<FLY AWAY>
「またへばりついてんの?」
トイレに立った大ちゃんがオレの横を通りかかって笑って言った。
さすがにそんな偶然は続かなくって、今日は通路を挟んでの席。行きと同じように比較的空いている機内。オレの隣は空席のままだった。そこに大ちゃんが腰掛ける。
「そんなに珍しい?地面が見えるわけでもなく、ずっと空と雲でしょ?」
オレの後ろから同じように覗き込んで言う。
「そうだけどさ。何か・・・そこがいいんだよね。」
「ふ〜〜ん。」
さして興味もなさそうに窓から目を離す彼。
「あっという間だったね。」
そうポツリと言えば、
「そうだね。あっという間だった。」
と彼もポツリと言う。
「帰りたくないなぁ・・・。」
「それ、帰りの機内で言うセリフ?」
「このまま進路変更してくれないかなぁ。」
どこへ向かっているとも知れない青と白のコントラストの中、そう呟く。
「今日は寝ないの?」
からかうように言う彼に、いつも寝てるわけじゃないでしょと少し怒って見せると、いや、寝てるよと間髪入れずに答えられ苦笑する。
「何かさ、いろいろ思い出してた。こんなに楽しかったの久しぶりだよ。」
「そう。」
「大ちゃんと一緒でよかった。」
「それはどういう意味で?僕と一緒にいるといろんなところに行けるから?引っ張りまわすもんね〜〜僕。」
シートに身体を埋めて言う彼に、オレは身体ごと振り返り溜息をついてやる。
「そんな意味じゃないことくらい、解っててよ。」
少し剥れて言うと、
「解ってるよ。」
優しい声音でオレを見つめてきた。
「アベちゃん達に感謝しなくちゃね。僕らの方が楽しんじゃった。自分のじゃないのに何か神聖な気持ちになっちゃった。」
「うん。」
小さく頷く。すると彼は柔らかく笑って、
「ヒロと一緒でよかったよ。」
と、肘掛に置いたままだったオレの手に自分のそれを重ねた。その手は何年経っても変わらない、温かく確かなもの。
誓いをあげる2人を見ていて不意に思った。
オレ達はこんなふうには誓えない。
良くも悪くも、オレ達の前には誓いは存在しない。
その瞬間、この人が何を思っていたのか、オレには解らないけど、そっと触れてきたその手が言葉よりも多くのものをオレに伝えていた。
このぬくもり・・・。
真っ直ぐ2人を見つめている彼の横顔に気付かない振りをして、オレもそっとその手を握る。2人だけの・・・それは小さな誓い。
「帰ったらまた忙しくなるね。」
「そうだね。」
「また当分会えないかもね。」
「・・・そうだね。」
重ねられた手をそっと絡めて、オレ達は口には出さない誓いを交わす。
君となら何処へでも、
君となら何処まででも。
決して告げられない誓いに変えて 。
さぁ、次は何処へ行こう。