<サイン>

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁ〜やっぱりだいぶ寒くなったね〜。」

 

 

 作業の合間、息抜きも兼ねてのお散歩に、嬉しそうにジョンが吠える。

いつになったら寒くなるんだろうなんて思ってたのも束の間、気付けばあっと言う間に冬の気配。

日も落ちて暗くなった空にはキラキラと瞬く星の姿。

 

 

「ほら、ジョン君。もうあんなにお星様が出てるよ。」

 

 

 空を見上げながら歩く僕をグイグイ引っ張るまだまだやんちゃなイケメンワンコ。

ホントにいつまでも落ち着きがないなんて、どっかの誰かさんみたい。

そう思うと自然と顔が綻んでしまう。

 

 ファンの子達にもそっくりなんて言われてる二足歩行のワンコは、最近めっきり大人っぽくなってしまって、頼もしいとは思うけれど、何だかちょっと淋しい気もしてしまうなんて僕もちょっとイカレてる。

 

 やっとのお散歩に気が逸るジョンは、立ち止まって空を見上げたままの僕を急かすようにリードを引っ張る。

 

 

「あ、ゴメンゴメン。」

 

 

 慌てて踏み出した一歩に、待ってましたとばかりに駆け足になるジョンは、何故かいつもとは違う道を行く。

 

 

「え?ジョン君?」

 

 

 声をかけた僕を振り返り、誇らしそうに「間違ってないよね」と視線を投げる。

 いつもとは違う特別な散歩コース。この道を行く時はいつも決まって彼からの連絡が・・・。

 

 

「嘘でしょ・・・?」

 

 

 リードを引っ張りジョンの足取りに引き摺られるように歩き出す。

まさか、さっきのやり取りをジョンが理解してたなんて、そんな事あるはずが・・・。

 

 

 それはほんの十分くらい前の話。

スタジオに篭もってた僕に一本の電話。着メロを聞くだけで相手が解る唯一の人。

通話ボタンを押すと予想通りの明るい声。

 

 

『あ!大ちゃん?オレオレ、ヒロ。』

 

 

 声だけで解るその表情に「はいはい、なんですか?」と返し、込み上げてくる笑いを落ち着かせる。

 

 

「どう?作業、順調?」

 

 

 これもいつもの会話。

ボーカル取りが終ってしまうと、そこからさらに忙しくなる僕に気遣って様子見の電話をかけてくるのは毎度の事。

時には差し入れを手にしてスタジオに現れるくらいの彼だから、今回のリミックスアルバムでは何も出来ない事が気になっているらしい。

もちろん僕だってそれなりに息抜きもしてるし、access以外の仕事をしている時だって多々あるけれど、彼にはその辺の事は詳しく話してもいないから、忙しいのは総てリミックスアルバムのせいなんじゃないかと思っているらしい。この辺がいつまで経っても単純で可愛らしいなと思ってしまう。

 

 

『ねぇ大ちゃん。今日はもう散歩終っちゃった?』

 

 

 受話器の向こうで彼の声がそう尋ねた。僕はチラリと足元に寝そべっているジョンに視線を落とすと、ジョンはその声が聞こえていたのかピンと耳を張って僕を見つめた。

 

 

「ん?まだだけど?」

 

 

 のそりと上体を起こしたジョンを軽く撫でてやる。すると足元のジョンと同じように期待に満ちた声が受話器から聞こえた。

 

 

『あのさ、オレも、散歩行こうかな〜なんて思ってるんだけど。』

 

 

「えぇ?ヒロもワンコなの?」

 

 

 クスクス笑ながら聞き返してやると、耳元で明るい声が笑った。

 

 

『酷いよ大ちゃん。まぁ、大ちゃんのワンコならなってもいいけど?』

 

 

「バッカじゃないの。ヒロみたいに手のかかるワンコなんて飼わないよ。」

 

 

 笑いながら抗議の声を上げる彼の声を耳元に聞きながら、思わずニヤけてしまっていた自分の口元を引き締める。

 

 

「今、家?」

 

 

『うん。』

 

 

「解った。」

 

 

『オーケー。じゃあ後でね。』

 

 

 軽やかなキスの音を残して切られた電話に「バ〜カ」と軽く呟いて足元から僕を見上げていたジョンの頭を撫でた。

 

 

「お散歩、いこっか。」

 

 

 

 

 ・・・たったこれだけの会話しかしてないのに。

 

 

 

 グイグイと僕を引っ張るジョンの足取りは既に目的の人物を見つけたようで。

 

 

「大ちゃん!」

 

 

 軽やかな声で呼ばれた僕に「ほらね」って振り返ったジョンは、ワン!と返事をして戸惑う僕をよそに僕を呼んだその人の元へと駆け出す。

ひとしきりの挨拶を終えると、呆然としていた僕に「何してんの?」って感じにワン!って吠えた。

 

 

「ジョンって・・・エスパー?」

 

 

 ポツリと呟いた僕に四つの目が不思議そうに首を傾げる。

その様子がそっくりで、僕は思わず声をあげて笑った。

 

 

 

 

 

 

       20121118  END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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