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<Milky Way>

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあアベちゃん、大ちゃん借りるね。」

 

 

「ハイハイ、いってらっしゃい。」

 

 

シッシと手を振りながらアベちゃんが僕を追い出そうとする。

 

 

「ちょっと、待ってよ!?何?僕、まだする事あるんだけど。」

 

 

僕の必死の抗議にも耳を貸さず、アベちゃんもヒロも僕をスタジオから遠ざける。

ヒロの突発的な行動には慣れてるけど、それをアベちゃんまで・・・。一体なんなの????

 

笑顔で強引に僕を連れ出したヒロは、僕を乗せるとさっさと車を走らせた。

後ろでアベちゃんが手を振ってる。あ〜〜も〜〜何?これ!!

 

 

「ちょっと、ヒロ!僕、まだ仕事残ってるんだけど。」

 

 

「まぁまぁ。」

 

 

僕なんかより断然上手いハンドル捌きで車を走らせるヒロは、笑って僕の言うことを全然取り合ってくれない。

 

 

「ヒロ!!聞いてるの!?」

 

 

運転中だからつかみ掛からなかったけど、それこそそのくらいの勢いでヒロに食いつく。すると後ろの方から僕の携帯の着信音が・・・。

 

 

「ホラ、大ちゃん、携帯鳴ってるよ。」

 

 

「えぇ???」

 

 

僕が持ってきた記憶なんてないのに、何で?いつの間に僕の携帯がここに???

訳がわからないけど、鳴ってる電話を無視する事も出来なくて、僕は後部座席を覗いた。

僕の鞄?????

何で?も〜〜いつの間に???

鞄を開けるとそこにはまぎれもない僕の携帯。

着信は、アベちゃん。

 

 

「も〜〜アベちゃん!!どう言うこと!?」

 

 

『まぁまぁ、今日はもうオフよ。楽しんでらっしゃい。』

 

 

「だから〜〜〜何が?」

 

 

『いいじゃない。後はヒロに聞きなさい。じゃあ、明日はゆっくりで良いわよ。』

 

 

「ちょっと、アベちゃん!!!」

 

 

勝手に言いたいことだけ言って、勝手に電話を切るなんて、もう!!

後はヒロに聞けって・・・どう言うことなんだよ!!

 

 

「ちょっと、ヒロ。ちゃんと説明してよね。僕は暇じゃないんだよ。ツアーの曲だってアレンジしちゃいたいし、自分の曲だってもうちょっとやりたいし。ヒロとドライブしてる暇はないの!!スタジオに戻してよ!!」

 

 

「やだよ。今日はオフだってアベちゃんも言ってたでしょ?オレ、ちゃんとアベちゃんにOK貰ったよ。」

 

 

「だ〜か〜ら〜〜!!そう言うことじゃなくて!!」

 

 

「大ちゃん、顔、怖いよ。ブ〜な顔になってる。」

 

 

「こんなオヤジ捕まえてブ〜も何もないだろ!!

も〜〜バカ!ヒロ!!勝手にしろ!!」

 

 

も〜〜〜頭にきた!!何で解ってくれないのかな!!も〜ツアー、今週末なんだよ!!時間ないんだよ!!

やらなきゃならない事はいっぱいあるのに、1分1秒でも時間が惜しいのに!!

 

僕はふてくされて窓の外をじっと睨んだ。

一体、何処に行こうとしてるのか、どのくらいの時間がかかるのか、全く解らないし、教えてくれようっていう気配すらない。

僕に気を使ってか、それでも控えめとは言いがたいボリュームで流れる曲をいい事に僕はブツブツと呟いた。

 

 

「ヒロのばか、ヒロのばか、ヒロのばか。」

 

 

「聞こえてるよ、大ちゃん。」

 

 

笑いながら僕の髪をくしゃくしゃっと撫でる。

 

 

「も〜〜バカぁ!!!」

 

 

ヒロに背を向けて窓の外をじっと見つめながら、思いっきり叫ぶ。

後ろでヒロの爆笑する声が聞こえるけど、そんなのムシ!!

だって、ホントにホントに・・・バカ〜〜〜〜!!!!!!!

 

最近の徹夜がたたったのか、気付くと僕はぐっすりと眠りに落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大ちゃん、着いたよ。ね、大ちゃん、起きて。」

 

 

ヒロの声に重い瞼を開くと、すっかり辺りは暗くなっていた。

 

 

「ヒロ?」

 

 

「着いたよ。さ、行こう。」

 

 

「着いたって何処に?」

 

 

「いいから。」

 

 

そう言ってあっという間に助手席のドアを開けてくれる。

 

 

「さ、どうぞ。」

 

 

まるでどこかの紳士みたいに手を差し出して僕を車から降ろしてくれる。

 

 

「え・・・・!?」

 

 

降り立った場所は見覚えのあるソコ。ここって・・・ねぇ、もしかして・・・!?

