ん・・・うるさいなぁ・・・


人がいい気持ちで寝てんのに・・・


ジョン・・・?


お腹すいたの・・・?


もうちょっと寝かせてよ・・・


「ねぇねぇだぁ〜〜いちゃん。」



ん!?


もぞもぞ、ぎゅ〜〜〜って・・・!?

 

 


「・・・さい!!」

僕の覚醒し始めた頭でこの正体を探る。いや、探るまでもない、こんな事する奴は一人しか知らない。

「うるさい!!」

「や〜〜っと起きた〜〜。」

案の定、目の前ではへらへら笑うノーテンキな男前。また勝手に入ってきて。

「何だよ、も〜朝っぱらからぁ〜。」

抱きついてる大きな子供を引き離しながら僕は枕もとの時計を見る。
なんだよ、まだ11時じゃん。
昨日の飲みすぎでちょっと重い頭。今日はゆっくり寝てようと思ったのに、このバカサル!!

「ね、ね、朝だよ、大ちゃん。」

「あのね!僕はまだ夜!!」

「もう朝だって。今日ね、ちょっと遅い時間からなんだ〜。だから来ちゃった。」

「だからって言うな。」

「大ちゃん不機嫌〜〜。」

「あのね!!」

大きくため息をついてそれ以上の思考を止めた。どうせこの男に何言ったって通じやしない。言うだけムダだ。

「あのね〜、僕は〜昨日も〜お仕事だったの〜。」

「オレだって稽古だよ。今日もね。」

「昨日ひとつ仕事が終わったから、今日はゆっくりしようと思ってたわけ。」

「じゃあ調度いいじゃん!」

「何が!!」

「オレもちょっとだけゆっくりだし。」

そう言いながら冷たい足を僕の布団の中に滑り込ませてきて・・・。

「冷たい!!」

その足を蹴り出すと、またすぐに入ってきた。

「すぐにあったかくなるよ〜。」

「人の体温奪ってくな!!」

「う〜〜ん、大ちゃんあったか〜〜い。」

ぎゅっと抱きしめられて、人の首元に擦り寄ってくるこの甘えたがりな男前。
まったく・・・しょうがないなぁ〜も〜〜・・・。

「どのくらい?」

「ん?」

「何時に出てけばいいの。」

抱きしめられた腕の中、体制を変えながら聞く。

「あとね・・・1時間くらいはいれるよ。」

「ん、解った。」

今度は逆に僕がヒロに抱きついてその体温を奪う。

「大ちゃん!?」

「動くなよ。冷たい風入ってくるじゃん。僕は寝るんだからね!!」

下から睨み付けてやってさっさと目を閉じる。でも解る、ヒロのあの顔。

「うん!!ちょっとだけ一緒に寝よ〜。」

「ちょ、ヒロ!」

さらに抱き返されて僕はヒロの腕の中に再び閉じ込められる。

「贅沢だね〜〜〜。」

「え?」

「こんな天気のいい日に、こうしてグダグダしてるの。」

そう言って明るくなっている窓の方を眺める。

「そう、だね。」

ヒロの腕の中からちょっとだけ目を開けて同じように窓を眺める。

「ね、そう言えばジョンは?そろそろお腹すいたって来るはずだけど・・・。」

「あ、ご飯あげといたよ。あそこの袋のやつでしょ?ちゃんと2人とも美味しそうに食べてたよ。」

「ヒロがあげてくれたの?」

「うん。だってさ、大ちゃんとの時間を邪魔されたくないじゃん。」

「・・・用意のいい事で・・・。」

「褒めて褒めて。」

「褒めてないから!!」

他愛ない会話。さっきまで冷たかったヒロの足がいつの間にか僕と同じ体温になっている。

うん、こんな贅沢な時間も悪くない。

僕は寒がる振りでヒロの腕の中に潜り込んだ。

 

       

 

 

10/12/17  21:10
From ヒロ
SUb 今すぐ

大ちゃん今すぐ出られる?


  ―END―

 

 

       

 

 

何?今すぐ出れるって?
そんなこと思ってるといきなり携帯が鳴った。

「もしもし大ちゃん!今すぐ出てこれない?」

「何?今すぐって。」

「良いから良いから!!あのね、今向かってるから、そっち。」

「えぇ( ; ゜Д゜)」

「暖かいかっこしてきて!あ、信号変わるから!!じゃ後でね!!」

「ちょっ…!!ヒロ!?」

慌ただしく切れた電話はこっちの予定も聞かない一方的なもの。

「ちょっとさ〜こっちの都合はお構い無しなわけ?」

なんて言いながら顔がにやけちゃうのはしょうがないよね〜。
一体今日はどういうつもりなんだか、朝からヒロに振り回されてる。

ヒロに貰ったダウンじゃさすがに寒いかな〜。
そんな事を思いながら僕はいそいそと支度を始めた。

 

