ファンの子に見送られ、たくさんの笑顔を貰ってオレは会場を後にした。
「お疲れ様でした。」
運転席に乗り込んだ林さんがエンジンをかけながらバックミラー越しにオレに言う。その一言でどっと疲れが襲ってくる。
終わっちゃったよ・・・。
今年最後のイベントも終わり、後は年明け早々にある芝居に専念する。一気に役者モード全開に。
今日も・・・大ちゃんからのメールは来ない。
オレ、何か大ちゃんを怒らせるような事しちゃったのかな・・・。
自分に自覚がないだけに不安になる。
こっちからメールを送っても何も返って来ないから、オレにはどうする事も出来ない。
クリスマス・・・一緒に過ごしたかった・・・。
あんなに浮かれてたのがバカみたいに、もう間もなく魔法の時間も終わろうとしている。
大ちゃん・・・メールちょうだいよ・・・。オレの事、無視しないでよ・・・。
単に忙しいのかも知れない。連絡する暇もないくらいに。
オレなんか単なる顔見知り。連絡する必要もないって思ってるのかも・・・。
それでも、一緒にクリスマスしようって約束した。
こんなオレでも少しは大ちゃんの中で友達くらいにはなれてたと思ってたのに・・・。
こんな淋しいクリスマスになるなんて・・・。
「貴水さん、疲れてたら寝てていいですよ。着いたら起こしますから。」
シンとしてるオレに林さんが声をかけてくる。
「あ・・・うん。大丈夫。」
いつもは興奮が抜けなくてライブの後も鼻歌を歌ったり、林さんにいろいろ話したりしてるオレがおそろしいほど静まり返っているからそんな事を言われた。
そうだよな・・・ライブ、楽しかった・・・よな。
それなのに、なんだろうこの虚しさ。さっきの賑やかな場所が嘘のようにオレの中は冷たく冷え切ってる。
ごめん、みんな。楽しかったのは嘘じゃないんだよ。でも、なんか足りないんだ・・・。
♪♪♪〜〜
いきなり鳴り出した着メロに慌てて携帯を取り出す。
ん・・・?誰だろう、この番号・・・。
080で始まる番号がディスプレイで点滅している。
「・・・はい。」
「・・・。」
「もしもし?」
「・・・。」
車で走行中の携帯電話は電波が入りずらい。相手の声が聞こえない。
「もしも〜〜し。」
「・・・。」
耳を澄まして向こうの音を聞く。電波が悪いわけじゃないみたいだ。遠くにざわめく音がする。外・・・?室内じゃない。
「もしもし?」
「・・・。」
「もしもし!?」
向こうの気配を探ろうとするけど・・・何だよ!イタズラ電話かよ!!
ムッとしながら何度か呼びかける。するとオレの耳に届いた小さな声。
「・・・くしゅんっ!!」
「・・・だい、ちゃん・・・?」
何故かその瞬間そう思った。
「大ちゃん!?ねぇ、大ちゃんだろ!?どこにいるの?今、外?大ちゃん!!」
必死になって呼びかけて見るけど、向こうからは何も返って来ない。オレはさっきよりももっと耳を澄ませる。
どこにいるの!?
