「あれ?大ちゃん?」

「あ、ヒロぉ?」

何の約束もしてない。たまたま早く帰って来れて、会えたらいいな〜ってくらいに公園を覗いた。そしたら大ちゃんに会えた。これって、繋がってない?

「何?今日はもう終わり?」

いつものように自分の方にワンコを引き寄せながらベンチへ座る。

「うん。今日は鬼チームだったからね。」

「は?鬼チーム?何それ?」

ハテナ顔で聞いてくる大ちゃんにオレは今度の舞台のチーム分けについて話した。
まぁ、オレだって鬼なんだけどさ、人間側だから必然的にそっちの人達との絡みが多くなる。
そんな稽古の進行に合わせて誰からともなく鬼チーム、人間チームと呼び名が出来てて、今日は後半、鬼チームの稽古になった。

来月の舞台は芝居も歌もカッコいい!オレも今からすっごい楽しみだ。オレにとっても始めてのカッコいい役だし、気合も入りまくり。

「へ〜ヒロの舞台か〜。」

「ね!!大ちゃん、見に来てよ!!オレの本気、見せちゃうからさ!!」

大ちゃんが見に来てくれたら、オレ、スッゲー頑張っちゃうし!

「ホント?僕結構うるさいよぉ〜。」

そう言って笑う大ちゃんに絶対来て!とねだる。

「僕、舞台とか結構好きでね、オペラとかバレエとか良く見に行くけど・・・。」

「えぇ!?オペラにバレエ!?オレ、絶対寝ちゃうよ〜〜。」

「楽しいよ〜。」

ニコニコと笑って大ちゃんは言うけど・・・敷居高すぎだから・・・。

「大ちゃんってさ、何か高級だよね・・・。セレブって感じ。」

「はぁ?セレブ?そんな事ないよ〜。僕、水道屋のセガレだよ。」

「マジで!?」

大ちゃんの口から『セガレ』なんて言葉が出てビックリする。

「全然セレブじゃないでしょ?下町っ子だしね。いつでもうるさいぐらい騒がしくって、隣との境なんてあってないようなもんだったしね。」

へ〜・・・意外・・・。大ちゃんってなんか楚々として育てられたって感じがしてたけど・・・。

「それにね、親父は職人さん?ってやつ?何でも自分ですぐ作っちゃうの。そう言えばあんまり物を買ってもらった記憶もないなぁ。作ってもらった記憶はたくさんあるのに。何でもまずは自分で考えて作ってみろって言う人だったからね。」

「へ〜〜。すごいお父さんだね。」

「でしょ?」

そう言って大ちゃんは小さな頃の事を思い出したのか嬉しそうに笑う。

「そう!!いつのクリスマスの時だったかな?プレゼントでレゴをくれた事があってね。僕、すっごい嬉しかったなぁ。」

「レゴ?」

「アレ?知らない?レゴブロック。家とか作れるの。いろんな部品買い足していくとね、いろんなものが作れるようになって。子供の頃はさ、その部品が増えていくのが嬉しくてね。何かあると親父が一個ずつ買ってくれるの。誕生日とかクリスマスとか。でも僕に買ってくれたはずなのに、一番最初は俺が作ってやるって親父の方が僕より先に楽しんでてさ。あぁ〜懐かしい!!すっごい遊んだな〜。今、どこにあるんだろう。」

小さい頃を思い出しながら話す大ちゃんを見て、オレはその小さかった頃の大ちゃんを思い描く。
元気に走り回ってる姿。一生懸命何かを作ってる姿・・・。きっと可愛い子供だったんだろうなぁ・・・。

