頭が痛い・・・。

昨日の疲れなのか、それとも久しぶりにたくさん寝たせいなのか解らないけど、ズキズキと痛む頭を抱えて目が覚める。
遠くで電話が鳴ってる。家の電話。誰だろう・・・。
少し肌寒い部屋の中を鳴っている電話へと急ぐ。そんな僕の足元にすぐに寄り添ってくる大きなぬくもり。ちょっと待ってねって声をかけて僕は電話を取った。

「はい・・・。」

『やっと出た!!』

聞こえてきたのは馴染みの声。

『アンタ、何で携帯切ってんのよ。』

開口一番そんな苦情で始まったアベちゃんからの電話。
携帯・・・。
そうだ、昨日電源を落としたままだった。そんな事すら忘れてた。

『まぁ、今日はオフだからいいけどさ。家出る時はちゃんと電源入れときなさいよ。』

「ゴメン・・・。」

昨日のディナーショーの労をねぎらい、年末のカウントダウンについて2,3確認を取られ、業務的な話が終わると、

『大介、今日は?どうするの?』

とアベちゃんが一人でいるだろう僕を心配して誘いを入れて来た。

『家、来て、一応クリスマスでもする?ケーキ、買ってあるけど?』

こう見えても気遣い屋のアベちゃんは僕がイベント事を一人で過ごすのが本当は好きじゃない事を知っている。

「う、ん・・・。いいよ。今年は夫婦水入らずで過ごしなよ。僕がいたらお邪魔でしょ?」

そうわざと明るく言うと、電話口の向こうから照れてる声が聞こえた。

『バカな事言ってんじゃないわよ!!アタシにはクリスマスも正月もないって言うの!!』

「でも、ケーキ買ったんでしょぉ〜?誰と食べるためにぃ〜?」

クスクスと笑いながらからかうと、アベちゃんは届かない距離を怒声で埋めるかのように捲くし立てた。

「ゴメンゴメン。ウソだってばぁ〜。
誘ってくれてありがと。でも大丈夫だよ。今年は。」

『ホントに?』

「ホントに。これでも一応予定もあるしね〜。」

『ウソでしょ!?何よ、それ!』

「ふふ、内緒!」

半分疑いながらも納得してくれたアベちゃんと電話を終えると、待っていたかのように子供達が擦り寄ってきた。

「ゴメンゴメン、ご飯だよね。」

頭を撫でながら時計を見るともう時計の針は4時になろうというところだった。
アベちゃんにはああ言ったけど、今日の予定なんて・・・ない。・・・なくなった。

−−−一緒にクリスマスしよう!!

そう言った彼のあの笑顔は・・・もうなくなってしまった。きっと今頃は彼女と一緒に・・・。

淋しくなんてない。僕には大切な家族もいるし、それにこの歳でクリスマスって・・・笑っちゃうよね。
一人には慣れてる。一日過ぎればただの日。街はあっという間にお正月ムードに変わる。


カウントダウンの準備、しなきゃ・・・。


今日は家から出たくない。
誰かと過ごす事の出来る人達を見たくない。


僕は携帯の電源を落としたままで、スタジオに入った。

 

 

09/12/24 21:36
From ヒロ
Sub ゴメン!!

遅くなってゴメンね!!!
今、リハ終わった。
これからクリスマスしようよ(^-^)!!!!!!!!

いつもの場所で待ってるね(^-^)!!!!!!!!


  −END−

 

 

 

「はぁ・・・遅いなぁ・・・大ちゃん。」

一人ツリーの下で待ち人を待つ。
さすがにクリスマスイヴのこの時間、一人でずっとこんなところにいるオレはちょっと目立つ。
さっきからチラチラとこっちを哀れみの視線で見るカップルがいる。

まるでフラれた人みたいじゃん・・・。

そんな可愛そうなものを見るような目つきで見なくてもいいじゃん。ちょっと遅れてるだけなんだから。
オレも大ちゃんもこの日をずっと心待ちにしてた。
大ちゃんは口にこそ出さないけど、イベント事が好きっぽい。なんかワクワクするよねってこのツリーを見上げてた事を思い出す。

大ちゃん・・・早く来てよ。

昨日の朝のメールを最後に大ちゃんからのメールはない。昨日はきっとそれどころじゃなかっただろうし、気にもしなかったけど・・・。今日も朝から1本もメールがない。

もしかして・・・オレ、なんか怒らせるような事、した?

