<おれんじてぃたいむ>
「はぁ〜。」
作業中の午後のひと時。あらかたメドが付いてきて時計を見るとティータイムと言うには少し遅めの時間。僕にとってはこのくらいなんだけど。
「休憩しよっかな。」
誰がいるわけでもないのに何となく口に出してしまう。
携帯を片手にリビングに移ってメールを何件か確認する。
「そうだ!この前貰った紅茶にしよ〜。」
お洒落な陶器の入れ物に入った茶葉を取り出して、ちょっぴり贅沢なティータイムにする。
「クッキーあったよね。」
頂き物のお菓子を思い出し、包みを開ける。
「はぁ〜生き返る〜。」
熱い紅茶と甘いクッキー。幸せな気分に包まれていると、うとうとと睡魔が・・・。
作業が大詰めだったものだからついつい寝る時間を忘れてた。
このまま寝ちゃおうかな。
ちょっと仮眠。
そう思ってそのまま机に突っ伏して寝ちゃったんだ。
「へくちっ!」
自分のくしゃみに驚いて目が覚めた。
気付いたらゴロンとうつ伏せになってる。
いつの間に・・・。
布団に入れば良かった、
眠い目を擦りながら起き上がると何だか見慣れない景色。
あれ?ここどこ?
周りを見渡してウロウロしてみると、急に地面が途切れた。
「ウワァ!!」
慌てて引き返してもう一度よ〜く見てみると・・・。
「僕ん家だ・・・でも・・・。」
恐る恐る崖の下を覗いて見ると・・・。
「僕、テーブルの上に乗ってる・・・。何でぇぇぇぇ!?」
信じられない状況に頭がパニック。
待って!
何でテーブルの上に乗ってられるの?
おかしいよね?
だってテーブルだよ!普通乗れないよ。
って事は・・・普通じゃないって事・・・?
えぇ!?じゃあ、もしかしてこの煙突みたいなやつって・・・。
僕は恐る恐るその塀を覗いてみた。
僕のマグカップ!?
中にはさっき僕が入れた紅茶が・・・。
嘘ぉぉぉ!誰か嘘って言ってよぉ!!
どうしよう。とりあえず安部ちゃん?
あぁダメだ。この休みに実家に帰って来るって言ってたっけ。今頃は新ちゃんと・・・。
うわぁ〜どうしよう!!
そうだ!!ヒロ!!
ヒロなら実家だって埼玉だし、きっとすぐに来てくれる!!
そうと決まったら電話!!携帯、携帯っと・・・。
ってポケットを探したけど・・・。
待って・・・
もしかして、携帯ってコレ!?
さっきから椅子がわりに腰掛けてたものをマジマジと見てしまう。
はぁ、も〜〜サイアク!!
そうは思っても誰かを呼ばない事にはここから降りる事も出来ない。
自分家でアドベンチャーなんて、有得ない!!僕はインディージョーンズじゃないんだから。
僕は閉じてある携帯を押し上げて画面を開く。
お・・・重い!
いつもは片手でヒョイなのにぃ〜
「んしょっ!!」
半ば体当たりで画面を開く。リダイアルで出るはずだから・・・。
両手でボタンを力一杯押して、何とかヒロの番号を鳴らす。
お願い!繋がって!!
『もしもし?大ちゃん?』
「ヒロぉぉぉぉ〜。」
通話口で思いっきり叫んでヒロの声を聞く。
『ど〜したの?』
ヒロの暢気な声。こんな時はその暢気さが救われる。
「ヒロぉ今すぐ来てよぉ!」
ヒロの声を聞くために通話口から少し離れてしまった僕は両手を口にあてて一生懸命叫ぶ。
『なぁに?大ちゃん、オレにそんなに会いたいの?』
「バカな事言ってないで来てよぉ!」
『そんなに怒らなくったっていいじゃん。まぁそれもかわいらしいけど。』
「怒ってるんじゃないよ!いいからすぐ来て!!僕・・・僕・・・。」
あぁもう泣きそう!
「とにかく大変なのぉ!僕、変になっちゃったのぉ!」
『オレの事、好き過ぎて?』
電話の向こうでヒロが楽しそうに笑う。
笑い事じゃないんだよ!
僕はヒロの笑い声に思いっきり叫んだ。
「小さくなっちゃったみたいなのぉ!!」
『・・・はぁ!?』
「今すぐ来てくれなかったらヒロなんて絶好なんだからぁ!!」
『・・・小さくって・・・。』
「いいから、すぐ来ぉい!!」
それだけ叫ぶと僕はボタンを思いきり踏みつけて一方的に電話を切った。
はぁ、疲れた。
叫び過ぎて喉が痛いよぉ。これでヒロが来てくれなかったら、僕、どぉしよう。
でも説明しようにも僕だって良く解んないのに・・・。
何でこんな事になっちゃったの?
喉、渇いた・・・。お水飲みたいよぉ。
僕はマグカップの取っ手部分に足をかけて上までよじ登り、落ちないように気をつけて紅茶を飲んだ。
「はぁ、お茶も簡単に飲めないなんて・・・。」
思わずため息が漏れる。
ホントに誰かに助けてもらわないと何にも出来ないよ。
もしかして寝たら直るかも!!