 

 

「ディズニーランドぉ!?」

 

 

「ご名答!!」

 

 

広い駐車場の一画に車を停めて、僕の手を握ったまま歩き出すヒロ。

 

 

「え????何で???何でディズニーランド????」

 

 

慌てて時計を見るともう閉演までほんの少ししかない。今からなんて入れるわけない。

 

 

「ねぇ、ヒロ、もう終わっちゃうよ?もうお終いなんだってば。」

 

 

ズンズンと手を引いていくヒロに話しかけたけど、ヒロは上機嫌で、

 

 

「いいから、いいから。」

 

 

なんて・・・。

いつの間にか僕の荷物まで持ってくれてるし。

 

そりゃあ外からだってここが見れるのは嬉しいけどさ、やっぱりここまで来たら入りたくなっちゃうじゃないかぁ〜〜。

それじゃなくても最近レコーディングで全然来れてないから、ディズニー禁断症状が出ちゃうんだよ!!

 

 

「大ちゃん、困った顔してる。」

 

 

振り返ったヒロが面白そうに言う。

 

 

だって・・・。あぁ〜〜〜ん、ミッキー!!!!!!

 

 

続々と帰路につく人が吐き出されてるゲートを見つめながら僕はヒロに引っ張られるままに歩き続けた。

どんどんゲートが遠ざかっていくぅ〜〜〜〜。

 

 

「さ、大ちゃん、今日はこっちだよ。」

 

 

急に立ち止まったヒロが僕の肩を掴んで前を向けさせた。

 

 

「えぇ????コレって!!!ちょっと、嘘でしょ???」

 

 

「嘘じゃないよ。今日はここにお泊りだからね。」

 

 

とびきりの笑顔で言うヒロの指し示した場所は新しく出来た東京ディズニーランドホテル。でも確か、オープンは明日からじゃ・・・。

そんな僕の戸惑いを全然気にかける様子もなく中に入っていこうとするヒロ。

 

 

「ちょっと!!まだ明日からだってば!!入れないよ!!」

 

 

電気はついてるけど、入れるわけがない。そう思ってたのに・・・・あれ????

 

 

「大ちゃん、早く。」

 

 

すっかりロビーに入っちゃってるヒロが僕を手招きする。

 

 

うそ〜〜〜〜〜!!!!!!!

 

 

僕は躊躇しながら、それでもヒロの後についてロビーに入ってみた。

 

 

「わぁぁ〜〜〜〜ミッキー!!!!!!!」

 

 

思わず叫んでしまってから慌てて口を噤む。

ロビーの中央で僕を迎えてくれたブロンズ像のミッキー。もうそれだけで夢のよう!!

 

 

「気に入った?」

 

 

いつの間に近くに来ていたのかヒロが僕の顔を覗き込んで尋ねる。

僕はもうただただ頷く。でもオープンは明日からなんじゃないかとか、勝手に入って怒られたらどうしようとか、でも開いてるのもおかしいよねとか、いろんな事が頭を駆け巡る。

 

 

「じゃ、行こうか。」

 

 

そう言って手の中の鍵を僕に見せる。

 

 

「と・・・泊まるって・・・ホントなの!?」

 

 

軽く頷いて僕をエレベータに乗せてくれる。僕はもう訳が解らず、でも至るところにあるミッキーをかたどったものに心を奪われていた。

 

 

「ここだよ。」

 

 

そう言ってドアを開けてくれるヒロに促されて部屋へと入る。

 

 

「うわぁ・・・。」

 

 

ディズニーの持ってる夢の空間そのままの空気。僕は一歩入っただけで嬉しくて、夢でも見てるんじゃないかと今を疑った。

時計を見てヒロが立ち止まってる僕の背中を押した。

 

 

「まだ間に合うよ。大ちゃん。早く中に進んでみて。」

 

 

「え?」

 

 

「ホラホラ!!」

 

 

「ちょっと、ヒロぉ〜〜。」

 

 

ヒロに押されるままに中に進むと、窓際に立たされた。

 

 

「はい。大ちゃん!!」

 

 

一気にカーテンを引かれて僕の目に飛び込んできたのは・・・

 

 

「すごぉ〜〜〜い!!!!!!!!!きれ〜〜!!!!!」

 

 

ディズニーランドが一望出来る凄い景色。正面にライトアップされているシンデレラ城が見える。

 

 

「ねぇ、凄いよ!!凄い!!!ヒロ!!!」

 

 

僕は興奮のあまり上手く言葉に出来なくて、ヒロを呼んだ。

ヒロも僕の後ろからこの景色を眺めながら僕をそっと抱きしめてくれる。

 

 

「大ちゃんが喜んでくれてよかった。」

 

 

「うん!!だって、どうして?すっごい嬉しいけど、何で?」

 

 

「大ちゃんさ、全然休んでないでしょ、最近。だから、ゆっくりしてもらいたくて。」

 

 

「ヒロ・・・。」

 

 

優しい心遣いに胸がきゅんとなる。

 

 

「たまたまなんだよ。

事務所に行ったらプレス関係者にオープン前に宿泊してもらうって言うのがあって。それを頼み込んで譲ってもらったのに行けなくなったって人がいてさ。じゃぁ誰か・・・って話になったから、オレ、ください!!って言っちゃった。みんなもビックリしてたけど、でもオレ、絶対絶対大ちゃんに喜んでほしくてさ。」

