<Happy Birthday>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♪♪♪〜

 

 

思わず鼻歌が出てしまう、今日はあの人の誕生日。

シャワーを浴びて鏡の前で剃り残しもチェックして、うん、完璧。今日はあの人の大好きなオレでありたいから身支度にも気合が入る。

 

プレゼントも用意したし、一緒に添える言葉もシミュレーション済み。後はあの人の喜ぶ顔に祝福のキスを。

 

 

とうとうあの人も45歳になる。

出逢った頃には想像もしなかったけど、世間的に言えばもうかなりのオジサンの部類に入ると思う。

もちろんそれはオレもだけれど。

それでも相変わらずの可愛さにオレは未だに出逢った頃の彼を重ねてしまえるほどやられている。

 

こんなに長く付き合う人になるなんて・・・申し訳ないけれどホントに想像もしてなかった。

初めて一緒に音楽を作った時にありえないほどの心地良さは感じたけれど、この人とずっと一緒に音楽を作って行けたらいいなとは思ったけれど、正直一生のライフワークになるとは思えなかった。

感性の違いは当時から感じていたし、それが調度いい具合にオレ達を作っていたけれど、あぁきっと、このズレはいつか目に見える形になってしまうんだろうなとは薄々感じていた。きっとそれは彼も。

彼の方が大人だったからそれを素知らぬ振りでいてくれたけど、やっぱりそれは露呈した。それもたった2年で。

あの時の事はもちろんそれだけが理由ではないけれど、全く関係がなかったとは言い切れない。

きっとそういう思いがなければもっとどうにかして活動を続けようと思っただろうし、その方法を探してたと思う。

それをしなかったのはやっぱりそういう事なんだろうと思う。

 

今は、あれで良かったんだと素直に思えるけれど、あの時は正直苦しかった。

これは今だから言えることだけど多分あのままムリして続けていたらオレはこんな風に彼を愛する事はなかったと思う。

離れていた7年の間にオレの中の彼への気持ちは静かに静かに重なっていったのだから。

 

離れてから気付くなんてオレも大概マヌケだと思うけど、そばにいられなかったからこそ感じる彼の存在にオレはじわじわと心を侵蝕され、そしてそれが決して不快ではないことに気付いた。

むしろ彼の事を思えば心に切なさが溢れた。

だから彼と久し振りに会った時、彼が変らずオレを必要としてくれた事が嬉しかった。

もう二度と、この人のそばを離れてはいけないんだと思った。

 

 

7年振りに渡す彼への誕生日プレゼントに総ての気持ちを込めた。決してわざとらしくないように、でも少しは特別であるように。

その時にはもう、自分の気持ちは揺らぎようのないものになっていたし、そういう意味で彼を失えないとも思ったけれど、その気持ちを彼に告げるわけにはいかないと思っていたから。

ただずっと、彼の傍らにいられればそれでいい、そんな風に思っていたから。

特別を手にするよりも失う事が怖いなんて、オレにしてみたらいつになく気弱な考えだと思うけど、そのくらいもう彼はオレの中で失えない人になっていたから。

 

あの時の彼の驚いた顔を今でも覚えている。

プレゼントと一緒に渡したメッセージカード。

 

 

『たった一人、オレにとって特別な人へ 

 Happy Birthday 

 生まれてきてくれて、出逢ってくれてありがとう』

 

 

なけなしの勇気で書いた言葉。

その言葉に彼はふんわりと微笑んで「ありがとう。」と目尻に涙を滲ませていた。

オレがその感激屋の彼の涙の意味に気付いたのはもっとずっと後の事だけれど。

 

 

友達としてのプレゼントはこの年が最後だった。次の年からは彼氏として、オレはプレゼントを渡し続けている。

どうやら世間的には男同士でこんな風にプレゼントを渡しあったりするのは珍しいようで、オレが彼の誕生日間際になるといろんな店を覗いてプレゼントを探している姿はある種不気味らしい。

フェミニストのヒロらしいと友人達は半ば呆れながら納得しているようだけど、オレにしてみたら恋人のプレゼントに手を抜けるはずがない。

自分の目で見て確認して、彼の喜ぶ顔を想像しながらプレゼントを選ぶその瞬間も楽しくて仕方がないのだから。

 

 

今年も彼は喜んでくれるだろうか。

すこし舌たらずな口調で「ヒロありがとぉ〜」なんて笑ってくれるんだろうか。

「もう四捨五入したら50歳だね」なんて言ったら「うっさいよ!!」なんて言いながら可愛い頬をプッと膨らませたりするんだろうか。そんな彼も見てみたい。

 

 

今日くらいは早めに仕事を切り上げて、ディナーに誘うくらいの時間はあるだろうか。

それとも時間も人目も気にしない家でのバースディパーティーも悪くない。

オレより格段に忙しい彼だから、せめてこんな日くらいはゆっくり過ごさせてあげたいけれど、果たして彼の時間がそれを許すかどうか・・・。

 

 

彼の仕事を代わってあげることはオレには出来ない。

ちょっと前まではそれを引け目に感じていたこともあったけれど、オレがもう少し頑張れば彼の負担も減るんじゃないかって、でもそれは違うとやっと解った。

あれが彼のペースで、オレにはオレのペースがある。

こんなペースのオレが彼のそばにいる意味はきっと、頑張りすぎてしまう彼のブレーキになる事なんじゃないかって最近は思っている。

ほっとくと何十時間も何百時間も音作りに没頭してる人だから、適当な頃合でオレが現実へ連れ戻さないといけないんじゃないかって。

勝手な解釈だって思われるかもしれないけど、オレはそんな風に都合よくオレ自身にも理由をつけて彼の元へ向かう。

煮詰まってるスタッフには「またか」って苦笑いされたりもするけど、そんな事気にしてたら彼のガーディアンは勤まらない。

 

今日は彼の誕生日、だからきっとスタッフも諦めてくれるだろう。

この後の彼の予定は全部キャンセルなんて無謀なお願いもしてみよう。だって彼の誕生日なんだから。

 

 

 

鏡の前でもう一度チェック。今日も彼にとって「カッコイイヒロ」でありますように。

プレゼントも持ったし、添える言葉のシミュレーションも万全。もちろん愛情は抱えきれないほど。

愛車に乗ってひと飛び。きっと期待して待っている、愛しい彼の元へ。

 

 

 

Happy Birthday 大ちゃん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 END 20121104