一縷の望みをかけて、僕はヒロが来てくれるのを信じて不貞寝を決め込んだ。
「大ちゃん、いる〜?」
僕を呼ぶヒロの声で目が覚めた。
良かったぁヒロ来てくれたんだぁ!これで何にもなく元通りってなってたらサイコーなんだけど・・・。
どうやらそっちは無理だったみたい・・・。寝てもダメかぁ。
「大ちゃん?いないの?」
ヒロが僕を探して違う部屋へと歩いてく。そっちじゃないのにぃ〜!
「ヒロぉぉぉぉ〜!!」
思いっきり呼んでみるとヒロの足が止まる。
「ヒロ!ヒロ!!」
ジャンプして手を振ってアピールしてみるけど全然気付いてくれない。気のせいかなぁなんて言って隣の部屋に僕を呼びながら消えていく。あぁ〜も〜〜。
仕方ない。こんな事になってるなんて思ってないだろうし。
違う部屋から聞こえるヒロの声にため息をついて、僕は携帯のボタンを踏みつけた。すぐにダブって聞こえるヒロの声。
「大ちゃんどこ?」
そう言いながら戻ってきたヒロに自分の居場所を告げる。
「テーブル見て。」
「テーブル?」
首を傾げながら近付いてくるヒロ。
「僕の携帯があるでしょ?」
「携帯?」
テーブルに視線を向けたヒロに僕は手を振ってみせる。
「・・・大ちゃん!?」
ひっくり返りそうなヒロに苦笑いを返した。
「ちょっと、どうなっちゃってるの?」
やっと少しは落ち着いたヒロが僕をマジマジと見ながら聞いてきた。
「そんな事僕に聞かないでよ。僕の方がどうなってるのか聞きたいくらいなんだから。」
テーブルに顎をついて僕を覗き込んでるヒロに言った。
「でもさ、かわいいよね。」
「うわぁっ!!」
ヒロが僕をそっと掴んで自分の手の平に乗せる。
「なんかさ、こういうドラマなかったっけ。ポケットに入れて連れてくの。高橋由美子が可愛くてさぁ。」
「あった!!何だっけアレ。」
「っと・・・南くんの恋人だ!!」
「そう!南くんの恋人だ!じゃあヒロが南くん?」
「そうそう。ポケットに入れて連れてっちゃうよ〜。」
ヒロは嬉しそうに笑って僕に近付いてきた。
「うわぁ〜!や〜!!」
近づいてきたヒロは僕の頭にちょこっと触れた。
「あぁ〜・・・食われるのかと思った・・・。」
ヒロ的にはキスのつもりだって事が解ってホッとする。
「ひどいよ〜。オレが大ちゃんの事、食うはずないじゃん。」
「あのね〜何にも言わないでデッカイ口が近付いてきたら、誰だってそう思うでしょ?ジョーズの映画を思い出しちゃうよ。」
「デッカイ口ってさ・・・。まぁ、そうですよね〜。大ちゃん小さいんだもん・・・。」
ちょっとしょげるヒロに苦笑して頭を撫でてやりたかったけど・・・届かないよ〜〜。
「ヒロ、ヒロ。」
そう呼んでヒロに笑いかけてから、
「よしよし。」
って頭を撫でる振りをしてやった。
「・・・か・・可愛い!!」
ヒロが僕を落とさないように気をつけながらバタバタと暴れる。さっきの事をもう忘れたのか、また顔を近づけて・・・。
「だ〜〜か〜〜ら〜〜〜!!その大きさで迫ってくるなって!!」
学習能力のない男にげんこつを落とした。
「それにしてもさぁ・・・。」
南くんの恋人よろしく、僕を胸ポケットに入れて歩く事にしたヒロがポツリと呟いた。
「オレ、他の人からしたら独り言言ってるアブナイ奴だよなぁ。」
コンビニまでの道を歩きながらヒロが苦笑する。
「じゃあ僕、ここから顔出してようか?」
「いや・・・それもどうかと思うよ、大ちゃん。」
結局、人前ではばれないようにポケットの中に隠れる事になった僕は、今はヒロのポケットから顔を出してお散歩気分を満喫してる。
高いとこはあんまり得意じゃないけど、ヒロのポケットって言うだけで安心。
「ねぇヒロぉ。肩に乗りたい。」
「えぇ!?何言ってんの!?そんなのみんなにバレちゃうじゃん!!それに第一、危ないよ。」
「いいじゃん。ヒロ、インコ肩に乗せてお散歩してたんでしょ?一緒一緒!」
「大ちゃぁ〜ん。」
情けない声を出すヒロと押し問答の結果、僕はヒロの肩に移動した。
「高ぁい!!」
ヒロの肩に座って足をプラプラさせてみる。うん、気持ちいい!!