・・・あ・・・。
「わかった・・・大ちゃん・・・。そこにいるんだろ?待ってて!!今からすぐ行くから!!絶対行くから!!」
オレは急いで彼の待つ場所へと向かった。
「大ちゃん!!」
オレがいつも腰掛けてる柵に大ちゃんの姿を見つけた瞬間に、オレはたまらず走り寄って彼を抱きしめた。
触れる髪が冷たい。
オレより一回り小さな彼はオレの腕の中にすっぽりと収まってしまう。最初はオレを引き離そうとしていたけど、もっとぎゅっと抱きしめたら、諦めたのかそれをやめた。
「大ちゃん・・・。」
そっと名前を呼ぶと小さな声がそれに答えた。
「・・・ひろ・・・。」
冷え切ってしまった彼の身体を離すのは名残惜しかったけど、苦しいと訴える彼の声にオレは腕をほどいた。
俯いたままの彼をじっと見つめる。
「電話・・・嬉しかった。」
もっと俯く大ちゃんにオレは優しく言った。
「オレ、大ちゃんに会いたかったよ。」
今までいろんな女の子に言ってきたセリフ。ある時は偽善で、ある時は打算で・・・。
でも今は違う。こんな気持ちでこの言葉を口にしたのは初めてだった。男の大ちゃんにこんな事言うなんておかしいとは思う。でも、言いたかった。今、オレの心の中にある本当の言葉。
−−−大ちゃんに会いたかった。
「電話・・・ごめんね・・・。」
小さな声で大ちゃんが言う。
「メールも・・・返さなくって、ごめんね・・・。」
「いいよ、そんなの。」
「・・・じゃま・・・したくなくて・・・。」
大ちゃんから漏れたセリフにオレの方がビックリする。
「じゃま・・・?」
コクリと頷く。
「彼女・・・クリスマス、一緒だったんだよね。邪魔したら悪いと思って・・・。」
オレは告げられた言葉に口をつぐむ。
「メールしたら、気にするかなって思ったから・・・。ごめんね。」
そう言ってやっと上げてくれたその顔は明らかに何かを取り繕っているように見えて・・・。
「ホントに?」
「え?」
「それ、ホント?オレに気を使ったって事?」
「・・・うん。」
「オレ、メール、すっごいしたよ。心配したし、もしかして疲れが出て具合悪くなっちゃったのかと思ったし・・・。」
「・・・ごめん。」
「一言メールくれれば良かったのに・・・。」
「・・・そうだ、ね・・・。ごめん。」
謝ってばかりの大ちゃんにオレはちょっと胸が痛んで、なるべく明るい声で言った。
「でも、今こうしていてくれるから、もういいよ。」
笑って見せたのに、何故か大ちゃんは沈んだままの顔でぎこちなく笑って・・・。
「大ちゃん・・・?」
オレはそんな大ちゃんの顔に思わず抱きしめようと腕を伸ばしたけど・・・その手を大ちゃんはすり抜けた。
「今日、ライブだったんだよね。お疲れ様。」
「う・・・うん。」
「楽しめた?」
微笑んでそう聞いてくる大ちゃんに、何故か胸が痛んで・・・。
「大ちゃんに・・・聞いて欲しかったよ・・・。」
そう漏らすと、大ちゃんはいつものようにニッコリと笑って、
「ありがと。」
そう答えた。
大ちゃんは笑ってるのに・・・淋しいよ・・・。オレ、ちっとも嬉しくない・・・。
「ねぇ、大ちゃん。」
「彼女は?見に来てくれたの?」
あぁ、オレ−−−−−−。
「そんな風に笑わないでよ。」
たまらず言った。
突然ヒロが言った。
僕・・・どんな顔してる・・・?
そんなの解んない。自分で自分が解らない。こんな事・・・。
ヒロの前だと僕はおかしい。ヒロの事になると僕は自分を見失ってしまう。こんな自分はいやだ・・・。
「ねぇ、大ちゃん。オレ、大ちゃんのそんな顔見たくないよ。オレ・・・。」
ヒロが言う。
「大ちゃん、オレの彼女の事、気にしてる・・・?」
その瞬間、ドクンと心臓が跳ねた。
気にしてる・・・?
