<somewhere>






そうか。今日だったんだ。





何気なく巡回していたツイッターで知る出会いの日。
自分達以上に細かい事を覚えていてくれるファンがいる事をありがたく思う。



四半世紀か。長いな。
今でも鮮明に思い出す事が出来る、あの日のこと。
赤いジャケットは自分を奮い立たせるために身に着けた。

同じようなシチュエーションで彼の他にも何人か会った。けれどあんなにお見合いみたいになったのは彼だけだった。
今思い出しても笑えてくる。真っ黒な肌にちりちりの頭。
そんな派手な男が四角四面に緊張して「ハイッ!」と食い気味に返事をしていた事。
語尾には全部「ッスネ。」が付いて、いわゆるTHE体育会系だった。

いまだに彼はあの時の僕の事をキラキラしてたとかそれはもう眩しそうに話してくれるけれど、僕から見た彼はまるで別世界の住人だった。同じクラスにいても到底話はしないだろう。
それなのにその歌声は荒削りだったけど繊細で鋭くて、その見た目とはかけ離れてキラキラしていた。
そう、文字通りキラキラしていたのだ。
僕にとっては彼の外見よりはるかに衝撃的だった。その事を今でも覚えている。
思えばあの瞬間に恋に落ちていたのだ。だから他の人の時には気にならなかったやたらメルヘンなテーブルクロスが気になったりしたのだろう。






あれから四半世紀。あの時のTHE体育会系の男は今では変顔男になり、やっぱり僕の予想の範疇を軽々と超えて行くのだけれど、そんな男がどうしようもないくらいに愛おしいと思えるようになるくらいには僕も異世界の住人になったのかも知れない。
おそらく彼にとっても僕は異世界の住人で、決して穏やかではなかったここまでの道のりが僕らを異世界すらも愛せる男に変えたのだろう。


お互いの持つ異世界は今は静かに隣り合って、時には交わって穏やかな時間を刻んでいる。
こんな日が来る事を誰が予想出来ただろう。
そのくらい、あの時の僕達は笑ってしまうくらいに別世界の住人だった。





時々、不思議な事に気付く。
あんなに遠いはずだった彼と同じ事をしている自分がいる。
ちょっとした手癖や日常の習慣、そんなものがふと彼と同じ事に気付くのだ。
自分はいつからこんな事をするようになったんだろう。
自分のしている仕草が彼のそれと重なる瞬間に気付かされる。


癖が移るほど一緒にいたのか。四半世紀は甘くない。



淋しがり屋のくせに一人の時間を持ちたい自分達はどこか似ていたのかもしれないとこの頃考えるようになった。
彼との距離感はこれ以上ないくらいに心地良い。
何も言わずそっと背中を預けている感じとでもいうのだろうか。
背中に感じる体温が一人ではない事を教えてくれる。見つめあっていなくてもそこにいるという事を感じられる。


あの時出逢ったのが彼で、よかった。






LINEの画面を開き一応時間を確認してメッセージを打つ。

きっと彼は頭を悩ませるだろう。変な語呂合わせでも考えるかもしれない。
それを思い、僕はくすりと笑う。






 

ねぇ、今日、なんの日だか知ってる?






 

END 20160524