<After  the  Party>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行きたくない。」

 

 

そう呟いて布団の奥、ヒロの腕の中に潜り込んだ。

 

昨日の熱を引きずって、まだ足りなくて求め合って、優しく思いを分かち合うように重ねた肌。ライブの後は決まってこの肌が恋しくなる。

直に触れる自分より体温の高い彼の肌に鼻を擦りつけ、静かに上下する鼓動に耳をすます。

 

 

やっぱり・・・。

 

 

「行きたくない。」

 

 

「んん・・・?」

 

 

その腕で僕をぎゅっと抱きしめて彼が目を覚ます。

寝返りに僕を巻き込んで、薄く開いたその瞳で眩しそうに僕を捕らえる。

 

 

「おはよ。大ちゃん。」

 

 

彼の腕に捕らわれた僕のこめかみに軽いおはようのキスを降らす。

 

 

「ごめん、起こしちゃった?」

 

 

「ん。大ちゃんの熱い抱擁で目が覚めた。」

 

 

「ばか。」

 

 

朝から甘い言葉。その間にも彼のおはようのキスは優しく降り注ぐ。

 

 

「大ちゃんこそどうしたの?いやに大胆じゃない?」

 

 

「べつにぃ〜〜。」

 

 

そう言って再び潜り込む。彼の少し汗ばんだ胸の上に唇を這わせる。

余裕な表情の彼は僕のしたいようにさせてくれる。その間も手は優しく僕の髪を撫でている。

 

 

「大ちゃん。」

 

 

「ん?」

 

 

唇での悪戯はそのままに、彼に答える。

 

 

「時間、大丈夫なの?今日、堂本兄弟じゃなかったっけ?」

 

 

「・・・。」

 

 

「大ちゃん?」

 

 

「・・・行きたくない。」

 

 

ミノムシみたいに布団を頭から被って、ヒロに引っ付く。

 

 

「どうしたのさ、大ちゃん。」

 

 

すっぽり被った布団から僕を引っ張り出しながらヒロが笑う。

 

 

「だって今日、雨降るもん。」

 

 

「スタジオ入っちゃえば関係ないでしょ?」

 

 

「カミナリ鳴るもん。」

 

 

「カミナリ嫌いだったっけ?」

 

 

「髪の毛、上手くまとまらないんだから。」

 

 

「スタイリストさんがキレイにしてくれるよ。」

 

 

「・・・。」

 

 

「大丈夫、そのままでも大ちゃんは充分に可愛いから。」

 

 

「可愛くなんかない!!ヒロ、昨日もMCでそんな事言って!!」

 

 

「だって可愛いんだから。」

 

 

「も〜〜〜ヤダヤダヤダヤダ!!!行きたくないの!!!!!!」

 

 

そう言って、再び布団をミノムシみたいに被る。

ヒロの苦笑が聞こえる。

 

 

「どうしたの?大ちゃん。今日は甘えたがりなの?」

 

 

ぽんぽんと背中をあやすように叩きながら聞いてくる。

 

 

「だってぇ・・・。」

 

 

ヒロの胸の上に顔を乗せて、布団から顔だけ出すと、優しい僕の大好きなヒロの微笑み。

その顔が僕をわがままにさせてるって事に気付いてる?

 

 

「昨日の今日で疲れちゃってるのは解るけどさ、お仕事でしょ?行かなきゃ。」

 

 

全くもって真っ当な理由を突きつけて、ヒロがそのカッコいい顔で僕を見つめてる。

人の気も知らないで・・・。

そんな理由じゃないのに。

 

 

「そんなむくれた顔しないの。ね、大ちゃん。」

 

 

僕のほっぺたを楽しそうに突付きながら、蕩けるような甘い顔でそう告げる彼の胸の突起をぱくっと咥える。

 

 

「大ちゃん。」

 

 

くすぐったそうに身を捩る彼を無視して、そのままちゅぅぅ〜〜っと吸ってみせる。

 

 

「痛いよ、大ちゃん。」

 

 

苦笑する彼の困った顔に齧り付くようにキスをして、ヒロの唇をぺろぺろと舐める。

 

 

「ちょ・・・ホントにどうしちゃったの?ねぇ、大ちゃん。」

 

 

ビックリしながら、それでも嬉しそうにヒロが聞く。

そりゃあ、普段はこんな事しないけどさ・・・。

 

 

「ヒロが欲しい。」

 

 

「大ちゃん!?」

 

 

「ヒロが欲し〜の!!ヤダ!!一緒にいる!!」

 

 

ぎゅっと抱きついて、ヒロの脇に頭を埋める。

 

 

「大ちゃん・・・。」

 

 

ヒロが僕の名前を呼びながら優しく頭を撫でてくれる。ぎゅっとその力強い腕で僕を抱きしめて、心地良いリズムで刻まれる鼓動に包んでくれる。

 

 

「ごめんね。わがままで。」

 

 

ポツリと漏らした僕の懺悔を愛おしそうに笑っている。

 

 