それとも張り詰めてた緊張が解けて、具合でも悪くなったのかな。
どっちにしても彼からメールがなければ何も解らない。


メール・・・してよ、大ちゃん。


都合が悪くなったんだったら気にしなくてもいいのに・・・。


「はぁ・・・さみぃ・・・。」


吐く息が白い。






09/12/24 10:30
From ヒロ
Sub どうしたの???

おつかれ、大ちゃん(^-^)!!!!!!!!

もしかして都合悪くなっちゃった???
仕事中・・・なのかな?

オレ、いつものところにいるからね。
ツリー、キラキラしてるよ(^-^)!!!!!!!!

早く大ちゃんに会いたいな(^-^)!!!!!!!!


  −END−

 

 

10時43分。

僕は後ろめたさから時計から視線をそらした。
仕事が終わったら連絡するって言われた。終わったら一緒にツリーの下でクリスマスをしようって・・・約束、した。

でも僕は・・・。

携帯の電源を入れられない。
多分ヒロからのメールはもう来てる。
こんな時間だもの。きっとヒロは今頃彼女と一緒で、僕には断りのメールを入れてるに違いない。
そのメールを見るのが・・・僕は・・・。


まさか、待ってたりなんてしないよね?


こんな寒い中、そうそう待ってるはずがない。
明日は大切なライブ。体調管理を優先するはず。
それに今頃はきっと・・・。


そうだよね?そうに決まってる。


僕は見たくもない時計を見てため息をつく。
時間が過ぎるのが遅い。いつもだったら作業に集中しちゃったらあっという間に何時間も過ぎてるのに、今日は全然時間が進んでくれない。さっきから5分おきくらいに時計を見てる。

どうしちゃったんだよ・・・僕。こんなの僕らしくない。大好きな音楽を作ってるのに、ちっとも気持ちが乗らない。
確かにそういう日だってある。でもこんなもやもやした気持ちじゃない。

「はぁ・・・。」

僕はマウスから手を離して椅子にもたれた。さっきからたった2分しか経ってない。
集中しなきゃ、集中しなきゃ!!僕には仕事がある。みんなの笑顔を見るために、今、僕がやらなくちゃならない事。


僕は気合を入れると、マウスを握り直した。

 

09/12/24 22:52
From ヒロ
Sub 大ちゃ〜〜ん

都合悪くなっちゃった???
ホッとして具合でも悪くなっちゃったのかな?

来れなくてもいいし、怒らないよ。
心配だからメールください。

  −END−

 

 

 

どうしたんだろう・・・。
大ちゃんから何の連絡もない。


ここに来てもうどのくらい経ったんだろう。よく解んないけど、身体の芯まで冷えてる感じがする。
突っ込んだポケットの中の携帯が震える様子もない。缶コーヒーでも温まらない。


大ちゃん・・・。

ここに大ちゃんがいないってだけでものすごく寒い。


何か来られない用事が出来ちゃったのかな?今頃急な仕事で・・・。

それならいい。仕事なら、仕方がない。でも・・・もし体調を崩してたりしたら・・・。
それに・・・仮に仕事だったとしても、あの大ちゃんが何にも連絡をよこさないなんて事が考えられない。
確かに自分から進んでメールをくれたりする人じゃないけど、それでもきちんと相手の事を考えてくれる優しい人だ、大ちゃんって言う人は。

何があったんだろう・・・。

オレは携帯を取り出して、今日何度目になるか解らないメールの受信をした。


1件もない。


受信ボックスを開いて、大ちゃんのメールを読み返す。ちょっとだけ心が温かくなる。
大ちゃんからの最後のメール。もしかして、これが原因?
よかったねって・・・。

メールじゃ埒があかない。
そうだ!!電話!!

そう思ってアドレス帳を開くけど・・・

「メアドしか聞いてなかったんだ・・・。」

赤外線が出来ないって言った大ちゃんはメールをくれたけど、電話番号は・・・。


なんだよ!もう、八方塞かよ!!


番号も知らない。大ちゃんの家だって知らない。会いたくても、声が聞きたくても、オレにはどうする事も出来ない。
オレは大ちゃんの何を知ってるんだ?
オレと大ちゃんを繋いでたのはこのメアドと・・・この場所。たったそれだけ。

「大ちゃん・・・。」

冷え切った心の底から彼の名前を呼ぶ。

「オレ・・・ここにいるよ・・・?」

見上げた先の煌めきは、あの時みたいにあったかくない。

「オレ・・・待ってるよ、大ちゃんのこと・・・。」

 

09/12/24 23:37
From ヒロ
Sub (no title)

大ちゃん、ホントに何かあった?
大丈夫?

遅くなってもいいからメールください。

  −END−