<夏の思い出>






「ホントに古民家だったね。」


収録終わり、残った花火を片付けながら縁側で大介がしみじみと言った。
胡坐がかけないらしい彼はさんざん坐りなおして既に浴衣が肌蹴はじめている。いつだったかも着物を着た時に盛大に着崩れてた事を思い出す。
縁側に移ってくる時も足が痺れていたのだろう、這いずるようにしてきたものだから、既に裾の方が広がりすぎている。
もともとこの浴衣自体が大介には大きすぎるのだ。浴衣だからサイズは変わらないはずなのにこの人が着るとこんなにも大きく感じる。それがまた可愛らしくて愛おしい。ヒロは何でもカッコよく着るよね、と羨まし気に見つめてきた膨れた姿さえも。

今年もこんな状況下でまさかこんな夏の楽しみ方が出来るとは思っていなかった。仕事とはいえ贅沢な時間であることに変わりはない。

残っていたノンアルコールサワーを飲み干しながら大介がくつろいだように足をプラプラと揺らす。そんな仕草も可愛らしい。


「そう言えば、大ちゃん、下駄だけ持ってたの?」


先程の収録で自前の下駄だと言ってたそれを眺めながら聞いた。京都で買ったという下駄は渋めの色合いで鼻緒の部分に柄が入っていた。一目惚れしたのだという。


「下駄はね、買ったの。浴衣もあるよ。」


「持ってるんだ。じゃあ着ればいいのに。」


そう言うと大介は少しだけ口を尖らせた。


「・・・自分じゃ着れないの。それに僕の持ってる浴衣、金魚だよ。」


「可愛いじゃない!大ちゃん似合うよ。」


「バカにしてんの?どこに金魚着たオッサンがいるのよ。アレはステージだから着れるの。」


プイッと横を向くとそのまま縁側から立ち上がる。その後ろ姿はまるでワンピースを着てるみたいだ。


「じゃあさ、着たくなったらオレ呼んでよ。教えてあげる、着方。」


「だから、着ないって言ってるじゃん。」


「せっかく下駄あるのに。そしたらさ、また花火やろうよ。」


久し振りにやった花火は思いのほか楽しくて、ずっと鬱屈していた気分を少しだけ晴らしてくれた。
立ち上がった大介の着崩れた浴衣を少しだけ直してやると、もう脱ぐじゃん、と苦笑される。


「大ちゃんの浴衣姿、いいのにな。」


ちょっとエッチで、そう耳元でコソリと告げると、呆れた様な表情で見上げてくる。


「ヒロはただ、帯ほどきたいだけでしょ。」


「あ、バレた?」


「バッカじゃないの。」


そう言い捨てて部屋の中へ戻って行く大介に


「男のロマンじゃん。」


と笑って見せると、ハイハイ、と軽くいなされた。そんな大介を追いかけて


「オレなら、脱がせても責任取って着せてあげられるよ。」


わざと低音ボイスを耳元にお見舞いした。


    っ!ヒロっ!!」


耳まで真っ赤にした彼のお尻をツルリと撫でて、そのまま先程着替えをした部屋へと逃げ込んだ。すぐに同じ部屋に入ってきた大介は、自分の服をひっつかんでこっちを振り返ると、


「変態!!」


ぷくっと頬を膨らませ部屋から出て行った。その様があまりにも可愛くて笑い転げていると、ふすまの向こうから


「笑うな!」


と可愛らしい声が響く。きっと鼻に皺を寄せて口を歪ませているだろう大介の表情が想像出来て、なんて可愛らしい人なんだろうと、怒られないように心の中で呟いた。
 





 
END 20210808