「解ってるんだよ、ちゃんと。だけどさ、ライブの後って、すっごいヒロが欲しくなっちゃうの。

エッチとかじゃなくて・・・ヒロと一緒にいたい。ずっとずっと。こうしてたいの。」

 

 

「うん。」

 

 

「熱が、抜けないのかな・・・。離れるの、淋しい・・・。」

 

 

ヒロの脇に頭を擦り付けたまま漏らした僕の本音は、優しい声で受け入れられる。

 

 

「オレも、だよ。大ちゃん。おんなじ気持ちでいてくれる事が、嬉しいよ。」

 

 

「ホントに?」

 

 

見上げた先には極上のヒロの笑顔。

その顔が僕の鼻先に止まる。触れるだけのキスを落として、クスリと笑う。

 

 

「まぁ、オレはさ、もっといろいろ欲しくなっちゃうんだけどね。」

 

 

そう言って僕の手を引っ張って行く。

 

 

「大ちゃんと違って俗物だからね。」

 

 

苦笑する彼の固くなっているそれをやんわりと握りながら僕もそっと呟く。

 

 

「僕も・・・。いろいろ欲しくなっちゃうよ。」

 

 

彼の内腿に触れるように身体を捻じ込んで、彼と変わらない証拠を突き出す。

 

 

「欲張りなんだもん、僕。」

 

 

そう言って彼の唇を奪う。

熱い吐息と共に舌を捻じ込んで、彼の中を味わい尽くす。いつも彼がしてくれる事を、今日は僕がしてあげる。

とろとろと溶けていくような熱いキスの合間から彼が僕を呼ぶ。

 

 

「・・・っ・・・だ、い・・・ちゃ・・・。」

 

 

「ん・・・っふ・・・んん・・・。」

 

 

濡れた舌を絡ませながら、いつしかリードしているつもりが翻弄されている。キスの上手い恋人は欲張りな僕を満たしてくれる。

 

長く深いキス。

淫らな音を立てて離れた唇に、追いかけるようにもう一度触れるだけのキスをして笑った。

 

 

「ごちそうさまでした。」

 

 

余韻を味わうように唇を舐めて笑ってみせる。

 

 

「大ちゃんってば・・・えっち。」

 

 

「うふふ。」

 

 

満ち足りた、幸せな気分に包まれて、僕はもう一度ヒロに抱きついた。逞しいその素肌が心地良い。

こんなに好きなのに、どうして好きって言う気持ちはいっぱいになったりしないんだろう。どんどんどんどん溢れてくるから不思議。

 

 

「さ!!仕事行こ!!」

 

 

くるまっていた布団を跳ね除けて、愛しい人の腕の中から抜け出す。まどろみの中にいた彼はそんな僕に苦笑を浮かべた。

 

 

「大ちゃん・・・。」

 

 

「さ!お仕事お仕事!!シャワー浴びてこよ〜〜っと。」

 

 

ちょっと肌寒いくらいの温度に整えられた部屋の中をお風呂へと急ぐ。

そんな僕にヒロが恨めしそうな声音で言った。

 

 

「解ってるけどさ・・・ちょっと、オレ、切なくなってきちゃったよ・・・。」

 

 

薄い茶色に染められた髪をくしゃっと掻きながら天井を見上げて呟く。

 

 

「そんな色っぽい格好なのに、完全にお仕事モードなんだもんな〜〜。」

 

 

昨夜の余韻を所々に散らして、全裸でお風呂へと向かう僕に悔やむ声が聞こえる。

 

 

「遅刻しちゃうよって言ったのはヒロでしょ?」

 

 

「そうだけど・・・。オレも一緒にシャワー浴びようかな〜。」

 

 

「ダメ。ヒロ、絶対オイタするもん。」

 

 

恋人の甘言を退けてシャワーコックをひねる。ベッドの上にそのままでいるヒロに言った。

 

 

「浅倉大介は誰かと一緒にお風呂に入ったりはしないの。」

 

 

「え〜〜そんな〜〜、大ちゃん・・・。」

 

 

がっかりしたような、行き場のなくなったような彼の顔。

僕はそんな彼ににこっと笑って言った。

 

 

「仕事が終わってただの大介に戻ったら、一緒に入ろ。」

 

 

ドアを閉めながら軽く投げKissを送って、呆けた顔の恋人の前から消える。

その途端、

 

 

「うん!!入る!!」

 

 

ベッドの上から叫ぶ彼の声が聞こえた。

顔を見なくても解る、彼のニヤけたその表情。僕は思わずお風呂の中でその顔を思って笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブの後に訪れる熱く甘い時間は、僕にとってはわがままをこねてでも、手に入れたい至福の時間。

本当はいつでも甘えたいし、いつでもわがままを言っていたいけど、それが難しい事くらい、お互い百も承知。この歳になればね。

 

だからこの時ばかりはわがままを。総てライブの熱のせいにして。

甘い時間を過ごした分だけ、僕達は強くなれるから。

幸い僕の愛しい人は、そんなわがままを楽しんでくれる頼もしい人だから。

 

だから、ね、早くまたライブがやりたいね、ヒロ。

 

 

 

 

 

 

 

 

           END