<LIAR GAME>

 

 

 

TO:大ちゃん

タイトル:ゴメン

好きな人が出来た・・・。

ホントにゴメン・・・。

 

 

 

急に飛び込んできた携帯のディスプレイの中の文字に、大介は愕然としたまま動けなくなっていた。

 

・・・・ナニ?

 

あまりにも急な別れ。あまりにも冷たい文字。

携帯の中の彼は自分の知らない人のように大介には感じられた。

 

・・・こんなこと急に言うなんて・・・・。

 

昨日までは隣で笑っていた。いつもと変わらない表情で、いつもと変わらない距離で自分を抱きしめてくれていたその人が、急にこんな冷たい文字を送ってきたことが信じられなかった。

こんな時、涙も出てこない。

人はあまりにも哀しみが深いと、自分の力では泣くことも出来ないことを初めて知った。

 

「・・・すけ・・・大介!!!」

 

急に耳に届いた声に大介が顔を上げると、そこには良く見知ったアベの顔があった。

 

「アベ・・・ちゃん・・・。」

 

「何、呆けた顔してんのよ。今日の作業はもう終わったの?」

 

「・・・うん。」

 

大介は無気力に頷いた。例え作業が残っていたとしても、もうこの状態では何も出来ない。

 

「じゃあ、帰るわよ。さっさと支度しなさい。」

 

「・・・うん。」

 

愛犬たちを呼び寄せて、何も考えられない頭でいつもの動作を繰り返す。

すると不意にアベの笑う声が聞こえた。

 

「ちょっと、も〜〜〜ダメ。アンタ、リードだけ持って、何処行くつもりよ。」

 

「え?」

 

見るとリードの先の首輪は地面に転がったまま。愛犬たちは既にドアの前に移動してそんな大介を不思議そうに見ていた。

 

「あんたってホントにヒロの事になると・・・・。」

 

アベが呆れたようにため息をつく。

 

「今日は何の日?」

 

「・・・4月・・・1日・・・・。

・・・・・・・・・・・あぁぁ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

思い出した今日の意味。そんな大介を見て、アベが自分の携帯を開いて見せた。

 

 

To:アベさま

タイトル:大ちゃんには言わないでね!!!!!

 

 

そこには大介を騙して2人で楽しもうというような内容の文面が書かれていた。

 

「も〜〜〜2人して〜〜〜〜。騙された〜〜〜〜悔しい〜〜〜〜!!!!!」

 

「実はね、外にヒロがいるのよ。車の中から、落ち込んだ大ちゃんが出てくるのを見ようって言う計画なの。」

 

「ちょっと!!何処まで準備がいいんだよ!!!」

 

「だから〜〜〜。」

 

その瞬間アベが悪魔的に笑った。

 

「こっちもやり返すって言うのは、どう?」

 

「アベちゃんてば〜〜〜。」

 

こういう時の2人の結束は早い。

 

 

 

2人は何食わぬ顔をして外へと出た。もちろん博之に何の返信もしないままで。

 

「あれ???大ちゃん、まだメール読んでないのかな???」

 

車の中で1人、事態を知らない博之が呟いた。

博之の目には愛犬たちと楽しそうに歩く大介の姿が映っていた。するとその視界の中の大介がおもむろに携帯を取り出した。

鳴り出す博之の携帯。

 

 

 

TO:ヒロ

タイトル:そうだったんだ

ヒロ、好きな人が出来たんだね。このところ、ヒロとの距離に違和感を感じてたのは、僕のせいだけじゃなかったんだね。ヒロも・・・。

実は僕もずっと言えずにいたんだけど、好きな人がいる。ずっと黙っててゴメン。でも、これでオアイコだよね。

虫のいい話かもしれないけど、accessは続けて行きたいと思ってる。ヒロがイヤでなければだけど・・・。でも、僕達だって、もう大人なんだし、仕事としてやっていけるよね、きっと。

次に会う時は良きパートナーとして・・・。今までありがとう。

 

 

 

「・・・・だいちゃん・・・・?うそ・・・だろ・・・?」

 

博之は手の中の携帯を何度も読み返した。

何度読み返してみても変わらない文面。慌てて先程大介がいた場所に目を走らせる。が、大介の姿はもうそこにはなかった。

 

「大ちゃん・・・。」

 

思わずハンドルに突っ伏して、見るともなく携帯を見つめていると、突然振動が伝わった。

 

 

 

To:ヒロ

タイトル:今

大好きな人のすぐそばにいるよ。

 

 

 

携帯を読み終わるか終わらないかのうちに博之の車の窓をノックする音がする。

 

「・・・・大ちゃん・・・????」

 

事態の飲み込めない博之は窓の外に立っている大介を呆然と見つめた。するとその隣に自分の悪戯の片棒を担いだはずのアベの顔が見えた。

 

                                 !!!!!!!!!!」

 

その瞬間、博之は総てを理解した。

 

「も〜〜〜!!!アベちゃん!!!!!大ちゃんに言わないでってあれほど言ったのに!!!」

 

博之は助手席のドアを開けて、2人に抗議した。

 

「何よ〜〜〜慌てた顔しちゃて〜〜〜。あ〜〜〜たのし〜〜〜〜。」

 

1人笑い転げるアベに、大介と博之は苦笑した。結局、2人ともアベにいいように遊ばれたということ。一番楽しい思いをしたのはアベに違いなかったから。

 

「もう、ホントに青くなったよ。大ちゃんの嘘は真実味がありすぎるよ。」

 

「ヒロみたいに全部が嘘じゃダメなんだよ〜〜。嘘って言うのは限りなく真実に近くないと、すぐばれちゃうんだから。」

 

「そんなこと言って、ヒロからのメールに真っ青になってたのはだぁれ〜〜〜?」

 

「ちょっと、言わないでよ!!!もう!!!」

 

怒った大介を宥めて、アベは大介の手にしていたリードを受け取った。

 

「後は2人でゆっくりしてきなさい。今日は子供、預かっといてあげるから。」

 

そう言って、大介を博之に車に押し込んだ。

 

「ちょっと、アベちゃん!!」

 

「嘘でもショックだったんでしょ?2人とも。だったら、ちゃんと誤解を解いときなさい。仕事にまで引きずってきたら承知しないわよ。」

 

そう言って笑ったアベに大介は苦笑した。

 

「ありがと・・・アベちゃん。」

 

博之もバツが悪そうに頭をかいた。

 

 

エイプリルフールの嘘はお互いの愛情を確認する為の嘘だって信じてる。

だけど、嘘は胸の奥がきゅんと痛む。

だから、同じだけの愛情を持って、嘘を真実に変える甘い時間を過ごしてもいい?

 

 

 

博之の車は大介を乗せたまま、夜の中へと走り出した。

 

 

 

                             END