<Night x Night>

 

 

 

 

 

 

 

 

いつからか、抱き合って眠るのが当然のようになってしまった。

 

一人で眠るのが怖いから、誰かの体温が温かいから、そんな子供のような言い訳など意味を成さないこの歳になって。

そうして眠るのが、それ以外の意味を持っていることを充分過ぎるほど知っているのに。

 

 

 

 

 

隣のぬくもりに左右される自分が滑稽に思える。

狭いだの暑いだのと繰り返すくせに、何故自分はそこから出て行かないのだろう、相手を追い出したりしないのだろう。

 

 

 

一人の夜はどこか間が抜けている。

 

いつもの時間を持て余し、早い時間に寝る気にもならず、無駄につけたTVをただ垂れ流す。そんな時、決まって夜は長い。

垂れ流したTVに寝るタイミングを逃し、余計に夜は長い。

自分の溜息にウンザリしてさっさと寝てしまおうと目を瞑るけど、かえって頭が冴え冴えとして眠れない。

 

いつものぬくもりがない、ただそれだけの事で・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いの肉体を貪りあう夜は熱く長い。

 

打ち震えるような快感に総てを手放してなお、夜は空けようとしない。

白々と、外界を隔てるカーテンの向こう側が明るくなっているのに、それに気付かない振りをする。

 

 

夜は長い。

 

夜は、

 

長くなくてはならない。

 

 

 

あがった息の下で『今』を気にする。

途端に現実が襲ってくる。

 

今日の打ち合わせは何時からだったか・・・。

 

 

日常生活にまみれた自分達は、ほんの束の間の夢すらすぐに打ち破る。その事が、この行為をただの排泄行為に摩り替えようとする。

 

 

 

「もうひとねむりしよう。」

 

 

 

どちらからともなく頷いて、その温もりに身をよせる。

そうやって初めて、自分達はこの行為に別の意味をもたせる事に成功する。

啄ばむようにキスを交わし、それを固いものにする。

 

ぬくもりは、そうして意味を持つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人の夜は、やはり長い。

 

 

何も掴まず空を切る手。

 

ぽとりと落ちる。

 

冷たいシーツの上では何もこの手に抱く事は出来ない。

 

 

 

 

虚しい。

早く眠ってしまいたい。

 

 

 

寝返りを何度も打つ。

脳の奥がキリキリと痛むようだ。

漏れる溜息。

 

 

 

あぁ、ウンザリする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチャリ・・・。

 

 

 

控えめな音が聞こえる。ひんやりとした空気が流れ、そして止まる。布団の端を捲り上げて入って来る別の重さ。

 

 

あぁ      

 

 

温もりに手を伸ばす。

 

 

 

「起こしちゃった・・・?」

 

 

 

小さな、少し掠れた声が問う。

 

 

 

「起きてた。」

 

 

 

閉じた瞼のまま、そう答える。

 

 

 

「・・・そう。」

 

 

 

彼が柔らかく笑んだ。

 

 

 

「ん。」

 

 

 

寝返りを打って両手で差し招くとぬくもりが降りて来る。

 

 

 

     あぁ、あたたかい。

 

 

胸の上の重さを抱きしめてじっとしている。

 

 

 

「ひとねむりしよう。」

 

 

 

胸の上で響く言葉。答える代わりに抱きしめる腕に力を込める。

 

 

夜は、

 

穏やかに過ぎて行く。

いつもとは違う速さで。

 

 

 

「おやすみ。」

 

 

 

「・・・ん。」

 

 

 

手放しかけた意識の中で頷く。まどろみは、緩やかにこの身体を包んで・・・。

 

 

 

 

抱き合って眠るのが当然のようになってしまった。

 

 

このぬくもりは・・・、

 

 

やがて消える時が来ても、けっして忘れない・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

END20090529