「大ちゃん、ちゃんと捕まっててよ。」
心配そうに言うヒロの髪の毛を掴んで軽く引っ張る。
「捕まってるよ〜。」
僕は嬉しくなって歌を口ずさむ。
「大ちゃん、ご機嫌だね。」
「うん!!」
だってさ、誰もこんなところに僕がいるなんて思わないでしょ?今は人の目を気にすることないんだもん。
いつもはこれでも、どこかで浅倉大介って言うアーティストでいなきゃって気を使う事もあるわけで。
まぁ僕はあんまり気にしてはいないんだけど、僕が気にしなくても、やっぱり周りはそう言う目で見るわけで・・・時々、疲れたなぁなんて思う事もある。ホント、時々ね。
それはこうして好きな事をしている代償なんだろうなぁなんて思うんだよね。
でも今は、そんなの気にする必要がないんだもん。嬉しくなっちゃうよ。
それにさ、こうしてヒロとも一緒にいられるし。街中でこんな風にくっつけるのなんて・・・うふふ。歌だって歌っちゃいますよ!
いささか大通りに出た後はポケットに収まったけど、ヒロの肩の上のお散歩は結構気持ち良くて癖になりそう。
ようやくコンビニに着いた僕達はお目当ての物を物色する。
「大ちゃん、どれ?」
ヒロが小声で僕に聞く。僕はバレないようにちょこっと顔を出して棚を見る。
「そこのチョコとぉ・・・。」
ヒロが僕の言った物をカゴに入れるのを確認して、次々と商品を言っていく。
「あとねぇ、コンパチ!」
「大ちゃん好きだねぇ、これ。」
「たまに食べたくなるんだよねぇ。」
そう言って僕はヒロのポケットにしゃがみ込んだ。レジに向かうのに顔を出したままじゃ、さすがにね。
お目当ての物を買って帰って、早速ヒロに開けてとねだる。家に帰ってきてホッとしたヒロはぐだ〜っと疲れた様子だったけどね。
僕は結構楽しかったんだけどなぁ。小さいのもいいかも。
いろんなお菓子を開けてもらって、僕は箱の上を移動しながらアーモンドの入ったチョコにかじりつく。
「硬ぁい!」
かじりついたは良いけど、中に入ってるアーモンドのせいか噛み切れない。
「ヒロぉ〜。」
ジョンみたいに重いチョコを持ち上げてヒロに差し出す。
「どぉしたの?」
「硬いの。小さくして〜。」
そう言うとヒロはいきなり笑い出して、僕からチョコを取り上げた。も〜笑い事じゃないよ。
カリッと小さく砕いてくれて僕の前にチョコを置いてくれたヒロ。
「なんか、小さい子の世話してるみたい。」
クスクス笑いながら嬉しそうに僕の頭を撫でる。も〜ニヤけた顔して。どうせろくでもない事考えてるんだから。
「子供がいたら、こんな感じなのかなぁ。」
ほら、やっぱり。俄かパパの顔になっちゃって・・・単純なんだよ、ホントに。僕は子供なんか産めませんけど!?
自分の世界に入り込んでるヒロはほっといて、僕はお菓子の間を転々とする。
あぁしあわせ!お菓子まみれだよ〜。ヘンデルとグレーテルみたい。怖いお婆さんには出て来て欲しくないけどさ。
食べても食べても無くならないっぽい。いつもはあっという間なのにね。わぁポテチも大きい。
一生懸命噛り付いてるとヒロがいきなり声をあげた。
「大ちゃ〜ん。可愛い過ぎるよ!!」
興奮気味にそう言って、僕の抱えてるポテチを反対側からパクリと食べた。
「恋人食べ!やってみたかったんだぁ!!」
・・・バカじゃないの?
この緊急事態にそんな事思えるヒロって、やっぱり大物っていうか、天然って言うか・・・。
まぁ、僕もさっきのお散歩ではかなり楽しんじゃったから、人の事は言えないか・・・。
「ヒロぉ喉渇いた〜。」
浅いお皿にオレンジジュースを入れてもらって、ヒロの手を借りながら少しずつ飲む。
「ふぁ〜お腹いっぱい!」
お腹がいっぱいになると、少しゆったりした気分になる。マグカップに寄りかかりながらヒロを見上げるとニコニコした顔で僕を見てる。
「大ちゃん、ついてる。」
そう言いながら僕の顔を撫でて、ヒロはその指をちゅって舐めた。
いつの間にかうたた寝してたみたい。目を覚ますと辺りは暗くなっていた。
ヒロは?
ヒロがいたはずなのに部屋の中が暗いなんて。
もしかして帰っちゃったの?こんな状態の僕を一人残して?
もしかしたらお仕事が入ってたのかも知れない。急に呼びつけちゃったけど、ヒロにだって予定があったのかも知れないし・・・。
そうは思っても何だか急に淋しくなる。心細い。一緒に連れて行ってはくれなかったの?
「ヒロぉ・・・。」
小さな声で呼んでみる。
シンと静まり返った部屋。
やっぱり帰っちゃったんだ。
ヒロの開けてくれたお菓子の箱。しけらないようにきちんと閉めてくれてある。
何だかその事がヒロの不在を告げているようで、僕はさっきヒロが開けてくれた時みたいにお菓子の蓋を全部開けて走った。
ヤダヤダ、いなくならないでよぉ!
