大晦日のライブまで後少し。やる気になった大ちゃんが新曲作る!って言い出して、もちろんオレだって異存はない。大ちゃんの作る音が有る限り、歌い続けるのがオレにとっての幸せで、むしろ大ちゃんがそう言える環境にいることの方が嬉しかったりする。作りたくても作れない、発表する場を持たなかったあの頃の事を忘れた訳じゃない。自分達で決めた事だし、妥協は出来ないと思ったからこそ選んだ道だったけど、正直堪えた。
だから今の状況は本当に恵まれていて、自由に振る舞う大ちゃんを見るのはオレにとっても嬉しい事なんだけど、これはちょっと、自由過ぎやしませんか…?
歌い終わってスタジオから出るとさっきまでそこに座ってたはずの大ちゃんの姿が見えない。おかしいなぁと思って隣の部屋を覗くと、テーブルを囲んでなにやら歓声が上がってる。覗き込むとiPadで昨日の写真を得意気に披露している。
今、オレ歌ってたんですけど…。
「ひどいよ、大ちゃん…」
思わず漏れた呟きにみんなが振り返る。
「あ、ヒロお疲れ。」
「お疲れじゃないよ!オレ歌ってるのに大ちゃん聞いてなかったの!?」
「聞いてた聞いてた。」
「ウソ!」
「だってみんなが月の写真見たいって言うんだもん。それにほら、ヒロならさ、僕が何も言わなくても僕の思った通りに歌ってくれるでしょ?心配してないもん。」
「そう言う問題じゃないじゃん!」
「え?ヒロも見たかった?写真。」
「見ない!!昨日一緒に見たじゃん!!」
「そうだよね。で?歌入れ終わった?」
「終わりましたっっっ!!」
付き合い初めて20年。アーティスト大ちゃんのオレに対する態度は存外ひどい。