<FLY HIGH>
「あ、窓側。」
飛行機の座席を見ると窓側の席。オレは結構窓側が好きだ。理由は・・・外が見えるから。
飛行機の小さな窓から変化する景色を見ていると、時間を飛び越えている気になれるから。
長すぎるフライトはちょっとゴメンだけど、まぁ、7時間くらいなら・・・。そう思って少ない荷物を何となく落ち着けてフライトの準備を整える。
飛び立つまでの待ち時間をオレは滑走路でパタパタと走る職員を何となく見ていた。
すると横に人の気配。いくらビジネスで若干隣との距離があるとは言え、一応自分の荷物の所在を気にして身体を寄せる。
「あ・・・ヒロ。」
「なんだ、大ちゃんか。」
「なんだはないでしょう。」
考えてみればまとめて席を取ったのだ。隣が彼でも何も驚くことではない。
彼はそんなに多くない荷物を膝の上に乗せながら席に着いた。彼の事だ、その中には時間を快適に過ごす為のアイテムがいくつか入っているに違いない。ゲームとか・・・ゲームとか・・・もしかしたらノートブックとか。
出国ロビーで外したままのサングラス。今日はさすがにカラーコンタクトは入れていない。
「ねぇ、後でその中身貸してね。」
ニヤリと笑って言うと、彼は呆れたように、
「また人の荷物あてにしてたでしょ。僕が隣じゃなかったらどうするつもりだったの?」
「え?その時は席が離れてても借りに行くよ。」
「はぁ?だったら自分も持って乗りなよ。」
「え〜だってオレ、すぐ寝るもん。」
「だったらいらないでしょ?コレも。」
そう言って彼は自分の荷物をオレから遠ざけた。
「も〜〜大ちゃん。」
ニヤリと笑う彼の後方、多くの人が通り過ぎるのが見える。エコノミーの搭乗が始まったようだった。
「ねぇ・・・。」
オレは不意に彼に聞く。
「オレ達ってさ・・・ホントにここでいいのかな?」
「え?何が?」
「当たり前のようにビジネスクラスに乗ってるけど・・・。」
「だってちゃんとビジネスの料金払ってるでしょ?」
「そうだけど、そうだけどさ・・・。」
「何だよ。」
オレは上手く整理できない心の内を告げた。
「払ってるのは、オレ達じゃないじゃん・・・?オレ達だって前は・・・。
それなのに当然のような顔してさ・・・。みんな窮屈な思いしてくるんだよね?それって・・・。」
「バカヒロ。」
呆れたように彼が言う。
「それだけの仕事をする為に僕達はここにいるんだろ?何、訳わかんない事言ってるんだよ。」
「でも・・・。」
オレの中の釈然としない思い。
「お前の言ってることはエコノミーに乗るから責任を取らないでいい?って言ってるみたいに聞こえる。」
「そんな!!そんな事ないって!!」
オレは彼の言葉を否定する。すると彼はシートに深く身体を沈め、目を閉じて言った。
「だったらふんぞり返ってここに乗ってろ。ガタガタ小さな事気にしてんなよ。向こうに着いたらイヤってほど働かしてやるから。」
「大ちゃん。」
「な?」
彼はふんぞり返ったままその目を開けてオレを見て笑った。その傲慢とも取れる態度にオレはふと胸のつかえが取れる気がした。
「うん。」
小さく笑ってオレも返す。その時、出発を告げるアナウンスが機内に流れた。
END 20091015 in Hawaii