やみくもに、箱を引っ剥がして、下向きにして閉じてある袋をひっくり返して、中のお菓子を引っ張り出す。今の僕にはどれもこれも重労働で、なかなか思うように出来ない。
「ヒロのばかぁ・・・。」
呟いて、その場にへたり込む。袋に小分けになってるお菓子をたべようと思っても、開ける事すら出来ない。
「開けてよぉ・・・ヒロぉ・・・。」
開けられないお菓子を八つ当たりするみたいにテーブルの上から追い出す。次から次へ床にお菓子の落ちる音を響かせる。
泣きそうになってる自分を認めたくなくて、膝を抱えてうずくまる。
「・・・んぁ・・・?」
突然聞こえた自分以外の声に顔を上げる。
「大ちゃ・・・起きたんだ。」
「ひろぉ!?」
慌ててテーブルの周りをぐるりと走ってヒロを探す。
「ヒロぉ!!」
ソファから起き上がって僕を見てるヒロの姿に胸が苦しくなる。
「どぉしたの?泣きそうな顔して。」
「バカ!!ヒロのバカ!!」
「大ちゃん・・・?」
「いなくなっちゃったかと思ったじゃん!!僕、一人じゃ何にも出来ないのに・・・。」
鼻の奥がツンと痛い。泣きたいんだか、ムカついてるんだかよく解んない。
「ごめんごめん。オレもウトウトしちゃってさ。」
そう言いながら僕の事を撫でてくれるその指が暖かくて・・・僕はヒロの指をぎゅっと抱きしめた。
「大ちゃん・・・。」
「許さないんだからぁ・・・。」
ヒロの指をつねってみても、今の僕じゃヒロを痛がらせる事は出来なくて、ヒロは軽い苦笑を浮かべただけだった。
「心細かったよね。ごめんね。」
「・・・違うもん。」
「意地張らないの。」
「張ってないもん。」
「じゃあ何でお菓子がいっぱい床に落ちてるの?八つ当たり、したんでしょ、大ちゃん。」
そう言いながらお菓子をひとつずつテーブルに戻す。
「・・・勝手に、落ちたんだもん!!」
プイっと横を向くとヒロの押し殺した笑いが聞こえた。
「勝手に落ちちゃったのか。それなら仕方ないなぁ。」
「・・・そ、だよ。仕方ないんだから。」
「だぁいちゃん!!」
「うわぁ!!」
急にヒロが僕を持ち上げる。
「ずっとオレと一緒にいよ。これなら淋しくないでしょ。」
自分のポケットに僕を滑り込ませヒロが笑った。その笑顔に僕は何だか恥かしくなって、ヒロのポケットの中で小さくなってドキドキしていた。
小さい生活も慣れればこれはこれで結構楽しい。自分一人じゃどうにもならないけど、こうしてヒロもいてくれるし、何よりヒロが優しい。何でもやってくれちゃう。
普段だって優しいけど、それに輪をかけて甘やかしてくれるんだもん、居心地が悪いわけがない。
それに、ヒロも僕を連れて歩くのに慣れて来たみたいで、僕はだいたいヒロのポケットか肩の上、お菓子の置いてあるテーブルの上にいる。
テーブルの上にいる時はヒロが目の前に座っててくれるし、ソファの上でくつろぐ時にはヒロの胸の上に僕を乗せてくれる。
僕は横になったヒロの上をちょこちょこと動き回って、それをくすぐったがるヒロに笑って見せる。
なんかこんな事になって不謹慎かも知れないけど、久しぶりのベタベタ出来る時間は満更でもない。
僕が小さいだけでこんなに易々と恋人達の時間になるなんて。人に見られる心配がないからなのかも知れないけど。まぁこれはこれで見られたら困る状況なんだけどね。
ソファに寝転がって雑誌を見ていた僕達。この車が良いとか、こっちの内装が良いだの話してるうちに何となく・・・。
どうしよう。
トイレに、行きたくなって来ちゃった・・・。
一人じゃ・・・行けないよね、これじゃあ・・・。
だいたい、今の大きさじゃ一つ間違えたら流されちゃうよ!
どうしよう・・・我慢?
でもいつ元通りになるかも解らないのに、いつまで我慢したらいいか、解んないよ。
急に黙り込んだ僕にヒロが不思議がる。
「どぉかした?」
軽く頭を撫でてくれるけど・・・。あぁもぅ危険だから!
ダメだと思うと余計に行きたくなるのがトイレってもので・・・この歳でオモラシなんて有り得ない!!
「大ちゃん?」
あぁどうしよう!言うべき?
でも何て言うの?
トイレ行かせて?
そんなのどんな顔して言えばいいんだよ〜。第一、言われた方だって・・・。
でもでもでも!!・・・緊急事態だし・・・。
「どおしたの?モジモジしてないで言って?」
ヒロの優しい声。どぉしてこんなに優しいんだよぉ〜。
「あ・・・あのね?」
「何?」
あぁ!!恥かしい!!
「・・・イレ。」
「ん?」
「トイレ、行きたくなっちゃった・・・。」
ヒロの顔が見れなくて俯いたまま言った。
「んあ〜、行っておいで。」
「え!?」
「いちいち断わるなんて変な大ちゃん。いつもは何も言わないで勝手に行くじゃん。」
ヒロはケラケラと笑いながら言う。
だから!勝手に行けない状況なんだってば!!