気にしてなんか・・・。
ただ、僕は・・・。
「ねぇ、大ちゃん。大ちゃんがメールくれなくなったの、それからだよね?遠慮・・・してるって・・・そうなの・・・?」
ヒロの真っ直ぐな目が僕を見てる。顔を上げなくてもわかる。
「ねぇ、何を気にしてるの?気にしてたらメールもくれないの?」
ヒロの声が僕を責める。
「一緒にクリスマスしようって・・・言ったじゃん・・・。」
でも・・・だからって・・・。
「オレ・・・迷惑・・・?」
ぽつりと呟かれたヒロの声。いつもの明るさもない。
「迷惑なんて・・・。」
そんな事ない。僕の方が迷惑になるんじゃないかって・・・。
だってヒロには一緒に過ごしたい彼女が居る。それなのに、僕が先約だからって割り込めない。
そもそも元を正せば彼女の方こそ先約だったはずだ。約束はもしかしたらしていなかったかも知れないけど、でも、付き合っていればそういうのは暗黙の了解で・・・。
僕は必死に言い訳を探す。
「大ちゃん。」
そんな僕をヒロはじっと見つめて淋しそうな顔をする。
そんな顔をさせてるのは僕・・・なんだよね。
そんな顔しないで・・・。ヒロのそんな顔を見ると僕の方が苦しくなる。僕は・・・。
「クリスマスは・・・。」
僕はヒロに精一杯の笑顔を見せて言った。
「大好きな人と過ごした方がいいよ。せっかくたった1日しかないんだから・・・ね?」
自分で言った言葉に何故か苦しくなる。
たった1日・・・。
そのたった1日の為に僕達は踊らされてる。
たった1日が何でこんなに意味を持つんだろう。
その日に一緒に居られる事が、どうして幸せに思えてしまうんだろう。
一緒に居られない自分を・・・淋しいと感じてしまうんだろう・・・。
誰も居なくたって、ケーキを食べたりチキンを食べたり、そんな事は簡単に出来る。それなのに、一緒に食べたらどんなにおいしいだろう・・・って、ここにいて、笑ってくれたらそれだけで・・・そんな事を夢見るなんて、僕はどうかしてる。
サンタクロースを待ちわびてる子供じゃないんだ。現実ってものを知ってる・・・。
僕が必死に笑っていると、ヒロはため息をついて僕を見た。
「だから大ちゃんと過ごしたかったんだよ。」
さっきから泣きそうな顔で笑ってる大ちゃんにオレは言った。
「特別だから、オレは大ちゃんと過ごしたかった。」
「・・・ひ、ろ。」
「答え・・・出ちゃったんだよ。」
掠れた声で大ちゃんが聞く。
「こた・・・え・・・?」
オレは大ちゃんに頷いてみせる。
「大ちゃんに言うつもりなんてなかった。だけど大ちゃん、なんか誤解してるみたいだから・・・。」
そう言ってオレは大ちゃんの隣に並んだ。
「オレ、昨日、彼女に会ったよ。あの時、ゴメンって、そう言われて、もう一度やり直したいって言われたよ。オレ、素直に嬉しかった。彼女の事、好きだったからね。だからクリスマスにデートしようって言われて、仕事あったけど、彼女に会えるの嬉しかったし、大ちゃんとの約束、忘れたわけじゃなかったけど、ちょっとなら遅くなっても、最悪キャンセルしてもいいかななんて思ってたよ。オレから誘ったくせにね。
仕事が終って彼女と会った。だけど・・・なんか違うんだ。すっごい好きだったはずなのに、一緒に居てもちっとも楽しくなくて・・・。街の中でツリーを見たら、急に大ちゃんの顔が浮かんできて・・・離れなくなって・・・。オレ、彼女と話してても上の空で、頭の中大ちゃんでいっぱいで・・・よく・・・解んなくなって・・・気付いたら、ごめん!やっぱムリ!って言って彼女ほっぽってここに向かってた。
大ちゃんに会えるって思ったら、さっきまでのつまんない気持ちなんかどっか行っちゃって、すっげーワクワクしてる自分が居た・・・。」
「ヒロ・・・。」
「どうしてなんだろうって、オレ、考えたんだよね。いろいろ考えたけど全然解んなくって、でもさ、答えは簡単に出ちゃったんだよね。つまりさ・・・。」
オレは大ちゃんの方を見て言った。
「オレは、彼女より大ちゃんの方が好き・・・って事。」
信じられない言葉を聞いている。
僕の方を見て、なんでもないふうにそう言ったヒロはニコリと笑う。
「簡単だったんだよ、最初から。その事に・・・気付かなかっただけ。」
「でも・・・僕は・・・。そんなの・・・。」
「だからさ、言うつもりはなかったんだ。オレだって良く解んないんだからさ。実際、大ちゃんは男だし、そういう好きってあるのかな〜とかって思うし。でも一緒に居ると楽しいし、落ち着くし、なんかさ・・・怒らないで聞いてくれる?」
そうヒロは僕に断ってから言葉を繋いだ。
「大ちゃんって・・・可愛らしい人だなって・・・。守りたいって言うか・・・大切にしたいって言うか・・・まるで女の子に思うような気持ちでいる事があってさ・・・。オレって、変なのかな・・・とかって思うんだけど、別に他の男見て、そんな気持ちにはならないし、やっぱりそれは大ちゃんだから・・・?そう考えたらオレは大ちゃんを好きなんだって。男とか女とかじゃなくて、大ちゃんを好きなんだなって。」
照れながらそう話すヒロを僕は黙って見ていた。
信じられない言葉だった。
ヒロが僕を好き・・・?彼女がいるのに・・・?
