「さすがにこの時間じゃいないか・・・。」
仕方なく買っておいたペットボトルのお茶を彼の分まで飲み干した。
稽古終わりのこの時間。息抜きしようなんて言っておいて、昨日はここに来れなかった。
もしかして、待っててくれたんじゃないかなんて思うと、ちょっとだけ胸が痛む。
まぁ、そんなことないか。友達じゃないんだし、ただの通りすがりの・・・気まぐれ、と思われてるかも。
最初は彼なんて目に入ってなかった。大きな犬が3匹。オレにはそっちの方がよっぽどインパクトが強くて、正直、話し掛けられててもそっちを見る余裕すらなかった。
それが彼の愛犬を触ってみるかと聞かれ、初めて『彼』を認識した。なんておそろしい事を言い出すんだ!って思って見たのが、オレが彼をちゃんと見た初めてだった。
小柄で、被った帽子の隙間から見える金色の髪。おおよそ、3匹を引き連れて歩くには小柄すぎやしないかと、大きな犬にうずもれてる彼を見てそう思った。
食われそうじゃん・・・。
あんな大きな犬に噛み付かれたらひとたまりもない。
オレなんかあんな中でニコニコしてるそっちの方がおそろしい。
これが愛犬家と言う奴なのかと、絶対に相容れないだろうその人をマジマジと見た。
彼の愛犬はきちんとしつけをされているらしい。オレの足元に擦り寄ってきた大きな薄茶色の、アニーと呼ばれたメス犬は、オレをそれ以上怖がらせるような事はしなかった。
こっちをじっと見られたり、急に動いたりされなければ何とか大丈夫だ。
オレが大型犬が苦手なのは立ち上がったらオレよりでかいだろう身体で圧し掛かられたりするからだ。
それさえなければ身体を撫でるくらいの事は出来るはずだ。仕事で寄り添った事だってある。決して全くダメだと言う訳じゃない。ただ自分から進んで手を出そうと思わないだけだ。うん!そうだ!!
ネオンのついたツリーを黙って見上げる。
この季節はどうもいけない。1人は余計に身にしみる。
「はぁ・・・。」
誰も隣にいないこの冷たさが、忘れていたあの頃の事を思い出させる。
もう・・・吹っ切れたはずなのにな・・・。
失ってしまった事が切ないんじゃない。もう、それは終わった話だ。
彼女だけじゃなく、他にもこの時期に別れた子はいる。いちいちあげたらキリがない。よりを戻したいとか、やり直したいとか、そんな女々しい事を思ってるんじゃない。ただ・・・
淋しいんだ。
「また今年も1人、か・・・。」
結局女々しいんじゃないかと自分を叱咤して、オレは立ち上がった。
明日は、彼のいる時間に来れますように・・・。
灯りのついた一人ぼっちのツリーに祈りを込めて、オレは公園を後にした。