もしかしてヒロ、気付いてない?どこまで天然なんだよぉ〜!!
また恥かしい思いして説明しなきゃなんないの!?
もぉ〜やだぁ〜!!
バカ!!バカヒロ!!
僕はのほほんと笑ってるヒロを睨みつけた。
「行けないから言ってるの!!」
「へ?」
まだ気付かないのか、この男!!
「僕、こんなで、一人でいけるわけないでしょ!!だから、恥かしいのに、こんな事、ヒロに言ってるのに。何度も言わせないでよ!!」
僕の怒鳴り声に目を何度もパチパチして、呆けた男はやっと意図するところを飲み込んだ。
「あ・・・あぁ〜、大ちゃんトイレ行けないよねぇ・・・。」
再び僕をマジマジと見て言った。
「どぉする?」
どぉするって・・・僕の方が聞きたいよ!!
「ワンコのトイレは?あれなら落ちる心配はないし、ワンコ用とは言ってもちゃんとトイレだし。」
な・・・!!
「出来るわけないでしょ!!」
僕はヒロの信じられない発言に噛み付いた。
「・・・だよねぇ。大ちゃん、ワンコじゃないもんねぇ。」
そうじゃないでしょ!!
ヒロの見当違いなセリフに僕はパクパクと口を開くだけで何も言えないでいる。
その間にもヒロはブツブツと小さい子のトイレはどうしてたっけ?とかなんとか・・・。
すると急にヒロが名案を思いついたような顔で言った。
「大ちゃん!オレが持っててあげるよ!!」
「はぁ!?」
「ちっちゃい子ってこうやって、シ〜ってするじゃん。ね、だから。」
「だからって言うな!!」
何を言い出すのかと思ったらよりによってそんな事!!しかもヒロの得意気な顔!
「信じらんない!!僕にヒロの見てるところでしろって言うの!?」
「良いじゃん、大ちゃんのアレなんていつも見てるんだし恥かしくないでしょ?」
あっけらかんと言う。
「そう言う問題じゃないでしょ!!」
「だって緊急事態でしょ?トイレ我慢したら身体に良くないよ。」
「そうだけど・・・。だからってヒロの前でなんか出来るわけないじゃん!!恥かし過ぎるよ!!」
僕は羞恥心の欠片もなさそうなヒロに喚いた。
するとヒロが信じられない事を口にした。
「恥かしいなんて・・・。いつも我慢出来なくてオレの手に出すくせに、アレもソレも変わんないって。オレは全然平気だけど?」
「・・・し・・・信じらんない!!サイテー!!変態!!デリカシーなさすぎ!!」
ドンドンとヒロの胸を踏みつけて思いつく限りの罵倒の言葉を並べる。
「そんなんして・・・オモラシするよ。」
その言葉に自分の有り得ない姿が浮かんで来て、踏みつける足を止めた。
「ハイハイ、緊急事態だもんね。さぁオモラシする前にトイレね。」
そう言いながらヒロは僕をひょいと持ち上げてトイレへと向かう。
「ヤダヤダヤダぁぁ〜〜!!離してってば!!」
僕は持ち上げられた手の平の上で身を捩って抵抗した。それなのにヒロは楽しそうにトイレへと向かう。
「大丈夫!絶対落とさないから。」
「やぁ〜〜〜〜!!」
ヒロは何の迷いもなくトイレのドアを開けて僕を便座の脇に立たせた。
「はい大ちゃん。ちゃんと捕まえててあげるから、早くしな。」
「やだやだやだ!!」
僕は必死に我慢してヒロの腕をよじ登ろうとするけど、言葉通りヒロは僕をしっかり捕まえて離してくれない。しかもトイレって、来たらもう我慢が出来なくなる。
「やだじゃないよ。良いからちゃんとしなって。脱がしてあげようか?」
「バカ!!」
そうは言ってももう我慢も限界で・・・。僕は足をモジモジしながら恨めしくヒロを見上げた。
あぁ〜〜ん、何でこんな事になっちゃったのさ〜〜。顔から火が出るくらい恥かしいけど、この手の我慢が一番辛い事は長い人生経験でよく解ってて・・・。
もう、もうもう・・・!!
「こっち見ちゃダメだからね!!」
ヒロの視線を気にしながらそろそろとファスナーを降ろして・・・。
わぁ〜もぉ〜やだぁ〜!!恥かしいよ、死んじゃいたい!!
いくら平気って言われても全然平気じゃない。確かに他の人に比べたらヒロで良かったのかも知れないけど・・・。
でも逆にヒロにだけはこんな姿見られたくなかった!!
もぉ・・・!!
「大ちゃん、出た?」
「そんな事聞くな!!」
信じらんない!!何てこと言い出すの!?
「じゃあ見てもいい?」
「うわぁ〜!!ダメダメダメ!!良いって言うまでこっち見たら絶交なんだからっ!!」
「アハハ、絶交って、大ちゃん。」
人の気も知らないで笑い転げるヒロ。絶対いつか天罰が降るに違いないんだから!!
