<一緒にいたいの>







「ヒーロ。」
 

セッティング待ちでご飯休憩になった楽屋にピョコンと頭を覗かせて呼ぶ声。ケータリングを頬張りながら振り返るとニコニコした顔で入ってきた。
 

「ヒロは初詣どこ行くの?」
 

隣のイスに腰掛けながら前のめりに聞いてくる可愛い人。
 

「まぁ…毎年豊川稲荷かな。」
 

「じゃあそこにしよ。」

 
「え???」

 
「初詣。」

 
全く会話が理解出来ない。じっとこっちを見てくる視線に持っていた箸を置いて向き直る。

 
「行くの?初詣。」

 
「行かないの?」

 
「…行くけど?」

 
「じゃあ決まりね。やっぱり年末にライブがあるとすんなりだね。」

 
勝手に話を完結させて出て行こうとする人を慌てて引き留めた。

 
「待ってよ、大ちゃん。それってライブが終わったら行くってこと?」

 
「うん。」

 
「え?え?そのまま?」

 
「なんか予定あんの?」

 
「いや、ないけど…。」

 
「じゃあ、いいじゃない。だって僕から言わないと、ヒロちっとも誘ってくれないじゃん。いつだったかは知らない間に勝手に鼻の手術してるし。」

 
「あれはそんな言うほどの事でも、ね?」

 
「僕がどれだけヒロの声に注意を払ってるか知らないんでしょ。」

 
「オレだってそこは充分注意してるよ。大ちゃんの曲をもっともっとステキに歌いたいって思うからさ。良くなったでしょ?抜けが。」

 
「…前の響きも好きだもん。」

 
悔し紛れの呟きに思わず頬が緩む。

 
「それを言うならさ、大ちゃんだって初日の出撮りにきたとか言って知らない間にどっか行ってるじゃん。」

 
「何?ダメなの?」

 
その視線がお前が誘わないからだろと言いたげにギロリと睨む。

 
「いや、良いんだよ、大ちゃんの好きなとこに行って良いんだよ。でもさ、オレだって心配なの。ね?」

 
「じゃあ、ヒロが監視してくれればいいじゃん…。」

 
「あー………そ、だね。」

 
ニコニコ満面の笑みで上目遣いをする人に勝てるはずがない。

 
「終わったら…初詣、ね。」

 
「うん!時間がちょっとあるから、美味しいもの食べて。」

 
「オレ、寝ちゃうかもよ?」

 
「そしたら、車の中で初日の出見る?僕、起こしてあげる♪楽しいなぁヒロと年越し!」

 
「アハハ…そだね…。」

 
この人のこのパワーはどこから来るのか、30年近い付き合いでも未だに解らない。
取り敢えず今夜は寝かせてもらえないだろう事だけは確実な予感として理解できた。オレは見つからないように小さくため息を落とすと、後々のエネルギーチャージのために再びケータリングに箸をつけた。

 
どうか良い年が迎えられますように・・・。
 
 




END  20191231