何となく、また来てしまった。
この前大ちゃんを誘って来た目黒川沿いのイルミネーション。月曜日ってこともあってか、この前よりも人が少ない気がする。
いきなり呼び出したオレにびっくりしながらも、このイルミネーションに目をキラキラさせてた大ちゃんを思い出す。
ホントは・・・クリスマスの事、忘れてた・・・。
忘れてたって言うか、もうそんなに間近になってたんだって急に焦った。
稽古とリハの毎日に気づけばもう目前だったっていう感じだ。
今年は・・・大ちゃんと一緒には過ごせないだろうな・・・って思ってたけど、やっぱりイベント好きな大ちゃんをガッカリさせるのはいやで、何となく言いづらかったっていうのもあるけど・・・。
そんな時にたまたま通りがかったこの道でこのイルミネーションを見つけて、大ちゃんにも見せてあげたい、いや、大ちゃんと一緒にここを歩きたいって思ったんだ。
調度この日クリスマスツリーの点灯式をやっていて、その光景がホントにきれいだったから。
ペットボトルで作ったツリーはライトを反射して七色に輝いてた。
こういうの、大ちゃん好きだよな〜なんて思ったらいてもたってもいられなくて、きっと忙しく作業中なんだろうなとは思ったけど、ソッコー電話してた。
だってさ、こういうのはちゃんと好きな人と見なきゃ。ヤローが一人で見たってしょうがないじゃん?
ピンクのイルミネーションはこの前と何にも変わらないはずなのに、なんだがちょっと切ない。
やっぱり今日は大ちゃんがいないからかな・・・。
この場所に来たら大ちゃんのぬくもりを感じられるんじゃないかなんて、ちょっぴり甘い期待をしてた自分が情けない。
あの時と同じ道をあの時を思い出しながら歩く。
カメラ片手に・・・ってまさか持ってくるとは思わなかったけど、ほんとにどこに行くにも持ち歩いてんだな〜なんて思いながら、大ちゃんの楽しそうな顔を見て歩いた道。
立ち止まって川を覗いたり、真剣な顔でカメラを構える横顔を思い出して思わず笑ってしまう。
楽しかったなぁ〜。今年のクリスマスを一緒に過ごせない事、ちょっとは仕事しろなんて言葉でオレの事気遣ってくれて・・・。ホントに大ちゃんって。
やっぱり、一緒に過ごしたかったなぁ・・・。無理なのは解ってるけど。
クリスマス過ぎて26日なら・・・って思うけど、あのクリスマスからお正月になる変わり身の早さにあっという間にクリスマス気分なんて吹き飛んでる。
ベルの音が琴の音に変わった街でいまさらジングルベルでもないよな・・・。
こんな商売、こういう時はホントに仕方がないって解ってても切なくなる。オレだって一人の男なんだぜ?恋人との時間ぐらい持たせてよ。
昔はクリスマスって頭を悩ませた時期だったけど、大ちゃんと過ごすようになって一緒にいることが特別なんだって思えるようになった。
プレゼントの数とか、ディナーの金額とか、オレも昔はバカだったな〜なんて思う。
そりゃあ確かに高級ディナーなんて食べられたら嬉しい。
でもそれは高級ディナーを食べることがイベントなんじゃなくて、楽しい思い出として心に刻むために選ぶ手段の一つでしかないって事に気づいたから。
それを教えてくれたのは大ちゃんだけど。
お互い忙しいからね、前々から予定を組むなんて事は不可能で、まして、これだけ大ちゃんの知名度が上がってる世の中じゃ、おいそれとどこかへ連れ出すことは出来なくて・・・。
そんなオレに大ちゃんはいとも簡単に言って見せたんだ。
「ただ高いだけの料理なんていらない。」
って。
実際大ちゃんはオレの手料理をものすごく喜んでくれた。
作れるものなんてたかが知れてるけど、それこそチャーハンとかパスタとか、ひどい時なんてただ握っただけのおむすびとか。それでもオレの気持ちがこもってるから美味しいって言ってくれる。その瞬間は僕の事をちゃんと考えてくれてるでしょ?って。
そんな大ちゃんだから、オレは何でもしてあげたいと思う。
大ちゃんに食べさせたくて料理のレシピがいくつか増えたりもしてる。一緒に暮らしてもきっと不自由しないよ。
そんなことをつらつらと考えながらイルミネーションの中を歩いていると、急に携帯が鳴った。
10/12/20 21:48
From 大ちゃん
Sub キラキラだぉヽ(^o^)丿
ピンクの花びらにまた会いに来ちゃったぉ!
