<0603はDMで>








♪♪♪


『緊急招集 今すぐ来るように!!』












 

「今日はお休みだったんですね〜タカミさん。」



突然のLINEに呼び出されて訳も解らず大ちゃんのスタジオに向かったオレに、目だけは笑ってない笑顔で大ちゃんが第一声に放った言葉がこれだった。



「休みなら休みって早く言えよ。ったく。」



「え?何?そんなに急ぎの用だった?」



LINE
に書かれた緊急招集の言葉に来る間も必死で考えていたけれど、ツアーも終わったこのタイミングで一体何の作業なんだかちっとも解らない。



「あ!もしかしてもう新曲出来たの!?」



半ば冗談で言った自分の言葉によもやこんなに早く答えてくれたのかと嬉しくなりながらスタスタと前を歩く彼の背中に呼びかけた。
最初は色よい返事をもらえなくても、閃いたとなったらあっという間に作ってしまう人だから、1日2日で180度状況が変わる事もよくある事。その事に今までだってどれだけびっくりさせられて来たか解らない。
けれど目の前の彼は盛大なため息をついてジロリと睨んでオレを見た。



「あのさ、バカなの?それとも僕には言わない理由があるの?」



「何が?」



「今日は何の日?」



「え?」



「今日は、何の日!?」



「えっと・・・何かミーティング入ってたっ・・・イデッ!!」



突然降ってきたゲンコツはご丁寧に中指を出っ張らせた痛いやつ。



「お前の誕生日だろぉ!休みなら何で連絡寄越さねーんだよ!それとも別の誰かと予定でもあったんですかね。それは大変失礼いたしました!」



「ないよそんなの!ねぇ大ちゃん。」



クルリと背中を向ける大ちゃんに追いすがり、シャツの裾をぎゅっと掴んだ。



「もぉ、大ちゃんだけだって知ってるくせに。」



背中を向けたまま立ち止った大ちゃんに並ぶように近付く。



「だって、一昨日お祝いしてもらったじゃん。それになんかさ、照れくさいっていうか・・・この歳になってさ、お祝いしてとかって、ねぇ・・・。たまたま休みだっただけだし。大ちゃんには大ちゃんの予定もあるし。」



「で?遠慮してたとか言いたいわけ?ったく、ホントバカだな。それにあんなのお祝いしたって言わねーよ。あんなんでお前は満足なのか。」



「満足って言うか、それはさぁ、ねぇ、気持ちだけで充分って言うかさ。」



へへへと笑って見せるその先で口を尖らせた彼が上目遣いに睨みあげてくる。



「ほんとバカ。ヒロってホント人がいいっていうか間抜けって言うか。」



「大ちゃん。」



悪態をつく彼に苦笑いしか返せない。すると彼はさっきまでの剣幕が嘘のようにぼそぼそと呟いた。



「特別な日なんだから一緒に居たいって思うのは僕だけなわけ?」



相変わらずその上目遣いは睨み付けてはいたけれど、尖らせた唇に噛みついてしまいたいくらいの可愛さ。
たまらずオレはぎゅっと抱きしめた。



「大ちゃん。」



じんわりと広がっていくあたたかさ。ゆっくりと彼の手がオレを抱きしめてくれる。



「お誕生日おめでとう。」



「うん。」



「これでまた1歳差だね。」



とかく歳の事を気にする彼が笑いながら言う。オレも笑いながら答えた。



「今だけね。」



クスクスと小さな笑い声がお互いの間で響き、チュッと触れるだけのキスをする。

目尻にしわを寄せて笑う彼の柔らかい笑顔を見つめていると、今度は彼の方から可愛らしいキスをくれた。



「僕が言わなったら黙ってるつもりだったんだろ。ちゃんと言えよな。ダメな時はダメだって言うし。」



「ごめん。」



「いいけど、もう。会えたし。スケジュール変わったの?」



「うん。ホントは今日から小屋入りだったんだけど、日にちずれて、今日、仕込みになったから。」



「そっか。」



すっかり機嫌を良くした彼はオレの手を引いたままリビングへと向かった。その途中、楽しそうに笑いながらこう言った。



「もうひとつ、言わなきゃいけない事があるんじゃないの?」



ニコニコ笑ったままの彼はそのままソファに腰かけると隣をポンポンと叩いてオレを促す。示された場所に大人しく腰を下ろすと覗き込むように身を乗り出してくる。



「あるでしょ?言わなきゃいけない事。」



「えぇ?」



大ちゃんに言わなきゃならない事?