ヒロの視線が気になって、いまいち気分はすっきりしないのに、身体は何と言うか・・・正直。
あぁ〜この歳でオモラシなんて失態をおかさずに済んで良かった。とは言え、ヒロの顔を見ずらいよ。
僕はヒロに持たれたままの格好で便座に立ったまま。ヒロはちゃんと僕の言った通り反対側を向いててくれている。優しいヒロ。
でもいつまでもこのまま何て訳には行かないし・・・。だけど終わりましたなんて・・・マヌケにも程がある。
悩んだ末に黙ってヒロの指をきゅっと握った。
「OK!」
ヒロはそう言うと僕をクイッと抱き寄せて、
「お帰り、大ちゃん。」
って、いつものように軽いキスを僕の頭にくれた。
トイレの一件もあって、僕は真剣に元に戻れる方法を考えたけど全然ダメ。ヒロなんかすでにこの状況に馴染んじゃってて、一緒にいられるっていいよね〜なんて言い出す始末。
そりゃあ僕だってヒロと一緒にいられるのは嬉しいけど、こんな状況じゃないのがいいよ・・・。この先もこれじゃあ色々と困る!!トイレも・・・もちろん仕事も。
結局、何の糸口も掴めないまま夜になってしまった。
「大ちゃん、そろそろ寝る?」
僕より規則正しい生活をしてるヒロはもう眠いみたいで、欠伸しながら僕に聞いた。いつもの僕ならこれからが活動時間!!って言いたいところだけど・・・今日はさすがに神経使い過ぎ。僕もヒロの手をよじ登ってベッドへ連れて行ってもらった。
ベッドに横になったヒロは僕を枕のそばにそっと降ろして、風邪ひかないようにってハンカチを掛けてくれた。
「なんかベッド、広いなぁ・・・。」
天井を見上げながらポツリと漏らされたセリフに哀しくなる。
「ヒロぉ・・・。」
「ごめんごめん。ホラ、大ちゃんちのベッド、一人で寝る事なんてないからさ、何となくね。」
「ごめんね・・・。」
「何で?大ちゃんが謝る事じゃないじゃん、ね?」
「・・・うん。でもごめん。」
僕はヒロの首筋の温かいところに潜り込んで言った。
「潰しちゃうよ。」
笑いながらヒロは僕を撫でてくれて・・・。
僕はその指をキュって握って自分の頬を摺り寄せた。
「どうしたの?何か急に甘えん坊だな〜大ちゃん。」
嬉しそうに言うヒロ。だけどやっぱりどこか淋しそうで・・・。
考えてみれば本当に久しぶりのオフでこうして2人一緒にいられるのに、僕がこんな状態なばっかりにヒロにも負担をかけている。
僕は一人じゃ何も出来ない。ほんのちょっとどこかに移動する事も、ご飯を食べる事もトイレもお風呂も、何にも出来ない。ヒロはそんな僕を面白がって、いつもは出来ない事だからって言ってくれるけど、こんな状態が続いたら、ヒロにだって仕事があるんだし、僕にばっかり構ってはいられない。それに僕だって・・・。
ヒロに優しくされるのは気持ちがいい。でもそればっかりは、嫌なんだ。僕だってヒロにいろいろしてあげたい・・・。
「ヒロぉ。」
耳元でヒロを呼ぶとヒロは顔をこっちに向けて僕に答えてくれた。僕は背伸びをしてそっとヒロの唇に触れる。全然大きさの違う、僕とヒロの唇。だけど、僕のこの想いを少しでも伝えたくて・・・。
「大ちゃん・・・?」
もう一度くちづける。
ねぇ、ヒロ、僕の精一杯をあげる・・・。
唇を離して目を開けると、ヒロの優しい目が僕を見ていた。
「ありがと。」
そう笑って、今度はヒロからキスしてくれる。
ぎこちない僕たちのキス。まるで始めてキスした時みたいに、そっと想いを伝え合うだけのキス。
想いがどんどん溢れてきて、たまらなくなって、僕は何度もくちづける。
「大ちゃん。」
僕をそっと撫でながらヒロが僕を呼ぶ。
「すき・・・。ヒロがすき。」
「大ちゃん・・・。」
キスの合間に大切な一言を伝える。口だけじゃなくてヒロの顔中にキスをして、僕の思いを残していく。
こんなんじゃ足りない。こんなんじゃ全然足りないよ・・・。
「どおしたの?大ちゃん、不安?」
ヒロが僕をその手に包んで優しく聞いてくる。
「だって・・・。」
「だって?」
「・・・僕、ずっとこのままなのかな。」
ヒロの手の中で漏らしてしまった本音。
「そんなの・・・やだよぉ・・・。」
「大ちゃん・・・。」
思わず涙が溢れてくる。だって、どうしたらいいのか解らない。元に戻れる方法があるなら、誰か教えて欲しい。
「オレは・・・嬉しかったけどな。」
「ヒロ・・・?」
僕を見つめながらヒロが言う。
「オレはさ、結構楽しいよ。大ちゃんのいろんな面が見れたし。
