<真冬のおひさま>













「ふぅ寒い。」



車から降りると途端に冷たい風に煽られて思わず首をすくめた。
ちょっと前までは大丈夫かなって思うくらいの暖かい気候だったのに、突然暦を思い出したかのように寒くなった。
車移動が常の自分はそんなに厚着をしなくても済むけれど、さすがにこれからはシャツ一枚と言うわけには行かなさそうだ。

背筋を丸めたまま急ぎ足に現場へと向かうとハロウィンを過ぎた町並みは一気にクリスマス一色になっていた。
キラキラと光るイルミネーション。
今年は明るい白。確か去年はブルーだったような気がする。
最近では珍しくない白のツリーにピンクやホワイトのライトが可愛らしく飾られていた。



もうクリスマスか・・・。



カレンダー通りに休みなど無い自分が季節を感じるのはこんな時だ。
街は音のループの中にいる自分を現実世界へ連れ戻してくれる。



今年もあっという間だったなぁ・・・。



そんな事を思いながら暮れかけた街に輝きだしたイルミネーションを見上げる。
そう言えばめっきり暮れるのも早くなった。
ちょっと前までこの時間ならまだ明るかったはずなのに。
遠くに見えるノッポのビルを青いライトが下から照らしている。



クリスマス、か・・・。



約束なんてしていない。今年は予定のないクリスマス。
お互いイベントごとには仕事が重なる事が常で、恋人達の日と言っても僕らにとっては仕事の日だ。それがもう暗黙の了解になっている。



別にいいんだけどさ。解ってるけどさ。期待なんかしてないけどさ。



予定があるとも聞いていない。今は舞台の稽古で大忙しの彼。
1ヶ月と間を空けずに舞台に立っている彼は多分クリスマスなんてどこか遠い出来事なんだろう。
イベント事にはこだわる男なのにね。
そんな余裕が無いのも仕方がない。

最近は舞台関係でもかなり評判を聞く。
彼が舞台に立ちたての頃は物珍しさも手伝って見に行ってたけど、最近は時間が無いのと、どこか安心してしまって見に行っていない。
本当は行きたいけど、どんな彼だって見ておきたいんだけど。

人伝に聞く彼の活躍は自分の事のように嬉しいし、なんなら自慢したい気分でいっぱいだ。
だって僕が選んだ男だから。公私共にね。
今更気付いたのかよって言ってやりたい。

そんな彼とも久しくゆっくり会っていない。
年末の事もあって会う回数は多いけれど、どちらかに仕事が詰まっていたりして、打ち合わせの後にゆっくりご飯でもなんて事は出来ていない。
まして一緒に眠る事なんて、もっと難しい。
舞台が終わったら、少しは僕の事にも気を回してくれるかな・・・。
そんなふうに思ってしまうくらい今の僕は重症だ。



いつの間にか意味をはき違えたクリスマスはやかましいくらい鮮やかで、ちょっとだけ悪態をついてしまう。
キリストの生まれた日なんだから、いちゃいちゃする日じゃないんだから。
背中を丸めて口を尖らせてブツブツ言いながら歩いていると、クリスマスのネオンより鮮やかな声が僕を呼んだ。



「大ちゃん!」



見上げた先には寒さのあまり自分を抱きしめながら小さく手を振るヒロ。



「オレ、遅刻したかと思ったけどジャストだったね。」



そう言いながら寒〜いと僕の隣へ寄ってくる。いつもはおひさまみたいなその笑顔も今日はちょっぴり曇り。
寒いのが苦手な彼は今日はジャージ姿で肩を竦めて歩く。そんな姿だって様になっててカッコいいんだけど。



「稽古?」



そう聞くとうんと頷く。



「遅れ、取り戻さないといけないからね。」



聞けば収録が終わったらまたとんぼ返りしないといけないらしい。


今日もまたさよならか・・・。


やるとなったらとことんな彼は、その間は本当に脇目も振らない。
昔に比べたらだいぶましになったけど、矛先が逸れている時の切なさったらない。
ちょっとは気にかけてくれる瞬間なんてあるんだろうか、疑いたくなってしまう。
そんな真っ直ぐなところも好きなんだけど、好きなんだけどね。



風を避けるように建物の縁に沿って歩き小さなエントランスの自動ドアを目指す。
ここのスタジオは好きなんだけど駐車場からちょっと距離があるのが難点だ。
寒い寒いと言いながら自動ドアの前に立ったヒロが早く〜と僕が来るのを待っていてくれる。
そんなに寒いなら早く建物の中に入ればいいのに、こういうところがヒロだなと思う。
その割にはさっきから自動ドアを開けっぱなしにして少しでも暖を取ろうとしているんだけど。

