<薄紅色の想い>











ホントはあなたが好きだった。

でも口に出すのが怖かった



あの日、この桜の木を見てあなたとの別れを決めたあの日、この気持ちに蓋をして、あなたの前で普通に笑える日が来ることを願ってあなたの元を去った弱いオレを許してほしい。

あなたの縋るような視線を、それでも笑って見送るあなたの視線に気づかない振りをして偽りの微笑みであなたの口をつぐませたオレを許してほしい。


オレは狡くて、弱くて、あなたを受け入れるだけの覚悟もなくて、あなたがずっと苦しんできた事を気づかない振りをしたまま、別の世界へ逃げ込んだ。
オレさえいなければあなたは楽になれると、自分の言い訳にあなたを使い、本当は自分のためにすべての事に蓋をして。
酷い男だったね、オレは。




桜の花びらはあの時のあなたを思い出させる。声もなくただ黙ってオレを見送っていたあなたを。
凛とした姿で誰よりも気高く、けれど静かに散って行く。
柔らかく、包むように舞い落ちる花びらはきっとあの時のあなたの気持ちのようにはらはらとオレの傍をすり抜けて行く。


受け取る事は出来なかった。
受け取ってしまえばもうオレはそこから先、どこへも行けなかった。
あなたのいる世界はあたたかくて、これまでのどの場所よりもオレを安心させたけれど、そんな安息の地をオレは認められなかった。
こんなに居心地のいい場所が永遠に続くはずはないと、オレはあなたを信じられなかった。
あなたの想いも、認められなかった。
認めてしまう事は自分の気持ちを知ってしまう事だったから。
オレはそれが怖かった。
あなたの想いよりもそれが怖かった。



許してほしい、あなたが苦しんだ年月を埋められるわけではないけれど、これから先のすべてをあなたに捧げるから。
許してほしい、あの時あなたの元を何も言わずに去ったオレを。





「ヒロ。」



薄桃色の景色の中で笑う彼とその愛犬が歩みを止めたオレを振り返る。



「どうしたの?」



許してほしい、どうか、どうか。



「大ちゃん・・・。」



「何?」



再び隣に並んだ彼の髪に落ちる花びらをそっと掬い上げる。



「ごめんね。」



「?ありがと。花びら取ってくれたんでしょ?」



訝しんだ顔で見上げる彼の視線。




「あの時、こうしてあげれば良かったんだよね。」



「あの時・・・?」



「オレ、酷かったね。」



「ヒロ?」



見つめてくる瞳に耐えられなくてオレは彼を抱きしめた。



「ちょっ・・・ヒロ!?」



「少しだけ、少しだけだから。」



腕の中の彼は小さくため息をつく。



「こんなとこ人に見られたらどうすんの?」



「いいよ、そんなの。」



「良くないよ。」




そう言いながら彼の手はオレの背中を優しく撫でてくれる。



どうして、この手を離すことが出来たんだろう。どうしてこの手を怖いなどと思ったんだろう。
あなたの元を離れて打ちのめされた自分の想い。

どうして、あなたを置いていくことが出来たんだろう。
縋る視線も、無理な笑顔も、すべて解っていたのに。



許してくれなくてもいい、こんなオレなんて。
一生恨んでくれても構わない。


だからどうか、こんなオレを飽きるほど縛りつけて離さないで。
あなたの想いでオレをこの薄紅色の色彩の中に縫い付けて。
あの時のあなたの事を忘れないように、あの時のオレの愚かさを、決して忘れないように・・・。







 

    END 20130317