「大ちゃん、ここに置いとくわよ。」
「うん。」
小休止を取っていた僕に、忙しそうにアベちゃんが言った。
「今度の堂本兄弟の音源、ちゃんとチェックしといてよ。」
叱るような目つきで念を押すアベちゃんに
「了解。」
苦笑いで返した。
いつだったか、音源チェック出来なくて行った時、たまたまその場でアレンジする事になっちゃって、リハと本番、違うようにやっちゃった事、未だに根に持ってるんだから。
・・・まぁ、確かにやっちゃいけない事なんだけどね。周りの人だってビックリしてたし。
「さ、もうちょっとやっちゃおうかな。」
飲みかけのドリンクとさっきアベちゃんが置いていった音源を手にスタジオに戻る。いつも通り、PCの前に座ったけど・・・なんか、イマイチ。
「よし!!やるぞぉ !!」
自分に気合を入れてみたけど・・・、はぁ・・・ダメだぁ・・・。1回、白紙に戻した方が早いかも・・・。
椅子の背もたれに身体を預けてふと横を見ると、さっきアベちゃんから貰った音源が目に入った。
聞いておこうかな・・・。またアベちゃんに根に持たれても困るし。
気分転換も兼ねて音源をセットする。ラベルにタイトルの殴り書きが見て取れる
『あいの・・・かたまり・・・?』
流れ出したピアノの音。
バラード?なのかな。この音、わりと好きかも。
音を聞いていたはずなのに、気がついたら歌詞の世界に飲み込まれてた。
まるで僕の事みたい・・・。
苦しくて、
嬉しくて
好きすぎて
せつない・・・。
愛しい人への想いが怒涛のように押し寄せてきて、今すぐ抱きしめて欲しい。
気付くと何時の間にか静まり返っているスタジオ。知らないうちに曲が終わってたんだ。
それでも、僕の心の中はあの人でいっぱい。
最近忙しくて逢えない。別々の行動が多くて、時間もバラバラ。自分の仕事が落ち着いた時にはあまりにも非常識な時間で、電話も出来ない。
好きだから縛られていたい。
でも、好きだから、縛っちゃいけない。僕達は一度、そうやって失敗してるんだから。
相手の時間も自分の時間も大切にしなくちゃ。一緒に走っていくためには。だけど・・・。
いつまでたっても成長しない僕。
ホントはいっつも一緒にいたい。
僕の事、一番にして欲しい。
わがままな僕。苦しい恋なんてしたくないって思ってたのに。
・・・・・・嫌いになれない。
胸の内を苦しい想いが駆け回っている。
鼻の奥がツンとなって、僕はたまらずリピート再生のボタンを押した。こうしておけば自分で自分の情けない声を聞かずに済むから。
哀しいのはこのメロディのせい。
苦しいのはこの歌詞のせい。
込み上げる不揃いな息の隙間から、ポツリと漏れた僕の本音。かっこ悪いけど、大丈夫。この歌が総て消してくれるから
ヒロ・・・あいたいよぉ・・・。
次へ・・・