<Side DA>
「きっと、また、生まれ変わって、逢いに来る。必ずここへ戻ってくるから・・・。
だからお願い、オレの事、忘れないで・・・。」
今日も変わらない日々が過ぎて行く。
ここはあの時から少しも変わらない。
貴方のその言葉を信じて、どれだけの年月が過ぎたのだろう。
逢いに来ると囁いた貴方は、僕の事など覚えていないのかも知れない。
それほどに・・・人と僕らの時間は違いすぎた。
人より長く生きてしまう僕達だから・・・。
たかが人間のたった一言を信じて待ち続けるなんて・・・つくづくバカだと思う。
未来永劫の愛が存在しない事なんて知ってる。
永遠が続かないから簡単にそんな事 言えるんだ。
永遠の長さを知らないから・・・・。
退屈すぎて息が詰まる。
ここは、貴方との思い出が多すぎて・・・。
何処を見ても貴方がそこにいるような気がする。
幻の貴方はいつもそうして居るから。
でも・・・・。
貴方の体温も、貴方の声も、もう遠い過去のこと。
思い出したつもりで、もう、思い出せなくなっている。
あんな約束・・・本当は夢だったのかも・・・。
僕の存在を唯一受け入れてくれた人。
明るい笑顔を向けてくれた人。
僕の住んでいる世界とはあまりにもかけ離れた、暖かい光の住人。
一緒にいるためにこの闇に堕とすなんて事、到底出来なくて、僕の腕の中で、儚い生を終えた人。
だって、永遠は一瞬、甘美な誘惑に見えるけど、果てしなく続く、孤独な世界だって事を僕は知っているから・・・。
果てのない孤独の海に絡め取られるのは、僕だけでいい。
近付いてくる何かの気配に僕は顔を上げる。
この気配・・・・。
あまりにも女々しい思いに苦笑する。
ただの勘違い。
あまりにも長い時間、貴方を待ちすぎて、僕はおかしくなっているのかもしれない。
幻でもそばにいたい。
そんな想いが自分の感覚をも狂わせる。
孤独は人を弱くする。
貴方をこの腕の中で失ってから、僕はたった一人、ここで息をしていた。
この身体は朽ち果てる事を知らないけれど、心はあの時、貴方と一緒に朽ち果てたまま。
いっそこの身を燃やし尽くしてしまえれば・・・・・。
何度、そう願ったか解らない。
でも、その度に貴方との約束が脳裏をよぎる。
もし、貴方が僕を忘れていなかったら・・・。
孤独の淵に貴方を残していく事だけは出来なかった。
だから僕は待っている。
待つ事に意味などないと解っていながら、待っている。
近付いてくるあの気配。これは僕の望んだ幻 ?
僕は覚えてるよ。
どんなに姿かたちが変わっても、貴方の気配を覚えてる。
決して間違えたりなんかするはずがない。
これは、貴方のもの・・・。
僕が求めて止まない美しい魂の持ち主。
でも・・・
本当に貴方なの?
覚えていてくれていたの?
こんな僕との誓いを忘れずにいてくれたの?
気が遠くなるような時間の中で、どれほど求めていたか解らない、貴方のその輝きを感じる。
忘れていた鼓動が震えだす。
意識よりも先に身体が覚えてる。
貴方の体温を。
抱きしめられた腕の強さを。
眩暈を起こしそう。
これはあまりにも幸福すぎる夢。
だって、そんな事、あるはずがない・・・・。
近付いてくる貴方の気配に、僕は息をすることも忘れ、窓の外を伺い見る。
見えるはずなんてない。
貴方が僕の事を覚えてるはずがない。
ここへ辿り着く事なんてないんだ。
ここは切り離された闇の世界だから・・・。
解っていても期待してしまう。
もし、貴方があの誓いを覚えていてくれたら。
もし、貴方が僕に再び笑いかけてくれたら。
神様、願っても良いですか?
こんな僕が願っても良いですか?
他には何もいらないのです。
あの人の他には何も・・・。
いつもは気にかけた事のない時間が、何故だかすごく速く感じる。
時を刻んでいく秒針の音より速い僕の鼓動。
僕は何を待っているの?
僕は何を期待しているの?
さんざん裏切られて来たじゃないか、今までも。
だけど・・・・・。
貴方だけは違うと、心の何処かで信じてる。
裏切られてもいい、貴方になら・・・。
僕のすべてを貴方にあげる。
この長すぎる時間も、この朽ち果てることを知らない身体も。
好きなように切り刻んで、僕という存在を貴方の中に埋め込んで。
そうしてやっと僕は逝ける。この長い孤独の日々から。
近付く足音に鼓動が跳ねる。
僕を覚えているだろうか。あの日の誓いを覚えているだろうか。
僕は片時として忘れた事なんてなかったよ。
忘れられるはずがなかったよ。
だって貴方は、この世界が滅んでも、たった一人のヒト、だから・・・。
不意に足音が止まる。
見なくても解る。
そこに貴方が立っている。その扉の向こうに・・・。
お願いだから、このまま時を止めて。
この幸福な夢から覚まさないで。
こうして貴方の気配をまた感じられた、それだけでもう充分すぎるから。
だからお願い、このままそっとしておいて・・・・・。
もう、何も望まないんです。
これ以上何も、望まないんです。
神様 。