<New Days>
6/2 23:42
「もしもし?ヒロ?」
「大ちゃん、どうしたの?」
「うん・・・。別になんでもないんだけどさ。今、何してんの?外?」
「うん。車走らせてた。」
「あ、もしかして運転中!?」
「違うよ。今は止まってる。」
「信号?」
「ううん、休憩中。」
「そっか・・・。」
「で、どうしたの?仕事?」
「う・・・ん・・・。仕事じゃないんだけど・・・。」
「大ちゃん今、家?」
「ううん、スタジオ。僕も今、休憩中。」
「そっか。」
他愛のない会話。
お互いに何かを言いかけて躊躇う。
訪れる沈黙に苦笑を漏らして、しかし、その先に繋ぐ言葉を見つけられない。
別に取り立てて用件があったわけではない。ただ何となく・・・そう言ってしまうのはわがままなような気がして。
「じゃあ」と軽く微笑みを交わしていつも通りに会話を終える。
手の中から聞こえる機械音が少し淋しい。
独りになりたい時、オレは車を走らせる。
何かを見つめたい時、自分をリセットしたい時、何かが始まりそうな時、理由は様々。
時間は誰にでも平等で、嘘をつかないから。
後、数分で日付が変わる。
オレにとっては特別な日。
今までのオレなら誰かと一緒に騒ぎたいと思っていたかもしれないけど、今年は・・・。
別に何かが変わるわけじゃない。
ただ気持ちの問題。
オレが、
始まった日。
何となく焦っているのかもしれない。
30台最後という事に。
何か、遣り残したことはないか、自分はちゃんと成長できているのか。
普段は忙しさに追われて気にかけないことが、こういう瞬間に不意に訪れる。
オレというものの真価を確かめたくなる。
10年前のあの時もそんな風に思っていたっけ・・・。
あの時は
。
一人で立たされて、何もかも手探りで、先が見えなくて、信じるものは自分しかなくて、でもそんな自分が一番信じられなくて、もがいていた。
人に弱みを見せないように、ただがむしゃらにとんがって・・・。
オレは、無理をしていたな・・・。
この10年の間にホントにいろんな事があって、今だから笑って話せることもたくさんある。
そうさせてくれたのは、他でもない『彼』だけれど・・・。
今のオレには彼がいる。
少なくとも彼だけはいてくれる、その安心感がオレにゆとりを持たせてくれる。
独りぼっちだったあの時とは違う。
なんてステキな力なんだろう。
たったそれだけの事がこんなにも力になっている。
握り締めたままの携帯電話が小さく揺れる。
開いて見ると、『彼』からのメール。
『お誕生日おめでとう!ヒロにとってステキな1年になりますように!』
0時調度に送られてきた可愛らしい絵柄のメールは、その向こうの彼を彷彿とさせる。
本当に
。
オレは何て幸せなんだろう。
こうして一番に祝ってくれる人がいる。
オレにとっての特別な日を、同じように特別と思ってくれる、その気持ちが嬉しい。
オレにとって特別なのは、この特別な日に愛すべき人がいてくれるという事。
オレの不安も、焦りも、全部解った上で、その総てを優しく包み込んでくれる『彼』がいるという事。
言葉にして伝えたい。
今すぐ、彼に伝えたい。
彼を呼び出す音を繰り返す。
「もしもし?」
「ヒロ、お誕生日おめでとう!メール、届いた?」
「届いたよ。ありがとう。」
「良かったぁ〜。」
彼の嬉しそうな声が聞こえる。
「大ちゃん・・・。」
「ん?」
「
愛してるよ。」
日付変更線を越えて、オレはこの想いを彼に告げた。
END