それに、こんな事でもない限り、オレ、大ちゃんに何もしてあげられないじゃん?大ちゃん、何でも自分でやっちゃうんだもん。オレとしてはちょっと淋しいなって思ったりもするわけよ。まぁ、オレが出来る事なんてたかが知れてるから仕方ないんだけどさ。でも、たまには甘えて欲しいし、世話焼かせて欲しいよ。」
「ヒロ・・・。」
「だからさ、オレに連絡くれて、ありがとね。」
ニコッと極上の笑顔でヒロが言う。
バカ・・・もう、ホントに・・・カッコよすぎるよ・・・。
僕はもう一度ヒロの唇にキスした。
もどかしい・・・。ホントはこんなキスじゃなくて・・・もっと・・・。
たまらず何度もくちづける。僕の方からなんていつもはあんまりしないけど、今日はしたくて、しても足りなくて・・・。
「ヒロぉ・・・。」
何度も何度もくちづけて、僕の唇じゃ塞ぎきれなかったヒロの唇を手でなぞる。
すき・・・。
これ以上ないくらいに、すき。
「・・・大ちゃん・・・。」
「ヒロぉ。」
ちゅっとくちづける。
「・・・ちょぉ・・・っ、タンマ!!」
ヒロが自分の口を押さえて僕を引き離す。
「・・・ヤバイ・・・ですよ、浅倉さん・・・。変な気になっちゃいそうですよ、僕ちゃん・・・。」
バツが悪そうにそう言った。
「・・・ホントに?」
「ア、ハハ・・・。」
「僕に、感じてくれてるって事・・・?」
「あ〜〜〜・・・なんでそう言う答えにくい事聞くかなぁ・・・。」
「ねぇ、ヒロってばぁ。」
詰め寄る僕にヒロは押さえていた手を離してもごもごと言った。
「なんか、オレ、変態みたいでしょ・・・?大ちゃん、こんな状態なのに、欲情しちゃうなんてさ・・・ハハ・・・。」
僕と目線を合わせないままでヒロが言う。僕はヒロの襟元から潜り込み素肌を胸へと辿った。
「へ!?」
ちゅっとヒロの胸の突起にくちづける。
「・・・っと、大ちゃん!?」
ぺろんと舐めてヒロの胸に耳を当ててみる。すっごいドキドキいってる。
「何やってんの!?オレの話、聞いてた!?」
慌てて僕を引き剥がそうとするヒロの手。僕はその腕から逃れて反対側にもキスをする。
「大ちゃん!!」
困惑した顔のヒロの前に引き出された僕は、あんまり見る事の出来ないヒロの赤くなった顔に笑った。
「笑わなくったって・・・。」
「あはは。」
「も〜大ちゃん!!」
頭をガシガシと掻きながら僕を自分の胸の上にそっと降ろしてくれたヒロは、僕をそっと撫でてくれる。
「嬉しかったんだよ、僕。」
「?」
「ヒロがさ、思ってくれた事。ホントは僕だって・・・。」
僕は恥かしくなってヒロの服に顔を隠しながらポソッと呟いた。
「ヒロとしたい・・・。」
「大ちゃん・・・!?」
「自分でも変なの・・・。でも、ヒロにちゃんと触れていたい。ヒロとちゃんとキス・・・したい。ヒロとちゃんと・・・。小さいままはやだよぉ・・・。」
「大ちゃん・・・。」
ヒロの手が僕を優しく包んでくれる。ヒロの手に包まれたまま、僕はヒロの優しいキスを半べそをかいたぐちゃぐちゃの顔に貰って、見上げるとそこではヒロが笑ってた。
「ヒロ?」
ヒロはもう一度キスをくれて困ったように笑った。
「小さい大ちゃんは困っちゃうくらい大胆なんだね。嬉しいやら切ないやら・・・。オレ、そんな大ちゃんも嫌いじゃないよ。けど、早く元に戻ってよ・・・オレの身体が・・・ね。」
そう言ってチラリと視線を向けた先を僕もつられて見る。
「見ないで、大ちゃん・・・。」
そう言って僕の目を塞ごうとするヒロの指の間から見えたソレ。服の上からでも解る。
「・・・あ、あぁ・・・。」
「だから見ちゃダメだってば・・・。」
弱ったようなヒロの顔。僕はヒロの手から飛び降りてそこへ走る。
「大ちゃん!!」
途中でヒロの手に捕まえられて、僕はバタバタと足をばたつかせた。
「何しようとしてるの!」
たしなめられて、引き戻されそうになる。
「ヒロの!!・・・見たい。」
「はぁ!?」
「ヒロのに触っちゃ、ダメ?」
ヒロに捕まえられたまま僕は小さいのをいい事におねだりした。確かに、ヒロの言う通り、小さい僕は少し大胆かも知れない。
「あのねぇ・・・大ちゃんは楽しんでるのかも知れないけど、オレはさ、結構ギリギリなのよ。これ以上いじめないでよ。」
情けない顔のヒロが僕に言う。でもね、僕だって・・・いじめてるわけじゃないんだよ。こんな僕でも、ヒロを・・・。
「あのね・・・お礼、なの。」
「お礼・・・?」
こくんと僕は頷いた。
「僕なりの、お礼なの。ヒロ、来てくれなかったら、僕・・・。だから。」
「だから・・・って。」
