<だから やっぱり きみが すき>














バカになるってホントは結構たいへん。




 

世の中には理屈が多すぎるって時々思う。

ホントはもっと自由にしたい。
責任とかルールとか、解らないわけではないけれど、時々、本当に時々、そういうものを全部忘れてしまいたいって思う時がある。
例えばジョンやベルカみたいに自分の好きなように出来たら、世界はもっともっとステキなものになるのにって。


解ってる、そんな事出来ない事。
そんなことしたら世界が破綻してしまう事。
だけどホントに時々、もうや〜めた!って言って、ワンちゃんにでもなってしまいたいって思う。
疲れてるのかな?僕。
お仕事は順調だし、新曲もいい感じだし、毎日のように舞台が終わった後レコーディングに駆けつけてくれるヒロにも会えるし、これ以上ないくらい充実してるはずなのに。



ヒロの舞台、本当に久し振りに見に行った。ホントにホントに楽しかった。久し振りにあんなに笑った。
でも何だかお家に帰ってきた後、ちょっとだけ羨ましくて、淋しい気持ちになった。
いいな、ヒロはって。

舞台の上で思いっきり動き回ってるヒロは世の中の理屈とは違う場所にいて、自由に、好きなようにそこにいた。
もちろんお芝居なんだからいろいろと演出だとか決まりごとはあるんだろうけど、それでもホントに羨ましいくらい自由に、まるでワンちゃんみたいにストレートに感情を表現していた。

いいな、羨ましいな。
僕もあんなふうに出来たらな。


さっきも言ったけど、本当にお仕事も順調で、何にも困った事なんてないんだけれど、
でも・・・いいな。

足元でくつろいだように寝転がってる2匹と目が合う。
僕も仲間に入れてよ。そう思って同じようにだらんとだらしなく寝転がってみたんだけど・・・。



「ちょっと何やってんのよ、大介。」



たまたま用事があって覗きに来たアベちゃんに訝しんだ眼差しを向けられた。



「・・・ベルカ達とお昼寝。」



たいして言い訳にもならないような言い訳でのろのろと起き上がる。
やっぱり僕には向いてない。こんな時ヒロだったらきっと気にせずそのままゴロゴロ出来るんだろうけど。
要件を告げて去っていくアベちゃんに気付かれないようにため息をつく。
僕だってバカになってみたいのに。
そう考えてふと気付く。



「バカみたい・・・。必死になってなるような事じゃないのに。」



僕はいつもの僕のイスに座り直した。





















 

「だぁ〜いちゃん。ハイ、お土産。」



シングルのミックス作業も佳境に入って来た頃、ふらりとヒロが現れた。
ニコニコとした顔で手渡してくるのは空港などで良く見かけるお土産。



「どうしたの?珍しいじゃん。」



「うん。なんかね、成志さんがお土産買ってるとこに遭遇してね、そしたらみんなオレもオレもって買い始めてさ、触発された。」



そう言って笑う。まるで舞台そのままのようなやり取りを思い出して笑うヒロからお土産を受け取って、ありがとと答える。



「どうしたの?元気ないね、大ちゃん。」



「そんな事ないよ。元気だよ。」



「ウソだね。大ちゃんのウソはオレ、すぐ解るよ。オレがいなくて淋しかった?」



「バッカじゃないの?良く平気でそんな事が言え・・・。」



僕はため息と共に言葉を噤んだ。



「?どうしたの?」



不思議そうな顔をしてヒロが僕を見つめてくる。



「ヒロはさ、どうしてそうやってバカな事が平気で言えるんだろうね。」



「ん?それって・・・褒めてんの?けなしてんの?」



僕は再び盛大なため息をついた。



「はぁ〜あ。僕もヒロとかベルカ達みたいになれたらなぁ。」



脱力したように椅子の背に身体を預けた僕の手をヒロが急に引っ張った。



「ちょ・・・っ!わぁっ!!」



僕の手を引っ張ったまま床に寝転ぶヒロに躓くようにして倒れ込んだ僕をヒロが笑いながら受け止めてくれた。
そのままゴロっと、あっと言う間にさっきまで座っていたはずの椅子が見上げた先に現れた。



「ちょっと何だよ、いきなり。」



ヒロを覗き込もうと起き上った僕にヒロが床をトントンと叩いてみせる。



「だぁめ、大ちゃん。今から大ちゃんはワンちゃんだから。」



「はぁ!?」



「ほらほら早く。ジョンとベルカちゃんみたいにして。」



笑いながらそんな事を言い出すヒロの言葉に遊んでもらえると思ったベルカが早速ヒロ目がけて飛び乗って来る。
いきなりお腹の上に飛び乗られたヒロはうぇっと一瞬苦しそうな声を上げたけど、顔を舐めようとするベルカとじゃれ合う様に床をゴロゴロと転がった。
大好きなヒロがベルカとじゃれ合ってるのを見たジョンまでもベルカを窘めるためなんだか、一緒になって遊ぼうとしているのか2人の周りを嬉しそうに跳ね回っている。
床に転がったままのヒロはジョンとベルカの格好の遊び相手になっていて2匹の間でもみくちゃにされながらも笑っている。
その目が僕に向かって微笑みかける。



「大ちゃんおいでよ。」



屈託なく笑うその顔で腕を掴むヒロは早くと僕を促す。

そんな笑顔で誘ってくるなんてホントに狡い。

僕はベルカと同じようにヒロの上へと飛び乗った。
突然の事にやっぱりうぇっと苦しそうな声を出したヒロはそれでも僕をしっかりと抱きとめてくれた。



「重〜〜い、大ちゃん。」



「なんだとぉ。」



笑いながらも僕をぎゅっと抱きしめてくれたヒロはベルカ達と張り合う様に犬の鳴きまねとかして見せた。
その声がやっぱりベルカよりもハイトーンで可笑しい。
まるで縄張り争いでもするように僕を抱えつつワンワンとじゃれ合うヒロの真剣な顔を見ていたら何だかいろんな事がバカバカしく思えて僕も4匹目のワンちゃんになったつもりで「ワン」と吠えてみた。
僕のいきなりの行動に一瞬驚いたような顔をして見せたヒロだけど、すぐに嬉しそうに僕をぎゅっと抱きしめてチュッと可愛らしいキスを落としてきた。



「このワンちゃんが一番可愛い!!」



再びチュッチュッとキスを落としてくるヒロの唇を押しやりながら、



「バッカじゃないの。」



と軽く睨むと、



「バカでいいんですぅ〜〜〜。」



とホントにバカっぽい顔で言い返してくるヒロに思わず吹き出した。


あぁやっぱり敵わないなぁ。

僕一人では到底越えられないハードルをするりと超えて行く。
ヒロの自由は僕まで自由にしてくれる。



「何?大ちゃん、ニヤニヤして。」



ベルカ達の攻撃にあいながらも僕を覗き込んでヒロが言う。
こんなヒロが僕は大好きだ。



「バーカ。これは微笑んでるの。」



そう言い返して、今度は僕の方からチュッと軽くキスをした。










END
 20150329