<月光>
「月、きれい・・・。」
ポツリと呟かれた言葉に、ごろりと身体を反転させて、カーテンを閉めることすら忘れたベランダの窓から彼と共に見上げる。
「満月?」
「かもね。まぁるい。」
2人して、言葉も交わさずただ月を見上げる。
汗ばむ身体に薄暗いままの室内で気だるいままの自分達とは対極にあるかのような月。静かに、冴え冴えと冷たい光を放つ。
ベッドの軋む音で彼が寝返りを打ったのだと解る。
「シャワー、浴びる?」
問いかけると彼は何も纏っていない脚を絡ませた。
「ん?」
「ヒロはあったかいね。」
潜り込むように腕も腰も摺り寄せて、彼が言う。
「人の体温って落ち着く・・・。」
そう言って目を細めてみせる彼の髪を優しく梳いてやると、そのままうっとりと目を閉じた。
「暑苦しいんじゃなかったの?」
そう彼をいじめてやると、彼の平手が胸を打つ。
「一人を、怖いと思う事、ない?」
胸の中に落とされた言葉は聞き逃してしまいそうなほど小さい。
「たくさんの人の中でたった一人、僕は誰とも繋がってない、誰とも思いを共有できないんじゃないかって・・・。一人なんだ、僕は一人なんだ・・・って。
だからこうしてると落ち着く。僕にも誰かいてくれるって思えるよ。」
小さな身体を摺り寄せて、腕の中、彼はポツリと本音を漏らす。いつもは決して聞く事の出来ない彼の心の奥にある言葉。
「いつだってこうして触れてあげるよ。」
そっと抱きしめる。
「・・・うん。」
頭を胸に押し付けて温もりを確かめる。べとついた素肌に彼の髪が触れる。
何も隠すものがない自分達は、その想いごと温もりを分かち合う。
暗い室内に浮かび上がる彼の白い肌。
「月・・・きれいだね。」
腕の中の彼にそっと告げる。胸のところにある髪が揺れる。腕の中から首だけを返して、彼が窓の外を見上げた。
「そうだね。」
2人して、言葉も交わさずただ月だけを見つめて、月の光だけが差し込む暗い部屋の中、いつまでもそうして月を見上げていた。
20090509 END