頭の中で一生懸命考えたけれど全く解らない。
あげなきゃならない歌詞はないはずだし、何か約束をした記憶もない。そもそも今日ここにいる事だって想定外なのだから。



「何?やっぱり僕には何にも言えないわけ?僕なんか関係ないって事?あーそぉ、ヒロってそう言う奴だったんだ。」



「え、何!?違うよ、何なの?解んないって。」



猛スピードで大ちゃんに言われた言葉の数々を思い出そうと焦るオレの隣で、彼はわざとらしく盛大なため息をつく。



「僕、ヒロの口から直接聞きたかったなぁ〜。っていうかぁ〜一番最初に教えてくれると思ってたのになぁ〜。別にいいけどぉ〜。」



全然良いとは思ってない口調でソファにふんぞり返り足を組む。



「え?何?ホント、何の事?」



あんまり機嫌を損ねたくはないけれど、解らないものは仕方がない。なるべく穏便な聞き方で伺ってみるとやっぱり無言のじっとりした目がオレを冷やかに見つめていた。



「ファンの子にはもう報告したらしいじゃない。僕は未だに聞けてませんけれども。
どんな心境の変化か知りませんけれど、まさかヒロがやるとはね〜。」



「あぁ!!ツイッター?
そう!今日ね、登録してみた。大ちゃんのも教えてよ。登録したら見られるんでしょ?」



「登録じゃなくてフォローね。何か不安だなぁ、もう。絶対なんかやらかすよ、ヒロ。そういう事はまず真っ先に僕に聞けよ。」



そう言って大ちゃんは左手をハイと差し出してきた。



「どうせ何にも出来てないんだろ?見してみ。」



「大ちゃんの登録してくれるの?」



いそいそと取り出したiPhoneを彼の掌の上に乗せると慣れた手つきでシュシュっとあっと言う間にツイッターの画面を呼び出した。



「なんだよ、もうこんなにフォローされてんの。で?ヒロは誰もフォローしてないんだ。ツイートは?これもヒロ?」



「1個目はオレ。2個目のは事務所がやってくれた。」



告知のツイートを示して答えるとウンウンと頷いて彼はだろうね、と笑った。



「取りあえずツイートは出来るんだ。」



「それはこれでしょ?この四角のところで文章入れたらこれ、ポチってすればいいんでしょ?」



「アハハハ。何かいちいち言い方が昭和だね。」



ご機嫌になってくれた彼を見てホッと胸を撫で下ろすと、何か呟いてみろとiPhoneを戻された。
ちょっと考えて取りあえずファンのみんなに返事をしようと打ち始めると、登録してくれたみんなの文字にそれはフォロワーっていいなよと彼からダメ出しが入った。
他にもいろいろと彼曰く基本的な用語の解説を聞いて何となくツイッターの世界に触れたところで、取りあえずと彼がオレのiPhoneを取り上げ何やら操作した。



「はい、フォローしといた。」



「え!ホント!」



受け取って画面を見るとそこにはaccessオフィシャルと銀英伝のアカウント。



「違うじゃん、コレ。大ちゃんのは?」



てっきり彼のを登録してくれるんだとばかり思っていたオレは思わずせっつくように彼を見た。



「だってヒロ、教えてくんなかったじゃん。そんな人はフォローしません。」



「え〜何でよ。」



「悔しかったら自力でフォローしてみな。そしたら考えてやるよ。」



「えぇ〜〜〜。」



「えぇ〜じゃないよ。バカヒロ。」



そう言ってさっさと立ち上がってしまった彼はそれ以上はもうオレのiPhoneには見向きもしない。



「ケチ。」



「なんか言った?」



「大ちゃんのケチ。」



「ケチで結構。」



どちらからともなくクスクスと笑い出しバァーカと笑う彼に近付いてぎゅっと抱きしめた。



「好きだよ。」



「ケチなのに?」



「ケチでも。」



今日はセットもしていない洗いざらしの髪にキスを落とした。くたりとしたちょっとだけタバコ臭いその香りはいつもの彼のもの。



「ケーキも何にもないよ。」



腕の中でふくれたままの彼が言う。



「今日が休みだって知ってたらそのぐらい用意したんだけどな。プレゼントも間に合わなかったし。」



「え?一昨日貰ったじゃん、日焼け止め。」



「アレは電波用。ホントのはあんなところで軽々しく出さないんだよ。解ってないなぁヒロは。」



抱きしめていた腕にチュッチュッと啄むようなキスをしながら彼が笑う。



「何?それって期待しちゃっていいもの?ねぇ教えてよ。」



「教えねーよ。ちなみに車じゃないから。」



「なんだよ〜。やっぱりケチじゃん、大ちゃん。
まぁオレは大ちゃんがいれば充分なんだけどね。」



そう言って彼の顔を覗き込む。
彼は鼻でフフンと笑った。



「それが一番高いって知ってる?」



「へ?」 



「ケチじゃない証拠に大盤振る舞いしてやるから覚悟しとけよ。」



そう言って明日の入り時間を聞いてきた彼は、オレの手からiPhoneを取り上げてスペシャルな笑顔で笑った。






 

END 20150609