<僕を覚えていて>
何でも溢れている世の中だから、
クリックひとつで何でも手に入ってしまう世の中だから。
「大ちゃん『僕がアイス食べたの覚えててね』って言ってたでしょ?」
「何で僕、覚えててねって言ったんだろう?」
「知らないよ。」
困ったように笑うその顔にホッとする。
今の世の中はひとつひとつの事がとても希薄過ぎて、飛び込んでくる情報のすべてが流れて行くようにとても速い。
毎日を生きていればそのすべてを覚えておく事なんてもちろん出来なくて、脳は無意識のうちに取捨選択を繰り返している。
良いとか悪いとかそう言う事ではなくて、そうしないと溢れる情報に眩暈がしそうだ。
だから時々、切なくなる。僕の事は他愛のないこととして処理されてしまっているんじゃないかって。
ヒロの記憶の中でUFOキャッチャーのクレーンみたいなもので忘れてもいいボックスに入れられているんじゃないかって。
僕にとってはほんのちょっとの事が宝物で、ヒロと過ごす時間はすべて愛おしくて、たとえ覚えておきたいボックスがパンパンになってこぼれ落ちてしまっていても覚えていたい事で。
ヒロは僕の事を大切に大切にしてくれるけど、それでも取り出して見る事の出来ない気持ちというものは厄介な代物で。
疑う訳じゃないけれど、ねぇ、今、どれだけ僕とのこと、覚えてる?ってヒロの記憶を暴きたくなる。
僕がこんな事思ってるなんて知ったら、ヒロは引くかな?
優しいヒロの事だから、きっと苦笑いで何でも覚えてるよ、大ちゃんとの事は忘れないよとか言ってくれちゃいそうだけど。
だから時々、本当に時々、覚えててって・・・。
どんな事だっていいんだ。ヒロが僕の言った事、やった事を忘れてないことが解れば。
MC中に急に言い出すとは思わなかったけど、それでもヒロが僕の言ったことを覚えてくれていた事が嬉しい。
だって本当に何にも意味なんかないことだもの。
ただヒロに僕との事を少しでも覚えていて欲しかっただけ。
他愛ない時間がそこにはあったんだってことを覚えていて欲しかっただけ。
それだけで僕は幸せなんだってこと、ヒロには絶対に言わないけど、きっともう解られちゃってるんだろうなって思う瞬間もある。
優しい男なんだよ、本当に。
僕の無茶振りにも苦笑いしながら答えてくれるし、いつだって元気にさせてくれるし、最近は頼りがいだって出て来たし、もう充分甘えてるなって自覚はある。
僕がこんなに甘えられるなんて思ってもみなかった。
こんな人に出逢えるなんて思ってもみなかった。もう絶対離したりしないって、実はかなり真剣に決めている。
めんどくさい僕だけど、いいかな?ヒロ。
これからも時々、こう言うことしても怒らないかな?
決して試してる訳じゃないんだよ。ただ忘れて欲しくないだけ。
いっぱいいっぱいヒロとの時間を溢れさせたいだけなんだよ?それは解ってくれるかな?
内緒でバースディのサプライズをしてくれちゃうこんな優しいヒロだから、僕は今日も忘れたくないボックスにその笑顔をしまっていくね。
「フフフ。」
自然と笑みがこぼれてしまう。
「何?大ちゃん。」
「なんでもなぁい。」
今日も、これからもずっと大好きだよ、ヒロ。
END 20201104