09/02/27 11:22
From 大ちゃん
Sub 外!!!!!(゚o゚)
見て♪♪
今すぐ見て(>_<)!
−END−
?????
いきなり送られてきたメール。
こんな時間に、何だ?外を見ろって・・・。
オレの恋人からのメールは主語がない。時々首を傾げる事がある。以前、彼にその事を聞いたら、
「だって、ヒロだもん。解ってくれるでしょ?」
って確信犯的な笑みを見せられた。
まぁ、ビジネスメールとは違って、そこがオレだけの特権なんだって、大ちゃんの気持ちを汲み取れるのは、オレだけなんだって良いように解釈する事にはしてるけど・・・。
今日のは、一体なんだろう・・・。
オレは台本から目を離し、ブラインドを上げた。
「うわぁ・・・・。」
天空から降りそそぐ真っ白なもの。
「ゆき・・・だ・・・。」
久しぶりに見るその景色に、しばらく立ち尽くす。
もしかして、今年初なんじゃないか?
おそらくオレと同じように窓の外を見つめているだろう彼の事を思う。
彼の事だからきっと、かわいい子供たちを呼び寄せて、
「ほらぁ〜雪だよぉ〜」
とか良いながら嬉しそうに空を見上げてるに違いない。
オレはその光景をふと思い、携帯を開いた。
Tleee・・・
「はい?」
「大ちゃん?オレ、オレ。」
「ヒロ〜〜〜!?」
電話の向こうから嬉しそうな声が聞こえる。
「メール見たよ。すごいね。今年初?」
「ね。なんか嬉しくなってメールしちゃった。」
弾む声にオレまで嬉しくなる。受話器の向こうから愛犬をたしなめる小さな声が聞こえるところをみると、どうやらオレの推測は間違いじゃなかったようだ。その事に思わず笑みがもれる。
「ヒロ、今日はオフなの?」
「うんん。今日は午後から稽古。そろそろ出かけなくちゃなんだよね。」
「そっかぁ。車?」
「うん。今日は一人だからね。自分の。」
「気をつけてよ。雪降ってるし。」
生真面目な彼はそう心配そうに呟いた。
「大ちゃん、このくらいじゃ平気だよ。雨と変わんないって。」
そう言って笑うと、彼も笑った。
教習所の教科書みたいな彼は、そろそろ免許を取ってから1年が経とうとしている。最近では一人で遠出も増えてきたようだ。
しばらく他愛のない会話をしながら窓の外を見る。
耳元に感じる彼の気配。一本の電話で繋がるオレ達の距離。
「一緒に見たかったな・・・雪。」
ポツリと漏らす彼の本音。オレは思わず言葉に詰まる。
「一緒に、見てる、よね?」
「うん。・・・そうだね。」
お互い解ってはいる。けれどこんな時、ふと思ってしまう。
一緒に居たい・・・。
「ねぇ、雪が積もったらデートしよ。」
急に明るい声で大ちゃんが言った。
「デートって・・・。それにこの雪じゃ積もらないよ。」
「うん。だから積もったら。」
少し悲しそうに聞こえる声。
「ヒロが今、忙しいのなんか知ってるよ。でも、夢見るくらいはいいでしょ?」
「大ちゃん・・・。」
「雪が積もったらヒロとデート出来るんだって思ったら頑張れるもん。」
拗ねたように、そっけなく言われた言葉に胸が締め付けられる。
「・・・もう。何でそんな可愛いこと言ってくれちゃうんだよ。今すぐ攫いに行きたくなっちゃうじゃんか。」
彼はくすっと笑って、
「ホントにぃ?来てくれるのぉ?」
冗談めかしてそう言った。
ホントはすぐにでもこの人を抱きしめてあげたいのに・・・。
「お稽古、行ってらっしゃい。」
受話器の向こうからやさしい声が聞こえる。穏やかな、総てを受け入れている声。
「ヒロの魅力でいろんな人を堕としてメロメロにして来てよ。・・・ちょっと、悔しいけどさ。」
「大ちゃん・・・。」
この人は・・・。
オレの恋人はオレを喜ばせる事に長けている。どうしてこんなに心地が良いのか、正直オレにも解らない。でも、この人の空気が、オレをやさしい気持ちにさせてくれる。
オレは受話器の向こうで切ない気持ちで降る雪を見つめてるだろう愛しい人に言った。
「オレが堕とされるのは大ちゃんだけだよ。」
気持ち的にはウィンク付きの言葉をささやくと、耳元に照れたような声が返って来た。
「・・・ばか。」
「大ちゃんの周りにいっぱいオレの気持ちが舞い降りてるでしょ?」
同じものを見つめている彼に笑って言う。
「うっわぁ〜〜キザぁ〜〜〜。」
「いやいやいやいや、大ちゃんのかわいらしさには負けますよ。」
「・・・殺すよ。」
トーンの落ちた声。
「うわぁ〜〜〜こえぇぇぇ〜〜〜。」
「殺されたくなかったら、とっとと稽古に行って来い!!」
笑い声の彼が言う。
良かった、笑ってくれた。
「あはは。行ってきます。」
「うん。行ってらっしゃい。」
何気ないやりとり。こんな瞬間が愛しい。
オレはオレ達二人に舞い降りている白い結晶を見上げた。誰でもないオレと、この瞬間を分かち合ってくれた彼に・・・。
「大ちゃん。」
「ん?」
「愛してるよ。」
そうささやいて、彼の答えを待たずに電話を切った。
きっと今頃、電話に向かって悪態でもついているのかもしれない。この真っ白な雪に映えるような真っ赤な顔で。
それを思い浮かべるだけで気持ちが温かくなるのを感じて、オレは苦笑した。
「さぁ、仕事するか。」
オレは読みかけの台本を手に取ると、車のキーを持って部屋を後にした。
気持ちはいつだって、そばにいるよ。
ね、大ちゃん。
−END−