ヒロの言ってることは良く解らない。そんなの絶対におかしい。
好意を向けられる事は嫌な気持ちはしないけど、そんなふうに・・・。
でも僕の中にあったもやもやしたものが消えて行く。コレはなんて説明したらいいの?僕は・・・。
答えを見つけられない。どこを探してもヒロのように答えが見つからない。だって僕は・・・。
「ゴメンね。変な事言って。」
そう言って僕から視線を逸らしたヒロの横顔を見つめる。
「電話、ありがとね。ちょっとだけど、大ちゃんとクリスマス出来て嬉しかった。」
並んで座っていたはずのヒロが柵から腰を上げる。
「じゃあ・・・また。って、こんな事言われた奴と会ってくれるわけないよね。でも、オレ、楽しかった。大ちゃんに会えてよかったよ。じゃあ・・・ね。ゴメンね。」
そう言いながら手を振るヒロ。後姿を見た瞬間に僕の心がざわめき始める。
「あ!そうだ!!」
ヒロがまた僕に近付いてくる。
「コレ。」
そう言って鞄から取り出したクリスマスのラッピングがされたもの。
「大ちゃんに、プレゼント。レゴブロック。」
僕の手にそれを乗せる。
「これからはコレで暇潰し、してね。」
僕に見せた笑顔を少し歪めて、
「オレの・・・代わりに、さ。」
淋しそうに笑う。
グッと僕にプレゼントを押し付けて、ヒロはクルッと背中を向けた。
もう何も言わない。もう僕を見ない。段々と遠くなって行く後姿。何故か涙が出た。
「・・・だ・・・ぃやだ・・・。やだ!!ヒロ・・・っ!!」
オレの名前を呼ぶ大ちゃんの声に振り返ると、ドシンと身体に衝撃を受けた。
「・・・だい、ちゃ・・・ん・・・!?」
オレのコートを掴みながら必死にオレの名前を呼んでいる。
「やだ・・・。そんな淋しい事言わないで!!」
食い入るようにオレを見つめたその瞳には・・・涙・・・?
大ちゃんが、泣いてる・・・?
「大ちゃん・・・?」
そっと声をかけると大ちゃんは唇を噛み締めたままオレを見上げた。
「なんで・・・大ちゃんが、泣くの・・・?」
「知らないよ!!泣きたくなんかないよ!!なのに・・・っ!!」
そう言ってしゃくりあげる大ちゃんがオレの胸をドンっと叩く。
「・・・ヒロのせいだ・・・。」
「オレの、せい・・・?」
「勝手に言いたい事言って、僕だって良く解んないよ!僕にも考える時間をくれよ!」
「大ちゃん・・・。」
「良く解らないんだ。ヒロといるの嫌いじゃない。ヒロの事考えると楽しい。ヒロの事、知りたいと思う。でも、それって好きとかそういう・・・。
彼女といるヒロを見た時、ショックだった。今も。ヒロともう会えないって思ったら・・・。
でも好きかって聞かれたら・・・答えられない。友達としては好き。でも友達の好きともどこか違う。友達なら、こんなにドキドキしない。僕、おかしいんだ。自分でもどうしたら良いか解らないんだ。ヒロは・・・この答えを知ってるの・・・?」
そう言って見上げてくる目が・・・。
あぁ・・・オレ・・・やっぱり大ちゃんが好きだ。
泣かないで欲しい。泣いてる顔も可愛いけど、いつでも笑っていて欲しい。ちょっと怖がりで、警戒心が強くて、でもすっごく優しい・・・。そんな大ちゃんが大好きだ。
ぽろぽろと零れる涙をオレはそっと唇で拭った。
「ヒロ・・・っ!?」
ビクッとして身体を引こうとしたけど、柵があってそれ以上は叶わない。
「いや?」
目を覗き込んで聞く。
「・・・こんな事・・・普通、しない。」
「いや?」
「・・・ビックリした。」
「いや?」
言葉に詰まる大ちゃんをそっと促す。
「ねぇ、大ちゃん。」
「・・・いや・・・じゃ、ない・・・。」
ポツリと落とされる言葉。オレは嬉しくなる。
「よかった!!オレ、そういう意味で大ちゃんの事、好きなんだよ。」
ぎゅっとそのまま大ちゃんを抱きしめると、身を捩って抵抗する
「や・・・!」
「いや、なの?」
腕の中の大ちゃんに視線を合わせて問いかける。大ちゃんは困った顔でオレを見上げて、
「こういうことは普通男同士ではしないもん・・・。おかしいでしょ・・・?」
歪めた顔で言った。
「でもオレ、大ちゃんと今はこうしたいんだ。」
「ヒロ・・・。」
「オレだって良く解んないって言ったじゃん。正しい事って何?男同士だとオレは大ちゃんを好きになっちゃいけないの?大切にしたいって思っちゃいけないの?でもさ、気持ちって勝手に動くものだよね?コレを好きになりましょうって言って好きになるもんじゃないよね?大ちゃんは違うの?」
「・・・そんな事言われても・・・。」
「ねぇ、大ちゃん。」
オレは大ちゃんにそっと告げた。
「答えはさ、もう、出てるんじゃない?」
「答えが・・・出てる・・・?」
目の前のヒロが笑いながら頷く。
「大ちゃんの気持ちは?」
僕の気持ち・・・?僕の答え・・・?
