<相変わらずな僕ら>
「おはようございま〜〜す。」
脳天気な笑顔を振りまいて今日も元気にご出勤の齢40になった甘える末っ子貴水博之が撮影スタジオに入ってくる。
が、何故かスタッフの挨拶が途中で途切れる。
「おはよ〜大ちゃん。」
そんな事は全く意に介さない貴水が、若干寝不足のチェーンスモーカーに声をかける。
「ちょっと、ヒロ・・・!?」
同じくチェーンスモーカーの古馴染み安部が貴水を見て声を失う。
「おぅ、おは・・・。」
タバコを揉み消しながら振り向いて、若干寝不足の男が声を失う。視線はその頭に釘付けになったまま。
「ん?おはよ!」
キラキラとご機嫌な笑顔を振り撒いて手近な椅子を引っ張ってくると、寝不足男の声が響いた。
「・・・テメー、撮影前にパーマかけんなっつっただろーが!!」
寝不足も手伝って青筋が浮きそうなくらいの男らしい怒号にスタッフがいっせいにこっちを振り向く。
「えぇ〜?ダメ?気合入れて来たんだよ。」
「ダメに決まってんだろ!!何度言わせるんだよ、このヤロウ!!」
貴水が自分のクルクルなった頭をホワホワと触りながら、寝不足男の逆鱗に触れる。
「またまた〜〜。そんな事言って、ホントはカッコいいと思ってんじゃないのぉ〜?も〜素直じゃないなぁ、大ちゃんってばぁ〜。」
にこやかにパーマの頭を見せ付けて、貴水がイスに腰掛ける。
「素直だっちゅーの!!これでもかっつーぐらい、本心なんだよ!!」
また始まった・・・、と古馴染みの安部は頭を抱え、底無しのポジティブシンキングな甘える末っ子は嬉しそうにパーマを自慢する。
柳に風とはまさにこの事。何度同じ事を繰り返しても全く学習しない。学習能力がないのか、この男は、と青筋を浮かせるのもいつもの事。
本人曰く、気合入れのつもりらしいパーマは、ファンだけではなく、浅倉にも不評だ。しかも決まって何か大事な撮影の前にやらかしてくるもんだから、スタッフにとっても何かと厄介な貴水の気合だ。
気合が空回り・・・と、安部などは辛辣に言うのだが、まさにその一言に総てが集約されていると言っても過言ではない。マネージャーの林だけが恐縮そうに頭を下げている。
寝不足男はあまりにも脳天気なこの男の言動に、毎回ふり回されて、さすがに厭味のひとつでも言いたくなったのだろう。きゃいきゃいとはしゃぐ貴水に微笑んで一言。
「ヒロはさー、目、おっきいし、顔立ちはっきりしてるから、パーマかけると夏はちょっと暑苦しいね。」
天使のスマイルで貴水を悩殺する。その瞬間、貴水の気合が一気にダウンするのが周りのスタッフにも見て取れた。
「・・・オレ、髪切ろっかなぁ・・・。」
しょぼくれて言う貴水に極悪天使は、
「うん。今すぐそうして。」
ハートマークを飛ばしてにっこりと微笑む。
「撮影はヒロの頭待ちで〜〜す。じゃ、そう言う事で。」
最後に一睨み。
あっけなく髪型の変更を命じられた貴水はすごすごとスタジオを後にする。
「・・・2時間、待って。」
「うん。ごゆっくり〜〜。」
タバコに火をつけ、深々とイスにもたれかかってわざと声高に、
「ごめんね〜、うちの相方が迷惑かけて〜。
サルだからさぁ、ちょっとおバカさんなの〜。でもさ、そこがかわいらしいって言えばかわいらしいでしょ〜?」
ゲラゲラと笑ってみせる。
すると出て行きかけた甘える末っ子が、
「え!?かわいい?大ちゃん、かわいいってホント!?」
嬉しそうに顔を覗かせる。
「パーマじゃねーよ!このバカザル!!とっとと頭切って来い!!」
「頭じゃないよ〜髪の毛だよ〜。」
「どっちだっていいんだよ!てか、頭切って来い!!学習出来ねー頭なんていらねーだろっ。」
「ひど〜〜。そんなオレが好きなくせに〜。」
じゃれあいは毎度の事。
慣れたスタッフは思い思いにブレイクタイム。もうどんな戯れ言にも動じない。いや、動じるようではやっていけないのだ、ここでは。
どうせ然るべき場所におさまるように出来ているのだ。ただ、ちょっと時間がかかるだけ。
海千山千のスタッフ達がにやりと笑う。
これがあることを見越して集合時間が早められているのを、2人は知らない。
END 20090721
→おまけ