「ひ〜〜なまつりぃ〜〜、ひ〜〜なまつりぃ〜〜。」
おおよそ作曲家とは思えないような鼻歌を歌いながら、ウチの大事な大事な稼ぎ頭が嬉しそうに歩いて来る。
「アニーちゃ〜〜ん。」
ガバッと、もう家族の一員となっている愛犬に抱きついて、そのよく手入れのされた毛並みに頬擦りをする。
全くいい歳の男が、そのだらしのない顔・・・。
愛犬に対してさえこんななんだから、もし自分の子供なんかが出来た日には・・・想像するに恐ろしい。
まぁ、その心配はないと、言い切っちゃってもいいのかもしら・・・?
もう何を言っても無駄だと解っているけど、社会的にはどうなんだ?って首を傾げたくなる関係も気付けば長い事続いている。
私もだいぶこいつらに感化されたわなんて思う。まともな神経なんか持ってたら、このアホ2人には到底ついていけないんだもの。
半ば呆れながら、今日は何がそんなに機嫌を良くしてるのか、気になってぼんやりと見る。
「ねぇねぇアニーちゃん、はい!!」
そう言って大介の差し出した手のひらには・・・ひなあられ???
「ちょっと、何、食べさせようとしてんのよ。」
「ひなあられだよ。」
・・・やっぱり・・・。昨日あたりからいそいそと何か飾ってると思ったら・・・。
「だって今日は女の子の日でしょ?アニーちゃんもちゃんとお祝いしないとね〜〜〜。可愛い女の子ですものね〜〜〜。」
そう言いながら愛犬の頭を撫でる。当のアニーと言ったら、もうこんなパパの行動はいい加減慣れっこよとでも言うように大介のしたいようにさせている。全く、どっちが大人なんだか解ったもんじゃない。
大介は嬉々としてアニーにひなあられをあげている。
「・・・好きにしなさい。」
いい加減付き合うのもバカバカしくなってタバコに手を伸ばしかけて、ふと悪戯の虫が騒ぎ出した。
「大介、早くひな人形、片付けなさいよ。」
「え?まだ飾っとくよ。だって昨日飾ったばっかりじゃん。」
「あ、そぉ〜〜。アニー、かわいそうにね〜〜行き遅れるわよ〜〜。」
「えぇ!?」
驚いた顔の大介が酷い!と言うようにこっちを見ている。
「あら、知らないのぉ?ひな祭り過ぎて飾っとくと嫁に行き遅れるのよぉ〜〜。こんなに美人さんなのに、かわいそうね〜〜アニー。」
大介のおろおろした顔を見てるだけで・・・あぁ〜〜楽しい!!
「・・・いいもん!!アニーはお嫁になんか行かせないもん!!」
「あんた、どこの偏屈オヤジよ!!」
最終的にそれって、アンタ、ホントに末期よね〜〜。ちゃぶ台でもひっくり返しそうな勢いよね。全く笑っちゃうわ。
「ちょっとちょっと、娘はやら〜〜〜ん!!とかって言ってみてよ。」
「何それ!?」
「いいからいいから。」
「やだよ!!」
顔を真っ赤にして怒る大介をここぞとばかりにからかう。
これが一番のストレス発散なのよね〜〜〜。いっつも振り回されてるんだからこのくらいの事はして当然よね?
あんた達のお陰で、私がどれだけ要らぬ苦労をしてるか、ホント私って出来る女よね〜〜〜〜。
大介をからかっていると聞きなれた着メロが・・・これって・・・
「あ!!メール!!」
いそいそと携帯を手にする大介に、ウンザリとする。
「アンタもアニーと一緒にひなあられ、食べたら?」
はてな顔でこっちを見る大介の顔は・・・。
「鏡、見て御覧なさい。乙女ちゃんがいるから。」
「えぇ!?」
何が“えぇ!?”だ!!この乙女オヤジが!!!!!
全く、私が男っぽくなっちゃうのも仕方がないわよね。だってこんなに身近に下手な女より女っぽいのがいるんだもの。私のせいじゃないわよ。
ヒゲのはえた乙女なんて、気持ち悪いったらない。
・・・って、それに負けてる私もどうなのかしら?って感じもするけど・・・な〜〜んか大介といると、男と一緒にいるって気がしないのよね〜〜〜。まぁ、いいとこ弟?
仕方ないわよね、長年でそんな関係になっちゃったんだから。
はぁ・・・これからもこの乙女っぷりは変わらないんだろうな。
そう思いながら軽く溜息をつくと、こちらも仕方がないわよねって顔したアニーと目が合った。
女っていろいろ大変よね。
私はアニーとこっそり笑いあった。
END