<Let me go>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒロのキャラそのまんまだよね。」

 

 

笑いながらそんな事を言う彼の顔をぼんやり見ながら、あなただって当事者だよねなんて頭の中だけで毒づく。

最初からそう言われるんじゃないかとは思ってたけど案の定。あなたはネタのひとつぐらいにしか思ってないのが癪に障る。

大体にして赤裸々な歌詞を嬉々としてミックスするあなただって相当なもんだよね。

 

 

「大ちゃんがそう言うなら、そう言うことにしとこうか。」

 

 

そう返してインタビュアーを煙に巻いて笑ってみせる。

その瞬間、あなたはニヤリと裏の顔を覗かせる。

全く悪趣味。

 

 

あぁダメだな、全くあなたのペースだ。

ワガママな『彼女』はオレを振り回すのが楽しくって仕方がないらしい。

 

 

世間のイメージは実際とはかなり隔たりがある。

面倒見が良い長男の彼と自由人な末っ子のオレ。

ワガママを言うのはオレの役割みたいに思われてるけど実際彼の方がワガママだ。

それもかなり理不尽な。

何かに熱中し始めるとオレの事なんてほっぽりっぱなしだし、深夜の呼び出しだってざらだ。

その上呼び出しといてまた熱中しての放置プレイ。

そりゃあジョンとだって仲良くなるよ。

 

 

まぁオレだってそんなマメな方じゃないし、どちらかと言えば面倒くさがりな方だから貰ったメールだって忘れてる事だってある。

そう言う時に限って大抵彼は覚えててチクリと言うのだ。

オレが送ったメールは忘れてるくせに。

 

 

まぁそんな事言ってたら彼とは付き合ってなんかいけない。

だからオレも半ば聞き流してヘラヘラとゴメンを連発。

全然反省してないよねって彼は言うけど、その言葉、そっくりそのままお返しします。

 

 

一番酷いのはどうやら彼は良い曲が出来るとその熱が冷めないみたいで、決まってオレを呼び出す。

一番先に聞かせてくれるその事には感謝するけど、そこから数時間後には歌詞をあげなきゃいけないオレを決まって誘惑する。

そういう時の彼はメチャメチャ激しくて最初からどこか神経がぶっ飛んでるから、そりゃあメイクラブはめちゃくちゃ盛り上がる。

するだけした彼はサッパリした顔でいい曲が生まれそうなんてホクホクした顔でまたスタジオに逆戻り。

オレの手元には期日がさらに迫ったデモ盤が残される。

なんだよそれ。余韻も何もあったもんじゃない。

オレがそんな事しようもんなら優しくないだの愛情が足りないだの、タバコの煙りを盛大に吐き出して抗議するくせに。

理不尽にもほどがある。

 

 

オレは一体何?

あなたにとってオレって?

考え出したらマジで凹む。

 

 

 

結局彼には敵わない。

散々な理不尽も吹き飛ばすような曲。

そこには確かにオレの場所があって、他の誰でもなくオレしか受け付けない。

だから結局はそこへおさまる。

そこがやっぱり一番心地良い。ぶっちゃけSexなんかより気持ちがいい。

彼の音を独占してるその快感はえげつないくらいオレの顕示欲を満たしてくれる。

だから仕方がない。お手上げだ、完全に。

彼もそんな事は嫌ってくらい解ってるから傲慢な呼び出しをやめようとしない。

全く酷い話だよ、お互いに。

だからオレは時々小さな反逆をする。

赤裸々?

このくらいは可愛いもんだろう?

 

 

 

 

 

「ヒロのキャラそのまんまだよね。」

 

 

そう思ってるって事は自覚があるって事だよね。

オレの気持ちも解ってるって事だよね。

ホントはオレだって肉食なんだぜ。

あなたの思い通りにばっかりは行かないぜ。

あなたにばっかり主導権は渡さない。

 

 

「大ちゃんがそう言うなら、そう言う事にしとこうか。」

 

 

一瞬の隙をついてニヤリと笑う『彼女』。

他の人の前では涼しい笑顔。

誰にもばれないアイコンタクト。

 

 

カワイイ『彼女』は今日もその瞳で理不尽なワガママを語る。

 

 

 

 

END 20120712