<あるがままの日常に・・・>
あなたの前を歩く気はないんだ、決してね。
それはズルイ生き方かな。ねぇ、あなたはどう思う?
始めて会った時から漠然と、そう、漠然とね、
あぁこの人はきっとそうなんだって、長いこと末っ子をやって来たカンかな?
あなたがそれを望んでいる事が解った。
案の定あなたは一番上で、末っ子のオレにはひどく居心地がよかった。きっとあなたもそうだったに違いない。
オレ達の間にはいつの間にかそんな関係が出来上がっていて、それを誰一人として疑問に思う人はいなかった。
でも、いつの頃からか、破綻は訪れていたんだね。
オレ達の関係は知らぬ間に形を変えて・・・そうだね、それを決定的にしたのは、やっぱりあの夜だったのかな。
あぁきっとそうだね。
初めて、本心から語り合った最後の夜。オレ達は先の見えない未来に声を殺して泣いたっけ。
あの時ほど歳の差も、持って生まれた気質も恨んだ事はないよ。
オレ達は対等じゃない。
掴み合ってケンカする事さえ出来なかった。
ただ違いを認められず、仕方ないから・・・と吐き出すしか。
もう交わる事のない人生。
オレもあなたも口にこそ出さなかったけど、確かに感じていた。
仕事を除けば何ひとつとして共通点のない二人。
趣味も遊び場所も遊ぶ相手も、普通は何かひとつくらいは被りそうなもんだが、オレ達はおそろしい程、何もかもが噛み合わなかった。
消息が途絶えるのは簡単だった。
お互い、元々が他人に干渉しないタチだから、相手が何をしてようと全く気にも止めたりしなかった。
日々は・・・あの駆け抜けた2年間がまるで幻みたいに過ぎて行った。
オレのリズム、オレのスピード。
だけど何年か経ったある日、不意に自分の行動にあなたを見つけた。
いつの間にか移ってしまった癖。
あなたに言われた事を守っている自分。
あなたとは掛け離れた日常の中に存在するあなた。
駆け抜けたあの時が蘇る。
あなたとは何ひとつ一緒じゃなかった。正反対だとまで言われた。
それなのに、こんなところに一緒が存在する不思議。
あぁあなたは、オレにとってあなたは・・・。
何をしているのかが急に気になった。
あなたの事が気になった。
あなたの前を歩く気はないんだ、決してね。
それだけはあの時から変わっちゃいない。
ただ今は、望めばケンカくらいは出来るようになった。
あなたも決して強くはないし、オレも譲れないものが出来た。
相変わらず同じじゃない2人だけど、交わる術は覚えた。
もう交わる事はないとあの時二人で思った関係は、驚くほど自然に今、ここにこうしてある。
気付けば兄弟よりも長い付き合いだ。お互いの嫌なところもすぐに言いあえる。
馴れ合っていたあの頃はいいところばかりに目を向けていた。
たった僅かの気になるところが何百倍にも膨れ上がりそうで、見ない振りをしていた。
子供だったからね、オレもあなたも。
オレ達は別れるべくして別れ、出会うべくしてまた出会った。
信じられないかも知れないけど、あなたもオレの癖が移っていたことに気がついてウンザリしていたって言うんだから、可笑しくて笑っちまう。
結局そう言う事なんだと思う。なるようになる、あるようにあるしかないのだ。
そんなあきらめをつけたら、オレ達は途端にうまくいった。
誓約しない、
干渉しない、
好きなように、
楽なように。
また別れる時はくるのかもしれない。
でもきっとまた出会うべくして出会うのだろう。
きっと、そんな気がする。
あなたの前を歩く気はないんだ、決してね。
それがオレのスタンス。
そしてそれが、あなたのスタンス。
もしそのことに疲れたら・・・今度こそ殴り合いのケンカでもしよう。
きっとオレ達ならうまく行くよ。
そうだろう?
ね、大ちゃん。
END20091101