「ね、全然セレブじゃないでしょ?」

「うん。なんか安心した〜。」

オレがそう言って笑うと大ちゃんは大袈裟だよって言いながら

「ちっちゃい頃なんてそんなに大差ないって。」

って優しく笑った。まぁ、そんな事言ったら、オレの方が変かも・・・。

「オレさ、ちっちゃい頃、良く女の子と間違われてたんだよね・・・。」

「えぇ!?ヒロが!?」

「そう・・・。」

オレをマジマジと見る大ちゃんに苦笑して見せる。

「オレさ、三男なんだよね。で、ウチの母さん、どうしても女の子が欲しかったみたいでさ。そんなとこに生まれて来たのがオレでしょ?小さい頃はこんなオレでも可愛かったらしくてさ、良く女の子っぽい格好させられたらしいんだよね。だからオレの事、女の子だと思ってた人もいたみたいで・・・。オレ、全然覚えてないんだけどさ。」

「へ〜〜、ヒロがねぇ・・・今はこんなにカッコいいのに。」

「カッコいい?オレが?」

「うん。カッコいいよ!ヒロは。」

「そう・・・かな?」

「うん。」

なんか・・・大ちゃんにそんな事言われるの・・・嬉しいかも。思わず顔がにやけそうになる。
大ちゃんってさ、こう言う事、すっごい普通に言うんだよね。まぁオレはそんな大ちゃんを可愛いって思っちゃうんだけどさ。
そんな事を考えてるとポケットの中で携帯が震えた。

「あ・・・ゴメン。」

そう言って携帯を確認する。何だ、メールか。
オレはそのまま携帯を閉じた。

「いいの?」

「うん。メールだった。」

そう言って笑って見せると、大ちゃんが嬉しそうな顔でオレを見てた。

「それ、つけてくれてるんだ。」

指差した先には二つのキーホルダー。

「あ、うん!つけてるよ〜。」

そう言って揺らしてみせる。

「ほら、こっちがアニーだよぉ〜。」

オレに一番近いところに寝そべっていたアニーの頭を撫でながら嬉しそうにワンコに話し掛ける。

「ヒロもだいぶ慣れたでしょ?」

「う・・・まぁね。このくらいなら平気。」

そう言いながら恐る恐る頭を撫でて見せる。その様子を見てる大ちゃんの顔が嬉しそうに崩れるのがたまらなく可愛くて。

大ちゃんの愛犬家ぶりはこんなオレにも影響を与えてるのか、もしかして犬って可愛いかも・・・って思い始めてるオレがいる。
まぁ、これだけ見てれば慣れるって言うのもあるのかもしれないけど、金色の2匹に関しては結構平気になった。
大ちゃんの言うように大人しいし、なんかこの2匹に関しては、人生を達観したようなところがある。オレの方が子供だな〜〜って・・・。触らせていただきます!!って頭を下げちゃいそうな感じ。それに比べてジョンは・・・。

オレにとってもコイツはちょっと特別。靴を齧られた時の小さいイメージがあるせいか、オレより年下!!って感じがして、何となく張り合ってしまう。
いや、犬と張り合うってのもどうかと思うんだけどさ、多分コイツもオレの事、そう言う目で見てるだろ!って思う事が度々ある。
オレ、犬にバカにされてんのかな?急に飛び掛ってくるのさえなければ、コイツにも結構慣れた。

「はぁ〜・・・今年も終わりだねぇ〜・・・。」

「ちょっと!じじむさいよ、大ちゃん。」

「うっさいなー。」

ポツリと漏らした言葉に思わず笑ってしまう。

「その前にさ、クリスマスがあるじゃん!!オレ、すっげー楽しみなんだよね!大ちゃんと一緒だから、きっと楽しいよね。」

「解んないよ〜〜。」

「絶対楽しい!!楽しくさせるよ!!オレが!!」

勢い込んで言うオレに大ちゃんは、そんなに必死にならなくてもとケラケラ笑った。
ホント、大ちゃんと過ごせたら楽しいクリスマスなのは間違いないのにな。

「あぁ〜早く来ないかな〜クリスマス!」

「そうだね。」

オレ達は揃って煌めくツリーを見上げた。