10/05/20 18:09
From 大ちゃん
Sub 今すぐ
デニーズなう(^O^)/
−END−
「で、大ちゃん、何するか決めた?」
「う〜ん・・・そういうヒロは?」
メニューからパッと顔をあげて上目使いで聞いてくる。
"デニーズなう。"たった一言のメールでオレを呼び出した件の人はオレより先に来てたくせに今だメニューと奮闘中。
とりあえずと頼んだコーヒーはその存在を忘れられたみたいに飲みかけのまますっかり冷えてしまっている。
じめじめと何だか落ち着かない天気。今日は朝から身体がだるい。
無理難題を突き付けられたコーラスを取り終えて、今日はMix作業をするって意気込んでたはずだけど、彼から来たメールは・・・。
オッカシイなぁ〜なんて思いながら、もしかして何か相談事でもあるんだろうかなんて一応考えてみたりして、今度の舞台の台本読みを中断して来てみた結果、彼は真剣にメニューと格闘中だった訳だ。
なんか食べようよって誘われて、そういえば朝食べたっきりだったのを思い出した。
一度空腹感を感じると途端に無性に腹が減ってるような気がするのは何故なんだろう。
オレは渡されたメニューを開いて注文する品を決めたんだけど・・・。
「大ちゃん、どれとどれで悩んでんの?」
「うんとね。」
そう言って次から次へと指差す彼にオレは心の中でため息をついた。さっきからこれの繰り返しだ。
正直自分の空腹なんてどこかへ行ってしまった。
ファミレスは危険な場所だ。
彼はいつもならパッとメニューが決まる。だけど、それは単なる消去法で、彼の場合食べたいものを選ぶのではなく、『食べられるものを探す』だからだ。極度な偏食家の彼はたいてい何処へ行ってもコレのせいで最初から選択の余地がない。だからあっという間にメニューが決まるのだ。
ところが、ここは天下のファミリーレストラン。子供から大人まで幅広い人に対応出来るように作られている。
当然彼にとっても迷う余地が充分に出来ると言う訳だ。
しかも今日はスタッフもいない。完全にプライベートなのだ、遠慮する必要など全くない。空気を読んで早く決めようなどとは考えてもいない。
これはしくじったな・・・。
心の中でまたため息をつく。あくまでも心の中で。
少しでも表に出るような事があれば余計にややこしい事になるのは目に見えている。
「じゃあさ、大ちゃん食べたいもの頼んでさ、オレもそれ、つつかせて貰うって言うのでどう?」
「え〜だってヒロ、食べたいもの決まってるんでしょ?」
「いや、あんまり考えてなかったし、大ちゃんが言ったのもちょっといいかな〜なんて。」
メニューの端から目を覗かせてこっちの様子を伺ってくる。オレは心の中のため息を悟られないようにニッコリ。
「だって、いいの?」
「いいよいいよ!そっちも美味しそうじゃん。」
え〜なんて言いながらメニューをめくり続けてるけど・・・も〜なんでもいいから食べようよ・・・。
「ね、大ちゃん、決まったよね。呼んでいいよね?」
「ホントに?ホントに良いの?ヒロ、半分してくれる?」
「うん。半分しよ。オレ、お腹ペコペコだよ。」
笑ってそう言って見せるとやっと納得してくれたのか頷いて店員を呼んだ。
はぁ〜長かった。もうオレ、今ならなんでも美味しく食べられそうだよ。
お伺いしますとやってきた店員に彼は嬉しそうに注文をする。
「えっと、ハンバーグカレードリアと、このステーキ。ソース?ソース何がいい?ヒロ。」
急に話を振られて彼の差し出したメニューを覗く。
「ん?なんでも大丈夫だよ。・・・んー和風、かな。うん。それかガーリックも美味そうだね。」
オレの好みを言うと迷った揚句、ガーリックに決めたらしい。それにしても肉ばっかりだな相変わらず・・・なんて苦笑してると、
「それと〜コレと、さっきのセットにしてぇ。」
って、まだ頼むの!?
彼のオーダーは止まらない。半分って言ったけど、大ちゃんの好きなものでいいって言ったけど、頼み過ぎじゃないのか!?
メイン4品、しかもご丁寧に自分はパンでオレにはライスを付けて、そのうえさらにサラダとスープとサイドメニューを2つ。
しかも大ちゃんの好きなものって・・・確実に偏ってる。これは重いよ。
オレがうんざりした気分でいると店員さんが以上でよろしいですか?って。
全然よろしくないよ!!多いでしょ!!それなのに目の前で嬉しそうに頷いてオレに同意を求めて来る。思わず苦笑い。
復唱されたオーダーに目眩がしそう。メニューをお下げしますの声にオレは自分の見ていたメニューを差し出したんだけど、
「ひとつ置いておいて良いですか?後でデザート頼むんで。」
はぁ!?
誰が食べるんですか!?何処に入るんですか!?
「デザート、別腹だよね。」
こそっと言いますけどアナタ、別の腹だって膨れちゃいますよ、こんなに食べたら!!
案の定、店員さんもびっくりした顔でオレの方のメニューだけ持って離れて行った。
「ねぇ、大ちゃん・・・」
「よかったぁ!ヒロと一緒で!」
シートに寄り掛かりながらニコニコと言う。
「もうね、決められなかったの。だってどれも美味しそうなんだもん。」
え?それって・・・
「あのさ、Mixで何か相談事があったとかじゃないの?」
「?全然」
「だって今日、Mixするって・・・」
「うん、Mix中だよ。」
「今すぐってメールに。」
「うん、決まらなくってさ、ヒロに決めてもらおうかと思ってたんだけど、ヒロ、好きなもので良いっていってくれたから。」
「それって、もしかしなくても・・・コレの事?」
「そう!!だって一人じゃ全部は食べれないじゃん?ヒロがいてくれてホント良かったぁ。」
脱力・・・。
オレ、何してんだろ・・・。
目の前の人に文句なんて言えるはずもなく、冷静に考えればMixの段階まで来たらオレに相談なんかするような事はないわけで・・・。
オレって・・・。
「なぁに?もしかしてMix中に何かあったのかと思った?大丈夫だよ〜Mixは順調〜。大丈夫じゃなかったのは僕のお腹でぇす。」
・・・なんかムカつくんですけど。
ぶつける場所のないこの感情を噛み締めていると早くも料理がやってきた。
「わ!来た!!早く食べないとどんどん来ちゃうよ。さ、ヒロ食べてね。」
この人の笑顔はたまに悪魔の笑顔に見える。確か何日か前にも鬼に見えたのに、オレって・・・。
オレ達は永久不滅のユニット。この人のわがままが聞けるのはオレだけ!!この人がわがままを言うのもオレだけ!!
今日もオレは繰り返す、呪文のようにその言葉を。
頑張れオレ!!
デザートまではまだまだ遠い道のり。気合いを入れてオレは目の前にやってきた料理に手をつけた。
End