「はぁ〜疲れたぁ〜」
スタジオの外にある長いソファに身を放り出して長い息を吐き出す。
クリスマスイベントまで後少し。大詰めになってきたリハーサル。手応えは感じている。当日の事を考えると楽しくて疲れなんか吹っ飛ぶ。そうは思っても40を迎える身体には着実に疲労が溜まっていて・・・
このくらいの時期が1番しんどいんだよな〜。
当日の流れがやっと身体になじんできた。不安な点も消えてきた。精神的にちょっと余裕が出てきた。このままステージに乗ってもいいものが出来るに違いない。けれど、本番まではいましばらく時間がある。そんな時。思い付いたように襲う、疲労感。
「はぁ〜。」
再び長い息をついて伸びをする。ポケットに入れてあった携帯を取り出して開く。
着信なし。
今日も彼からの連絡はない。
忙しいのかな。オレより一日早いしね。今年ももしかしたらクラシックにてこずっているのかも知れない。胃が痛いって、あの大ちゃんが胃を摩ってみせるくらいだから、相当なプレッシャーなのかも知れない。
また無理してないだろうか。ちょっと目を離すとすぐ新しい事に手を出そうとする。懲りない性分。それでただでさえ少ない睡眠時間をさらに短くするんだから、全く。まぁ今は1000日100曲なんてやってるから、少しは安心していられるけど。それだって普通に考えたら、尋常じゃない。
「はぁぁ〜〜。」
何度目かのため息。
最近、ゆっくり会えてないなぁ。お互いリハーサルがあるから仕方がないことかも知れないけど・・・。
いい加減、大ちゃん切れだよ。
いちゃいちゃしたいなぁ・・・。
二人でまったりテレビでも見て、ゲームとかやっちゃって、ただ抱き合って眠る。そんな時間がオレには必要。
充電させてよ、大ちゃん。
いつの間にか暗くなった携帯のディスプレイ。着信履歴を開けば、すぐに見つかる彼の名前。
電話、してみようか?
ボタンに手を置いて思い留まる。
だってきっとリハ中。オレだって休憩中。
きっと今、大ちゃんの声なんか聞いちゃったら、オレ、ヤバイかも・・・。
08/12/20 19:23
From ヒロ
Sub 大ちゃ〜んo(^-^)o
リハ、頑張ってる?(^0^)/
オレも今、休憩中(v_v)
今日、終わったらそっちに寄ってもいい?
長居はしないから。
充電切れそうφ(.. )
−END−
・・・24:38・・・
「遅くにゴメン。」
そう言って僕の大好きな人がやってくる。
充電が切れそうって言ってたその言葉通り、来るなり僕を抱き締めて
「あ〜〜大ちゃんだ〜。」
なんて、嬉しそうに呟く。そのぬくもりにひどく安心する。
「予定より遅くなっちゃったよ。ゴメンね。スタッフとご飯食べに行ってきたからさ。」
「平気だよ。僕にとってこの時間はまだまだ活動時間。」
そう言って笑ってみせると、くしゃっと顔を崩して苦笑する。
「ホント宵っ張りだよね、大ちゃんは。」
「ヒロがお子様時間過ぎるんだよ。」
なんとなくくすぐったくて、ヒロの腕の中から抜け出そうとする。
そういえば、ホントにヒロじゃないけど久しぶり。ディナーショーの準備におわれてて、それどころじゃなかったけど、こうして会ってしまうと急に自分の充電も切れていた事に気付かされる。
「早く、中入ったら?」
「うん。おじゃま。」
そう言いながらも僕を離す気なんてない。
「実はさ、今、大ちゃんのラジオ聞きながら走ってきた。」
「えぇ?やだ、もう。」
「だって・・・オレ、大ちゃん欠乏症だったんだもん。声だって感じてたいんだよ。」
「ば〜か。」
臆面もなく言う彼に顔が熱くなる。
こういうところ、ほんとに何度やられても恥ずかしいもの。平気で出来ちゃうヒロを尊敬する。
部屋に行くと、さっきまで練習してた譜面が散らばっている。
「ゴメン、ちょっと片付けるね。」
そう言って手に取った譜面をヒロが覗き込む。
「何?今年はコレなの?」
「うん。コレが結構曲者でね〜〜。」
何十回とにらめっこをした譜面とまた睨み合う。
「ねぇ、聞かせてよ。」
「えぇ〜〜!?」
「お願い!!」
手を合わせてお願いされたら、断りづらい。仕方なく椅子に腰掛けて、譜面をセットする。
「まだ、ちょっと練習不足だよ。」
ニコッとヒロは笑って、僕の後ろから譜面を鍵盤を覗く。僕は一呼吸置くと、今年の曲者を引き始めた。
ここの指使いが・・・ここの持って行き方が・・・とか気になるポイントを何個か確認しながら弾き終えると、ヒロがため息をつくように
「きれいな曲。」
と言った。
「大ちゃんらしいな、やっぱり。」
「え?」
「他の人が弾いたのも聞いたことあるけど、これは大ちゃんっぽいよ。何か良い。」
そう言いながら僕を後ろから抱き締めてくれる。
「ありがと。」
ヒロの腕に包まれながらそっと呟く。
なんだか満ちていく。穏やかな時間が僕を満たしてくれる。
忙しくて、ちょっと余裕がなくなってたかも。
ヒロといるとなんて時間が柔らかいんだろう。
好きだな・・・こういうの。
ヒロは何も言わない。僕も何も言わない。でも、伝わってくる言葉。
疲れてない?
無理してない?
・・・逢いたかったよ。
こうしたかったよ・・・。
鼓動が伝えるたくさんの言葉にゆっくりと頷く。
・・・僕もだよ。
身を任せてぬくもりを伝え合う。
「ヒロ。」
そっと呼んでみる。
「ん?」
小さな声が返ってくる。
満たされるよ、本当に。
僕はそのままヒロの腕の中でそっと目を閉じた。
20081220 END