<PARADISE>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁ〜いちゃん。ちょっと休んだら?」

 

 

ラジオのゲスト出演も終わり、やっと一息ついたところなのに大介の膝には作業用のMacが乗っている。

彼の場合、どこまでが仕事でどこまでが趣味なのか、その境目は曖昧だが、この場合、傍らのソファに寝転がった博之には仕事に見えても仕方がない。

折角仕事が早く終わったと言うのに、彼愛用のパソコンとにらめっこをして、ちっとも自分の方に関心を示してくれない。

一緒にいて16年、まるで空気のような存在になりつつあるこの空間を愛しくも感じているけれど、やっぱり何よりも自分に関心を示して欲しいと思うのは欲張りな男心と言うものか。

 

長い足を持て余し気味にプラプラと揺らしながら、じっと作業に熱中している大介を見つめる。

自分の熱い眼差しでどうにかこっちへ向けたいと思うが、敵もさるもの、博之の熱い視線なんてお構いなしに熱中している。これが16年の馴れ合いというのなら、少し哀しい気もしないでもない。

 

 

熱視線の通じなかった博之は一計を案じキッチンへと消える。

 

 

「ホラ、大ちゃん、一息入れなよ。」

 

 

そう言って差し出す彼のマグカップの中から香る甘く柔らかい香り。

今日は甘めのミルクティー。

その香りにようやく熱中していた彼が顔を上げる。

 

 

「ありがと。」

 

 

数回、目をしばたいて、やっと膝の上のMacを机の上へと置いた。もちろんその瞬間を逃す博之ではない。大介がマグカップを受け取るよりも早く、彼を自らの腕の中へと引き入れる。

 

 

「うわぁ!!」

 

 

大介が驚いたのは言うまでもない。

高く掲げたマグカップはそのままで、がっしりとした片腕であっさりと大介を包み込む。

 

 

「ちょっ、ビックリするでしょ。」

 

 

軽く睨みつけてみるものの、すでにご機嫌な博之の前では意味をなさない。

 

 

「いいじゃん、休憩しようよ。」

 

 

甘い香りを漂わせるマグカップに口をつけて、にこやかに微笑む。

 

 

「それ、僕の!!」

 

 

「あはは、ごめんごめん。」

 

 

博之の手からミルクティーを受け取り、離す気配を見せない腕の中で甘い香りを飲み込む。

その様子を博之は満足そうに見ている。大介が恨めしそうに睨みつけていてもお構いなし。

 

飲み終えたマグカップを大介の手の中から抜き取ると机の上に置き、そのまま大介をソファへと埋める。

 

 

「ちょっと、ヒロ!!」

 

 

ぎゅうっと抱きしめて、上目遣いに大介の表情を伺う。

 

 

「あれ?何にも感じない?」

 

 

突然の博之の訳の解らない質問にため息をついて、呆れたように呟く。

 

 

「重い。」

 

 

「ひど〜〜〜!!」

 

 

甘えたようにすりよって、今度は息もつけないくらいのキスの嵐。

 

 

「ちょっ・・・ヒロ、しすぎ!!」

 

 

両手で博之の身体を押し戻して、やっとの事で息をつく。

 

 

「も〜〜大ちゃん、野生が騒がないの?」

 

 

「はぁ???」

 

 

相変わらず突拍子もない事を言い出す博之に、呆れ顔の大介。

 

 

「おかしいな〜。」などとブツブツ呟いて、博之は大介の耳元に囁くように歌った。

 

 

 

「何にも言わずに抱き締めて 怒涛の勢いぶつけてよ。

何度でも繰り返し接吻けたら お互いの野生が騒ぐでしょう。」

 

 

「・・・呆れた。」

 

 

ため息と共に吐き出して、怒涛のキスをかわす。その腕の中から抜け出そうとするが、体格では全く敵わない。

 

 

「仕事はお終いでしょ?オレの事もかまってよ〜。」

 

 

情けない声を出す博之に、脱出を試みていた大介はチラッと博之を見て、

 

 

「最近疑惑の浮気だとか?」

 

 

歌の1節を歌った。

 

 

「ひど〜〜〜!!!オレ、浮気なんかしてないじゃん!!」

 

 

「どうだか。博之さんはおモテになりますから。」

 

 

「本気で言ってんの?大ちゃん?」

 

 

焦った顔の博之を楽しそうに眺める。

 

 

「オレって・・・飽きられてる?」

 

 

「そう。飽きられてる。」

 

 

「くそ〜〜〜!!棚上げしてやる!!」

 

 

イジワルな微笑みに噛み付くと、大介の楽しそうな笑い声が響いた。

ソファの上で2人、じゃれあいながら笑いあう。

すると大介の腕が博之の首に回される。それを合図に交わされるキス。

何も言わずに抱き締めあって、繰り返されるキス。

 

 

「大ちゃん・・・。」

 

 

「ん?」

 

 

「大ちゃんの怒涛の想いが聞きたいな。」

 

 

甘えた声でおねだりをする博之に、大介から深い接吻けをする。

 

 

「何度もしたら・・・お互いが少しは判るかもよ。」

 

 

艶めかしい笑顔で微笑んで、再び接吻ける。

 

 

「オレは野生が騒いじゃってるよ〜〜!!」

 

 

情けない声を出す博之に、変わらず微笑んで大介が言った。

 

 

「僕達、もっとお互いを判り合わなくちゃね。」

 

 

悠然と微笑んでキスを幾度となく交わす大介にされるがままになっている。

大介は味わうように、楽しむように博之にキスをする。

我慢の限界を迎えた博之が思わず叫ぶ。

 

 

「いっそ食べたい!!」

 

 

そんな博之をチラッと見て

 

 

「見つめ合っていれば 愛は壊れないんでしょ?」

 

 

「大ちゃ〜〜ん。」

 

 

生殺し状態の博之に大介は笑いを噛み殺し、やんちゃな歳下の彼氏を愛おしそうに見つめる。

 

 

「ねぇ、大ちゃん。」

 

 

哀願する博之に触れるだけのキスを落とし、確信犯的な微笑をつけて言った。

 

 

「野生を騒がせてくれたら・・・考えてもいいよ。」

 

 

結局、この微笑みに勝てた試しがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、博之が大介の野生を騒がせたのかどうかは・・・内緒の話

 

 

 

 

 

 

 

 

                 END