ーEND−
え・・・?
突然の大ちゃんからのメール。
これって・・・これって・・・!?
添付されてきた写真を見て考える。どこだ、これ!!
ピンクのイルミネーションはどこも同じに見えてよく解らない。
また会いに来ちゃった・・・って事は・・・?
10/12/20 21:53
From ヒロ
Sub Re:キラキラだぉヽ(^o^)丿
もしかして、いるの?
−END−
10/12/20 21:55
From 大ちゃん
Sub カメラ小僧だぉ
広角ズームレンズでリトライ!!
この前普通のとマクロしか持ってこなかったんだょ(T_T)
−END-
やっぱり、このどこかに大ちゃんがいる!!
なんて偶然、なんて運命!!
オレは大ちゃんから送られてきた写メを頼りに走り出した。
「大ちゃん!!」
イルミネーションの中を端から端まで走ってやっと見つけた。大ちゃんはあのツリーの下にいた。
「・・・ひ、ろ・・・?」
カメラから目を離して信じられないって顔でオレを見る。
「・・・うそ、でしょ・・・?」
「ビックリした?」
息を必死に整えて大ちゃんに近付くと、呆けたままの大ちゃんは何度か瞬きをしてオレを見上げたまま固まった。
「大ちゃん。」
目の前で手をヒラヒラさせてみるとやっと意識を取り戻したみたいに小さく息をした。
「何でいるの・・・?」
「大ちゃんこそ。」
突然の偶然に2人して笑う。
約束したわけじゃないのに同じ時間、同じ場所にいたオレ達。やっぱりどこか繋がってるんだななんて嬉しくなる。
手近な柵に2人して腰掛けて、大ちゃんはカメラをしまいながら言った。
「稽古じゃなかったの?」
「ん、帰りにね、何となく見たくなっちゃってさ。大ちゃんは?」
「気分転換。」
笑いながらカメラを指差してみせる。
「そっか。」
まさかの偶然に話したい事も見つからない。だって逢えるなんて思ってなかったから。ただこうして一緒にいられることがまだ夢みたいで・・・。
多分、クリスマスが終るまで逢えないだろうなって思ってた。大ちゃんのスタジオに行けばいつだって逢えるけど、オレだって稽古があるし、大ちゃんだってイベントがあるって言ってた。だから会おうなんてなかなか言い出せないし、この前だって誘ったのは半分無理矢理だった。
クリスマス前に嬉しい偶然。先取りのクリスマスだ。
「ね、ちょっとならいいよね?」
「?」
「仕事、詰まってる?」
「詰まってるって言うか・・・うん・・・正直に言うと、ちょっと煮詰まり中。」
困ったような大ちゃん。まだまだやることがあるんだって言うから、大ちゃんのスケジュールってホント殺人的。
「ヒロだって、稽古に、もうすぐクリスマスイベントでしょ?」
「うん、まぁね。」
オレも稽古とリハの二本立てで、結構大変だな〜なんて思ってるけど、大ちゃんのそれに比べたら全然・・・。
ほんとに大ちゃんには頭が下がる。
それなのに大ちゃんに会いたいとかわがまま言うオレみたいな奴の面倒見てくれたり、どんなに忙しくてもちゃんと趣味の時間を持とうとする大ちゃんは、オレなんかには考えれらない。
オレが我慢すればちょっとは楽になれるのかな〜・・・でも、オレにはムリだし・・・。
だっていつだって大ちゃんに会いたいし、大ちゃんの事が気になって仕方がない。オレが目を離すとすぐにムリする人だしさ。オレぐらいにとは言わないけど、ちょっとはグータラしたってバチは当たらないと思うんだけどなぁ・・・。
「どう?順調?」
「稽古?リハ?」
「どっちも。」
「うん。順調・・・かな。舞台はやっとラストまでなんとかついたって感じだし、これからもっと煮詰めていくとこ。リハはね、ホント新しい試みだから、そういう意味では刺激的かな。」
「そっか。」