笑いながら追いつくと待ってましたとばかりにエスコートしてくれながらドアを抜ける。
途端に包まれた暖かい空気にホワッと頬が緩む。



「はぁ〜寒かった。」



僕より体温の高い彼はいつものおひさまのような笑顔を取り戻す。途端に動作もきびきびしちゃうんだから笑っちゃう。
そんな視線の先に飾られたクリスマスツリー。僕の視線を辿ってヒロもそれを見つける。



「もうクリスマスかぁ。」



彼の口から洩れたその単語にほんのちょっとだけ期待してしまう。



「早いね。もう今年も終わっちゃうんだね。」



「ホントだよ。」



「去年は苗場だったもんね。あれからもう1年なんだ。はぁ〜。」



ため息をつく彼の言葉を受け取って答える。



「歳をとると1年が早いってホントだね。」



「え?じゃあ大ちゃんはオレよりもっと早いんだ。」



そう言って神妙な顔をして見せた彼をギロリと睨むと弾けたように笑い出す。



「アハハハハ。変わんない、変わんないよね。」



「ほんのちょこっとじゃんか。」



「うん、2歳差ね。誕生日来たから。」



「くそ〜。」



悔しがる僕を横目に笑い転げるヒロの腹にパンチをお見舞いして僕はチラリと視線を投げてツリーの横を通り過ぎる。
笑っていたヒロは必死で笑いをおさめながら僕の横へ並ぶと顔を覗き込むようにしてきた。



「だぁ〜いちゃん。」



行く手ににょきりと現れたヒロの顔を見下ろす。



「ツリー、きれいだね〜。」



意味ありげにニヤニヤ笑うヒロにそっけなくそうだねと答える。



「ねぇねぇ大ちゃん。」



「・・・なんだよ。」



ニヤニヤ笑ったままのヒロは頭を左右に振ってみたりして何故か上機嫌。



「ねぇ、なんか言いたい事あるでしょ?」



「何が?」



スタスタと廊下を先へ歩くと跳ねるようにまた前に回り込んでくる。



「もぉ〜オレ、空いてるからね。」



「?」



「だからさ、ね、大ちゃん。」



甘い顔して期待させるような言葉を平気で吐くヒロ。
これだからイケメンってズルい。
そんな優しい顔されたら期待するなって言う方が無理に決まってる。



「ねぇねぇ、大ちゃん。」



「なんだよ、もう。」



なるべくヒロの顔を見ないようにスタジオへ急ぐ。
だってこんな顔されてるヒロに絶対勝てるはずがない。
案の定ヒロはズルいくらいの優しい声音と、ズルいくらいの甘えた目で僕を見つめてサラリと言う。



「たまにはさ、大ちゃんから誘ってほしいな〜なんて思ってるオレはわがままなのかな?いろいろ考えたデートプラン、全部無駄になっちゃうのかな?オレ、一人の淋しいクリスマス過ごさなきゃいけないのかな?」



ほら、こんな事言われたらもう抗えない。



「ヒロ。」



「なぁに?大ちゃん。」



急に足を止めた僕の前にニコニコ顔のヒロが立つ。



「仕方がないから、付き合ってあげる。」



精いっぱいの強がり。それなのにヒロはものすごく嬉しそうな顔で僕の肩を抱きしめた。



「うん。仕方がないからね。大ちゃん優しいなぁ〜。」



包まれた体温にドキドキしながらそっと隣のヒロを盗み見るとふやけたような嬉しそうな顔。
やっぱりおひさまみたいなヒロ。
こんなヒロがとっても好きだなって、僕の事ちゃんと考えてくれてるヒロがとっても好きだなって思う。



「デートプランなんかいらないからね。」



「うんうん。解ってる。」



「特別なことなんて1個もしなくていいからね。」



「うん。大丈夫。」



ちっとも僕の話なんか聞いてなさそうなヒロの手をキュッと握り、ありったけの勇気を振り絞って言った。



「ヒロがいれば、それだけで特別なんだから。」



そう言った時のヒロの目。
滅多に動じたりしないヒロが一瞬目を見開いて、あ〜ともう〜ともつかない声を発して天井を見上げると今まで僕の肩を抱いていた手を額に当てたまま降参の声を上げた。



「大ちゃん、それ反則。」



赤くなったヒロの顔に思わず吹き出すと、同じようにヒロも笑い出した。
キュッと握り直した手はそのままにあたたかい気持ちを抱えたままスタジオに向かう。
恋人達のイベントじゃない事は解ってるけど、僕は今年のクリスマスがとっても待ち遠しくなった。
早く、ヒロと一緒の特別なクリスマスが来るといいな。





 

END 20131117