目が覚めたらお昼を過ぎていた。ボーっとした視線のまま、それでも久しぶりに頭の中はすっきりした状態でひとりぽつんと取り残された部屋の中を見渡した。
いつの間にベッドに移動してきたんだろう。確か昨日はヒロが来て、そのままソファで話していたはずなのに。
そう言えば「ちゃんと寝ないとダメだよ」なんて言って僕をベッドに運んだ事をうっすらと覚えている。そのまま彼の腕の中で寝ちゃったんだろうか。

ヒロの腕の中、僕の一番好きな場所。好きだけど苦しくなる、場所。あんまりあの中に長くいすぎると、欲張りな僕はその先を求めてしまいたくなる。

長い付き合いの中、そういう事がなかったわけじゃない。ヒロがどういうつもりで僕を抱いたのか、いまだに僕は聞けずにいる。セックスフレンドに近い関係。恋人に限りなく近い・・・。
僕はどんな関係でもヒロとそうなった事を嬉しいと思うし、僕の中がヒロで満たされた瞬間を忘れようとは思わない。だけど元来男との関係なんて微塵も考えたことのないヒロにしてみたら、僕とのことはただの興味本位なのかも知れなくて。ゲームのように恋人ごっこのようなギリギリの関係を続けて、ヒロは楽しんでいるのかな。僕がどこにも行かれないのを解ってて・・・。

僕の心はこんなにもヒロに囚われている。だけど、それを口にしてしまえば、きっとこの関係は終わってしまう。その予感が僕を臆病にさせる。
ヒロの優しさは僕だけに向けられたものじゃない。心の中で何度もそう言い聞かせて、ヒロの隣に並ぶ女の子がいることを何度も思い浮かべて、僕はこの気持ちを封印する。ホントは僕だけだって言ってくれたら・・・そんな風に思いながら。女の子じゃない僕は一生ヒロの恋人にはなれないから・・・。
取り残されたベッドの中に残るヒロの香り。確かにここにいた証。

「ヒロ・・・。」

僕はもう一度その香りの中に身体を沈めた。

 

 

 

 

「大ちゃん、早く食べないとのびちゃうよ。」

ミーティング終わり、ヒロがご飯に連れ出してくれた。どこに?って思ってると、今日は寒いからさって笑って指差したラーメン屋。あまりにもらしくなくて思わず笑っちゃった。
ヒロでもこんなとこ来るの?って聞いたら、大ちゃん、オレの事誤解してるよって笑って店に入って行った。
カウンターに並んで目の前で働く店員さんを見ながらラーメンが出来上がるのを黙って見てた。
威勢よく運ばれてきたラーメンから立ち上る湯気。途端にお腹の虫が騒ぎだす。美味しそうなラーメンを写メってる間にお箸を取ってくれたヒロが笑う。

「大ちゃん、早く食べないとのびちゃうよ。」

パチンと箸を割って早速ラーメンを食べ始めたヒロ。

「ぅんまい!」

その笑顔を見たらなんだか途端に待ちきれなくなって箸をつけた。

「おいしい!」

「ね。」

ずるずるとラーメンをすすりながら頷くヒロにつられて僕もラーメンをすする。するとヒロの視線を感じた。

「おいしいもの食べてる時はそれだけで幸せだよね。」

ヒロが優しく言った。

「いっぱい幸せになって。」

ラーメン屋のカウンターでそんな事をさらりと言うヒロ。なんだかおかしくて、でもその気持ちが嬉しくて僕はそのままラーメンをすすった。もしかして、今日おいてあったあのおやつはヒロのチョイス?僕の大好きなお菓子、用意してくれてたの?
ベッドに残されたヒロの消えかけた温もりを僕が切なく思ってる間に、そんな事してくれてたなんて。ホント、ズルい男。
僕は隣にいるこの世で一番ズルい男をチラリと盗み見た。