 

 

苦笑するヒロ。

 

 

「それに、今日は、ね。何の日か知ってる?」

 

 

「何の日・・・って・・・。」

 

 

「七夕だよ。1年に1回、逢う事を許された日なんだよ。だから・・・オレも大ちゃんと一緒にいたかったし。」

 

 

「ヒロ・・・。」

 

 

窓ガラスに映ったヒロが照れくさそうに笑う。

 

 

「ありがと、ヒロ。でも、年に1度しか逢ってくれない気?僕そんなに待ってられないよ。」

 

 

そう呟くとヒロの困った顔が見える。

窓ガラス越しに見つめ合って、どちらからともなく笑いがこぼれる。

 

 

「ほんとにありがとね。すっごい嬉しいよ。」

 

 

そう言ってヒロに軽くくちづけた。

 

 

「大ちゃん!?」

 

 

「お礼!!七夕なんでしょ?1年に1回しかしないからね。」

 

 

笑ってヒロから離れると情けない顔のヒロが僕を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スィートルームじゃなくてごめんね。」

 

 

なんて言うヒロを軽く小突いて、部屋の中をさんざん見て回った。

テーマパークと同じように隠れたミッキーを探すのに熱中してると、あっという間に時間が過ぎていった。ヒロにとってはもうお休みの時間なのかも。さっきから欠伸ばっかりしてる。

 

 

「もう、僕、興奮して眠れなさそう。」

 

 

「それじゃあ、大ちゃんが休めないじゃん。ちゃんと寝ないとダメだよ。」

 

 

「だって・・・。」

 

 

そうは言っても、もしかしたらまだ僕が見つけてないミッキーが居るかもしれないし・・・。折角、来たんだし・・・。

僕が躊躇してるとヒロがそっと布団の端を開けて言った。

 

 

「おいで。」

 

 

ポンポンと自分の隣を叩いて、僕を呼ぶ。

仕方なくヒロの横に寝転がる。ミッキー、ゴメンね。

 

 

「こうしてたら寝れるよ。大ちゃん疲れてるんだから。」

 

 

きゅっと僕を抱きしめて、鼻先にキスをしてくれる。コレをされるとなんだか安心するんだよね。

僕はヒロの腕の中で寝返りをうって、上を見上げた。

 

 

「あ!!ミッキー!!!」

 

 

天井にミッキーの模様が見える。

 

 

「ね、寝て良かったでしょ?」

 

 

笑ってヒロが言う。

僕は笑ってるヒロの胸に頭を擦り付けて、布団の中にもぐる。そこからヒロに問いかける。

 

 

「ねぇ、今日は、逢えたよね。」

 

 

「ん?」

 

 

「織姫と彦星。」

 

 

「う〜〜ん、どうかな〜。曇ってるしね。」

 

 

「でも、雨が降ってるわけじゃないじゃない。」

 

 

潜り込んだ布団から顔を出してヒロに聞く。

 

 

「ねえ、どうして雨が降ると渡れないの?川が氾濫するから?橋がなくなっちゃうの?船、出せばいいのに。」

 

 

「大ちゃ〜ん。

船でも渡れないんだよ。きっと。あぶないからね。」

 

 

「だって、すっごい好きな人なんだよ?なんとしても逢いたいと思わないのかな?」

 

 

「そりゃあね。大ちゃんはどうなの?もし、雨が降ってあぶなくても逢いに来てくれる?」

 

 

ヒロが僕の髪を優しく撫でながら聞いてくる。

 

 

「ヒロが、逢いに来てくれるでしょ?どんな川だってヒロなら泳いで来てくれるでしょ?だって、ヒロ、上手だもんね。泳ぐの。」

 

 

「オレなの!?」

 

 

「そう。ヒロは僕を一人にしたりしないよね?」

 

 

きゅっとヒロに抱きついて、ここにあるぬくもりを確かめる。

聞こえるヒロの鼓動。心地良い・・・。

 

 

「大ちゃん?」

 

 

ヒロの声が耳元で聞こえる。

 

 

「寝ちゃったの?」

 

 

「・・・う〜・・・ん、寝てないのぉ・・・。」

 

 

離れかけたヒロの胸にきゅっと擦り寄る。

 

ヒロの匂い・・・。僕の大好きな、ヒロの・・・。

 

 

「寝て良いよ。お休み、大ちゃん。」

 

 

チュッと僕の髪にキスをする。

 

 

「・・・う・・・ん・・・こっちもぉ・・・。」

 

 

「はいはい。」

 

 

チュッと唇を重ねる。そのぬくもりにひどく安心する。

 

 

「んふふ・・・ひ・・ろぉ・・・。」

 

 

ここにヒロがいる。僕の大好きな、いつでもそばにいてくれる人。

年に1回しか逢えないなんて僕には耐えられない。ずっとずっと一緒にいたい。

だから、例え今日という日が終わっても、ヒロを対岸に戻したりなんてしない。

神様に何を言われても、絶対離さないんだから。

 

 

僕はヒロを抱きしめたまま、深い眠りの中に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              END