聞いた博之に、マネージャーはこくんと頷いた。

 

 

「へー、楽しみだなぁ。大ちゃんも来るかな。」

 

 

「さぁ、それはどーかな。一応ゲストはLAZYだからね。」

 

 

「あ、そっか。」

 

 

苦笑して博之は視線を窓の外へと向けた。

 

NHKホールに向かう車の中でマネージャーがスケジュール確認も兼ねてそう言った。

今日は511日放送分のポップジャムの撮りがある。途中でインタビューがあるから答えを考えておいたほうがいいよと渡されたメモ。それを見ながら不意に聞こえてきた言葉。他の出演者の中に雑じってリストアップされた名前に思わず聞き返した。

 

あのソロ活動宣言から1年がたった。2人で最後に立ったポップジャムのステージ。

月日の流れるのは早くて、もう後しばらくしてしまえば、accessを卒業した日になってしまう。

去年の今頃は確かウツさんに呼ばれてコーラスのレコーディングに行っていた気がする。そう言えば、大ちゃんのアルバムにも参加したっけ。

あの頃はまだ先が見えなくて、1人でどんどん活動していく大ちゃんを少し悔しくも思っていた。

焦れば焦るほど見付からない答えの中で、ただ漠然ともっと歌っていたい、どこかで歌いたいと思っていた。

 

背伸びして買ったリズムマシーンも、今じゃ立派なオブジェ。

無駄な事もいっぱいしてしまったけれど、でもその総てが無駄じゃなかったって、今は思える。

長い間回り道して、今こうして歌っていられる。

貴水博之という存在が、今ここにこうして存在している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよーございまーす。」

 

 

小さくノックしてドアの隙間から中を覗き込んだ。

いち早くこっちへ気付いた彼が、机から飛び降りてドアを開けてくれた。

 

 

「おはよーごさいます。どーしたんですか?」

 

 

招き入れられて中に入ると、辺りを見回した。

 

 

「今日、大ちゃんは?」

 

 

「浅倉さんですか?浅倉さん、今日は来ないですよ。レコーディングがあるって言ってましたけど。」

 

 

「そっか。」 

 

 

苦笑して俯く。

もしかしたらと思って思わずLAZY KNACKの楽屋を覗いてしまったけれど、軽率だったなぁと反省する。考えてみれば、LAZYの2人とはあまり面識もないわけで、向こうにしてみれば、大ちゃんの元ユニットaccessのボーカリストって言うぐらいにしか知らなかったはずで。

 

 

「あ・・・。どーもお邪魔しました。」

 

 

 一言告げて、ここは退散するに限る。

 

 

「貴水さん。」

 

 

そう思った時、突然声をかけられて驚いて振り向くと、もう1人の彼が驚いた顔してこっちを見ていた。

 

 

「おい。ちょっと優奈。何で貴水さんがここにいるの!?」

 

 

小声で隣の彼に話し掛ける。

 

 

「貴水さんが来てくれたから。」

 

 

「何で教えてくんないんだよ、バカ。」

 

 

「なんだよ。お前、自分の世界入りまくってたじゃんか。」

 

 

2人のまる聞こえのやり取りが、何故かおかしくて笑った。

 

 

「え、貴水さん!?」

 

 

「ごめん。なんか似てるーって。

オレもこんなふうなことがあってさ。今の君みたいに大ちゃんに怒られた事あった。TMの人達来てたのに、オレその日歌う曲、エンドレスしてて気付かなくってさ、ふと振り返ったらそこにウツさんがいて、何で教えてくれないんだよーって、大ちゃんに。そしたら、今とまるっきり同じ答えが返ってきてさ。」

 

 

「聡は緊張するといっつもこーなんですよ。他の事何も見えなくなって。な。」

 

 

「うるせーな。」

 

 

ふてくされた彼が肘で小突く。

 

 

「オレも一緒。すぐ緊張しちゃう。君は平気なの?随分落ち着いてるけど。」

 

 

「平気じゃないですよ。これでも緊張してるんですよ。でも慌ててもどーしよーもないから、後はやるだけっていうか。

それにこいつがオレの分まで緊張してくれちゃうから。」

 

 

そう言って見せた笑顔が何故だか彼とダブって見えた。

 

 

 

 

              大ちゃん・・・。

 

 

 

 

「すいませーん。2人ともそろそろですからスタンバってください。」

 

 

「あ、はーい。」

 

 

呼ばれた声にバタバタと支度が始まる。

 

 

「それじゃあ、頑張ってね。」

 

 

手をひらひらと振って博之はその部屋を出ようとした。

 

 

「貴水さん。」

 

 

再度呼び止められた声に振り返る。

 

 

「浅倉さん、本当は今日、とっても来たがってたんですよ。でもスケジュールがうまくつかなくて。

それに必ず雑誌とかチェックしてますよ。たぶん今日のポップジャムも。だから            。」

 

 

「ありがとう。大ちゃんによろしくって、ありがとうって言っといて。」

 

 

こぼれそうになる涙をぐっと堪えて、笑って楽屋を出た。

 

 

 

 

             大ちゃん・・・。

 

 

 

 

思わず苦笑する。

彼も自分と全く同じ事をしていて。雑誌もTVもチェックは欠かさない。ラジオは全部留守録。忙しくて全部見られないけど、彼の考えている事をちょっとでも知りたいから。

 

 

離れてから気付いた事がたくさんある。

近すぎて忘れていた気持ち。

たくさんの宝物。

 

 

「あー、いたいた。どこ、行ってるんだよヒロー。インタビューするって。速く速く。」

 

 

慌てて走ってくるマネージャーに苦笑で答えて走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             え、大ちゃんは本当に尊敬できる人で          

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   END