       

 

「うわぁ〜きれ〜!」

川辺りにまるで桜が咲いたみたい。ピンクのイルミネーションは季節外れの満開の花びら。

「大ちゃん、はしゃぎすぎ。」

笑いながら後ろをついてくるヒロに笑ってみせて、ほんの少しだけ歩幅を緩める。でもまたすぐに速足になる。
ピンク色のアーチをカメラ片手に走り回って、気付くとヒロはそんな僕を優しい目で見てた。

「気に入ってくれた?」

「うん!スッゴい!!桜みたい!!」

「でしょ!オレ、これ見たらもう絶対大ちゃんに見せなきゃって思ってさ。」

そう言いながらヒロは僕の手をぎゅっと握ってくれた。
川沿いに飾られたイルミネーションはこんな僕達の存在を消してくれる。みんなきれいなピンクの花びらしか見ていない。だからちょっとだけ、僕も心を許す。

「ありがと。」

「どういたしまして。」

手を握り合いながら顔を見合わせてクスリと笑う。

「実はね、春にお花見したでしょ?それと同じ川なんだよ。」

「え?」

「目黒川。だからこれずーっと歩いてったら、」

「ヒロん家の方?」

「そ。」

「へ〜。じゃあ走って帰れるじゃん、ヒロ。」

川面を眺めて笑うと「置いて帰らないでよ。」ってヒロが笑う。

「ほんとはさ、クリスマス、一緒に来たいけど、今年は・・・ごめんね。」

ヒロがすまなさそうにそう言った。
覚えてたんだ・・・。

「今年も、だろ。」

ツンとすまして言ってやる。

「あ、のぉ〜・・・いや、ね。・・・スイマセン!!」

頭を掻いて謝るヒロのおでこをパチンと弾いて、

「気にするなって。僕だって仕事だし。」

そう言ってヒロの手から離れた。

「ごめんね、ごめんなさい。」

離された手を少しだけ伸ばして僕を追いかけてきたヒロは、僕を捕まえる手前で躊躇う。

「あのさ〜。そこいらの女じゃない訳よ、わかる?そこまでクリスマスだからって言わないから。」

「大ちゃん・・・。」

「仕事けっこう!!少しは働いてもらわないとね!!」

「でも・・・大ちゃんイベントごと、いつも楽しみにしてるじゃん。」

僕より背の高い男が小さくなりながら聞いてくる。

「そりゃあね。美味しいものいっぱい食べれるじゃん。でもそれだけ。その分の埋め合わせはキッチリしてもらいますから!」

「ホントに・・・?」

「ホントに!お正月のイベントもあるし、いっぱいワガママ言うよぉ〜。」

ニヤリと笑って見せると、やっと安心したのか、それは怖いなぁと笑った。

しょうがない。仕事だもん。
イベント大好きだけどそこまでわがままは言えないし、僕だってイベント出るし。
ヒロが気にかけてくれてた事が解っただけで、今日、この景色を見せてくれただけでいい。

所詮僕らは男同士。
どこまでいっても世の中のカップルみたいに大手を振って歩くわけにはいかないし。こんなステキなイルミネーションに隠れてこっそり手を繋ぐくらいが精一杯。
それでも、ヒロは僕を大切に大切に、ものすごく優しい目で見つめてくれるから。僕は幸せなんだよ、ヒロ。


ピンクのイルミネーションの中でまるで普通の恋人同士みたいに手を繋いで歩いてる。
それがどれだけ幸せな事か、ヒロにも解るでしょう?だからこうして、ヒロは僕の手を繋いでくれてるんだよね?

優しくて、ホントは照れ屋な僕の大事な人。そんな顔するなよ。
僕はヒロの頭をワンコにするみたいにグワシャグワシャと撫でた。

「大ちゃん!?」

「そーゆー顔のヒロは嫌い。もっとノー天気に笑ってればいいんだよ。せっかくこんなステキなところでデートしてるんだから!」

僕からぎゅっと手を繋ぎなおして言ってやる。すると単純な男はみるみるうちに顔を緩ませて、僕の手を強く握り返した。

「そうだよね。そっか!ね。あはは。大ちゃんってやっぱサイコー!!」

「今頃気付いたか!浅倉様をなめんなよぉ!!」

わざとべらんめえ調に言うといつも通りのヒロが僕の肩を引き寄せた。

「ね、浅倉様!!かっこいいよ!!」

「だろ?」

「あっちにね、ツリーがあるんだって!行こう、大ちゃん!!」

そう言うとヒロは僕の肩を抱いたまま笑いながら歩き出した。
ピンク色のイルミネーションの中、僕はささやかな幸せを噛み締めてヒロに肩を抱かれたまま歩いた。