ヒロの困り果てた顔。
「ちょっとだけ・・・僕のしたいようにさせて。」
「大ちゃぁん・・・。」
弱りきったヒロはしばらく捕まえたままの僕を見つめ、小さな溜息と共に僕を降ろしてくれた。
「オレって・・・大ちゃんに甘いよね・・・。」
「うん。だから好き。」
笑って答えて手を離してくれたヒロの指にお礼のキスをした。
「あのさ、大ちゃん。」
ソコヘ向かおうとしてた僕にヒロが言う。
「本気・・・?正直、そんなにマジマジと見るもんじゃないと思うけど・・・。結構グロいでしょ・・・?」
僕と目を合わせないままヒロは言う。なんか可愛い。僕は笑って、
「ヒロのアレなんて、いっつも見てるでしょ?いまさら恥かしいなんて、ね。」
さっきヒロに言われた言葉をそっくり返す。
「大ちゃぁ〜ん・・・。」
情けない声を出すヒロ。
「さっきの仕返し。」
そう言うと僕はヒロのパンツの中に潜り込んだ。そっと触れて、小さくキスをする。
「・・・いちゃ・・ん。」
ヒロがブルッと震えて僕を呼ぶ。
僕は何も言わずにキスを繰り返す。今は手の中に収める事の出来ないヒロ自身。
ごめんね、ヒロ・・・。
こんなになってるのに、こんなキスしかしてあげられない。
僕は切なくなって何度もキスをする。
どうかこの気持ちが届きますように・・・。
「・・・っ!!おしまい!!ハイ、もうおしまいです!!」
僕はヒロの手に捕まえられてそこから連れ出される。
「ちょっとだけって言ったよね?だからもう、ちょっとはおしまい!!」
「ヒロ。」
「これ以上されたら、本気で寝らんないよ、大ちゃん・・・。」
僕を元通り枕のそばに降ろして寝なさいってハンカチをかけた。僕もこれ以上は止まらなくなりそうで怖かったから、素直に横になる。
「ねぇ、気持ち伝わった?」
ぽそりと耳元で尋ねる。するとヒロは優しく笑った。
「伝わったよ。ものすごく。」
「ありがと。ごめんね、ヒロ。」
「謝んないの。大ちゃんが悪いんじゃないって言ったよね。」
ヒロが優しく僕を撫でてくれる。
「・・・うん。」
「でも・・・。」
ヒロは小さく溜息をついた。
「元に戻る方法を見つけないとね。」
「うん。」
僕はヒロの頬に身を摺り寄せる。
「オレは、ちっちゃい大胆な大ちゃんも結構好きだけど。」
クスッと笑って言う。
「さぁ、今日は寝よう。明日起きたら、また考えようよ。」
「うん。」
「おやすみ。」
そう言ってヒロは柔らかく触れるだけのおやすみのキスをしてくれた。
「おやすみ。」
僕からもキスを返して、そっと目を閉じる。ヒロの手の中に包まれて、僕は緩やかに眠りの中に落ちていった。
「へくちっ!!」
くしゃみの音で目が覚めた。
重い瞼を開きながら、明るくなった空気に目をこする。あぁ何だか久しぶりによく寝た気がする。
思い切り伸びをして布団から起き上がる。寒いと思ったら何にもかけてない。
隣に寝てるはずのヒロを振り返る。
アレ?いない。
もしかして朝ご飯の用意なんかしてくれちゃってるのかも。
そう思って僕はにんまりする。どうせだから、ヒロが起こしに来るまでゴロゴロしちゃおうかな。
改めて掛け布団に潜り込んで至福の時間を味わおうとする。
え!?
アレ!?
見慣れた景色。
しっくりくる布団のサイズ。
枕元に置いてあった携帯電話を手に取る。
持てる!!
僕、元に戻ってる!?
「あは・・・あはは・・・。」
ジャストフィットの布団を握り締めて、嬉しさに涙が込み上げて来る。
「ヒロ!!」
ベッドから抜け出して、ヒロがいるだろうキッチンへと駆け込む。
「ヒロ!!」
覗き込んでもヒロの姿はない。
「あれ?」
リビングも他の部屋も覗いてみたけど、どこにもヒロの姿はなかった。
買い物行ったのかな・・・?
驚いて、喜んで欲しかったのに、肩透かしにあった気分。僕は仕方なくヒロの温もりの残るベッドルームへと戻った。ポスンと倒れ込む。
「どこ行っちゃったんだよぉ、バカヒロ・・・。」
溜息と共に吐き出す。
「だいちゃぁ〜ん。」
突然近くからヒロの声がする。
「ヒロ?」
キョロキョロと見回すけれどどこにもヒロの姿は見当たらない。
「だいちゃぁ〜・・・ん。」
ヒロの声がまた・・・。
「ヒロぉ!」
たまらず叫んだ僕の指先に触れる感触。何気なく視線を寄越すと・・・。
「ヒロぉ!?」
そこには手乗りサイズのヒロが情けなさそうに頭をかいていた。
「嘘でしょぉ〜!?」
僕の叫び声は差し込む陽の光の中に虚しく響いた。
さぁ今日もドキドキの一日。
END20090529