僕は・・・僕は・・・。
「先の事じゃなくて、今の気持ちは?オレがここにいたら迷惑?オレが大ちゃんをこういう風にしたら・・・。」
そう言ってヒロは僕をぎゅっと抱きしめる。
「迷惑?」
暖かい・・・。
ヒロの温もりが伝わってくる。僕はヒロの腕の中で首を振る。
迷惑なんかじゃない。本当はその逆。僕はこの温もりを失ってしまうことの方が怖い・・・。
止まったはずの涙が溢れてくる。その涙をヒロが優しく拭ってくれる。僕の名前を呼びながら・・・。
「大ちゃん・・・好きだよ・・・。」
呪文のように囁かれる言葉。僕はその魔法にかかってしまいそうになる。でも・・・。
首を振る僕にヒロはため息をついた。
「も〜頑固なんだから、大ちゃんは。解った!!オレが命令してあげる!大ちゃん!」
そう言って僕の顔を両手で挟んだヒロは、優しい声で言った。
「オレを好きになりなさい。」
「・・・っ、ヒロぉ・・・。」
後から後から涙が零れてくる。
「返事は?」
「・・・っ・・・。」
「大ちゃん、返事!」
「・・・はい・・・。」
僕は魔法にかかってしまったかのように頷いた。
「やった!!大ちゃん、大好きだよ!!」
無邪気に喜ぶヒロを見てたら、なんだか僕も嬉しくなる。
・・・いいのかもしれない。魔法にかかってしまったって思えば。
いろいろ気になることもあるけど、ヒロのこの嬉しそうな顔を見てたらそんな事、小さなことなのかもしれないって思えてきた。
僕はヒロに笑っていて欲しい。いつも明るく無邪気なままで。
そして、出来るなら・・・僕はそんなヒロと一緒にいたい・・・。
「ヒロ・・・。」
そっと呼んでみる。するとヒロは何?って顔で僕を見つめる。
「今日・・・一緒にいられて、よかった・・・。」
「うん!!クリスマスだもんね!!特別な日だもんね!!オレも大ちゃんを選んでよかったよ。」
「え・・・選んでとか、言わないで・・・。」
「大ちゃんがいいの!!オレは!!・・・これじゃ、ダメ?」
子供っぽく聞いてくるヒロに思わず笑った。
「僕も、ヒロがいいよ・・・。」
「大ちゃん!!」
ぎゅっと抱きしめられて、僕は心から温かくなっていくのを感じる。これがヒロの温もりなんだね。
僕はうっとりと目を閉じる。今は、今だけは全部忘れて・・・。
クリスマスはいつも夢見てた。キラキラ輝くツリーの光。ステキなご馳走。たくさんの夢が叶う夜。世界中が魔法にかけられるステキな一日。
ほんのひとかけらで良い。煌めく夢のかけらを・・・。
いつの頃からか忘れていた夢見る気持ち。君が・・・思い出させてくれた。僕にステキな魔法をかけて・・・。
「ヒロ。ステキなプレゼント、ありがとう。」
僕は煌めくツリーの下でヒロにそっと告げた。
Merry X'mas
So Sweet Illumination Magic!
END