「ディナーショーなんて初めてだからさ。大ちゃん毎年ディナーショーやってたでしょ?どう?やっぱり普通のライブとは違う?」
「う〜ん・・・僕の場合はね、自分がピアノ弾くって言う緊張感もあるけど、アコースティックライブに近いかな。ご飯食べてるけど。」
「そっか・・・。」
大ちゃんの言葉に少しだけイメージが膨らむ。この前ツアーを終えたばかりで、こんなに立て続けに出来るなんて嬉しい事だけど、頭を切り替えないとダメだな。
何となくツリーを見上げながらの会話。
ホントはこのままずっと一緒に・・・とは思うけど、さすがにそれは出来ないよな・・・。
「ねぇ、大ちゃん。今日さ・・・仕事・・・。やっぱなんでもない。」
言いかけてやっぱりやめて・・・でも大ちゃんはそんなオレの気持ちなんてお見通しで。
「さすがに今日はちょっとムリかな〜。23日のアレンジまだしてないし。」
「23日?」
「そ。大阪行って来る。」
「えぇ!?知らないよ!!」
「あ、そうだっけ?大阪行くよ。クラブしに。」
「・・・そうなんだ。」
ほんとに忙しいんだな・・・大ちゃん。やっぱりわがまま言えないか・・・。
「ヒロは?イベント何処でやるの?」
「え?オレ?オレはね・・・原宿?」
「僕に聞かないでよ。」
「あ、ゴメン。確かあってるよ。うん。」
「そっか・・・。」
大阪と原宿じゃかぶりもしない・・・。
「遠いね・・・。」
「え?僕25日は赤坂だよ。」
「えぇ!?嘘!!近いじゃん!!」
ねぇねぇ、これだけ近かったらさ、もしかして偶然会えたりとか、終った後会えたりとか・・・。
オレはそんな思いに心を躍らせた。
「あ、ムリだからね。ヒロだって終った後打ち上げやるでしょ?僕もお呼ばれのイベントだからさっさと帰るわけにはいかないの。」
お見通しの大ちゃんはスパッとオレの躍る心をしぼませる。
「・・・ですよね・・・。」
小さくため息をついて苦笑する。
やっぱりムリか・・・。だよなぁ〜。オレだってさすがに抜けるわけには行かないだろうし・・・。
はぁ・・・本格的に今年のクリスマスはお預けじゃん。
多分オレは相当しょぼくれてたんだと思う。そんなオレを見て大ちゃんが笑いながらひとつの提案をした。
「メールか留守電!!」
「?」
「お互いライブが終ったらメリークリスマスの言葉を送りあうくらいなら出来るでしょ?そこで電話が繋がれば少し話す位なら誰も何も言わないと思うけど?」
にっこり笑って言われた提案はオレの心を再び躍らせた。
「うん!!電話する!!」
「寝る前でもいいよ。一日の終りに優しい言葉が聞けたらサイコー。でも飲んだ後じゃ絶対ヒロ忘れるでしょ?だからイベントが終ったら。ね。」
「うん。」
こういう時の大ちゃんはほんとに優しいと思う。
出来ないことはしょうがない。でも出来る範囲の中で楽しむことを提案してくれる。
ホント大ちゃんを好きになってよかったなぁ〜。
何となく名残惜しくて他愛ない会話を続けているうちにいきなりイルミネーションが消えた。
「あっ!!」
途端に夢から覚めたみたいな気持ちになる。
「もう終了なんだ。」
「一日中はついてないんだね。」
「ね。」
「帰ろっか。」
電源を落とされたら仕方がない。名残惜しいけど、やっぱりどこかで帰らなきゃならない。今日は2人とも車だし、一緒に乗っていく事も出来ない。
「次はお正月のミーティング・・・かな。」
「・・・かも・・・。」
って言うことはクリスマス明けだ。そう考えるとやっぱり切ない。
「お正月は一緒にいられるんだし、ね。」
宥めるような大ちゃんの言葉にオレはコクリと頷いて歩き出す。
「イベント、ガンバレよ。」
「うん。大ちゃんも。」
「ん。」
じっと大ちゃんの顔を見つめて・・・いいかな、いいよね?
「大ちゃん。」
オレは人通りの途絶えた瞬間を狙ってチュッと小さなキスを送った。