<お散歩>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街は雨降り、窓に当たる雨粒。

ちょこんと座って空を見上げる僕の愛しい人によく似た愛犬の後姿。

お散歩には行けないんだよとその背中に呟いて、僕は薄くドアを開けたままスタジオに引き篭もる。

 

愛しい人にはこの前会ったばかり。

どれだけ言っても学習しない彼はまた前髪パッツンで、その上しばらく予定がないのかヒゲまで得意気に生やしてた。

どうせまたファンの子達から盛大なブーイングをくらって、え!?ダメ?似合わない?なんて言いながら苦笑するのは目に見えている。

 

そんな彼も雨の日はきっとしょげている。

湿った空気が苦手らしい。乾燥してるのも苦手みたいだけど。

多分今頃は部屋の中で空を見上げてため息なんかついてるに違いない。

お散歩がお預けになった僕の愛犬みたいに。ホントそんなところもそっくりだ。

 

打ち込み作業が一段楽してプレイバックしようかと薄く開いたドアを閉めようと立ち上がってはじめて、今日は足元に愛犬の姿がない事に気付く。

いつもなら僕の作業中にいつの間にか入り込んで足元で寝そべっているのが常なのに、今日はアニーの姿しか見当たらない。

やんちゃ坊主はどこへ行った?さっきリビングの窓際に座り込んでいた姿を見たけれど、まだあそこにいるのだろうか。

もしかして何かいたずらでもしてるんじゃないかと、あまりの静けさに心配になる。

ジョンが静かにしてるなんて寝てるか何かに熱中してる時だ。

嫌な予感を抱えてそっとさっき見かけたリビングを覗いた。

 

 

「・・・?」

 

 

寄り添うふたつの後姿。

 

 

「・・・なぁジョン。」

 

 

揃って空を見上げている。

気配に気付いたのか耳のいいジョンが僅かな物音に振り返るともう1人もつられるように振り返った。

 

 

「大ちゃん。」

 

 

「ヒロ・・・いつからそこにいたの?てか、何してんの?」

 

 

走り寄ってきたジョンの頭を撫でながら聞く。

 

 

「ん?10分くらい前かな?大ちゃん真剣に作業してたし、悪いかな〜って思って。こっちに来たらジョンが1人で外見てたから。」

 

 

フローリングの床に座り込んでたヒロが立ち上がってこっちに歩いて来る。

 

 

「雨降ってるからお散歩行けなくてしょげてるんだよ。」

 

 

「あぁ〜そっか。ジョンも雨はいやか〜。」

 

 

わしわしと頭を撫でるヒロにジョンが鼻先でもっととねだる。

 

 

そうか〜遊びたいのか〜と問いかけるヒロの言葉にジョンは元気に答え、途端にじゃれあう姿勢になる。

まるで大きなワンコが二人、その光景に思わず吹き出した。

 

 

「?」

 

 

ジョンをかまう手を止め僕を伺ったヒロにゴメンと断る。

 

 

「だってそっくりなんだもん。二人。」

 

 

「え?」

 

 

「さっきそこで揃って空見てたのも、雨が降ると退屈そうな顔するとことかも。おかしくって。」

 

 

「えぇ!?何それ。」

 

 

そう言いながらまた二人して顔を見合わせてキョトンとしてる。そんなところまでそっくり。

 

 

「ほら!」

 

 

「えぇ!?」

 

 

「あはは、おかしい!」

 

 

腑に落ちないような顔で僕を見る二人の顔にまた笑う。

 

 

「ほんとそっくり。ヒロも散歩行きたい?」

 

 

「ちょっと、大ちゃん!!」

 

 

拗ねるヒロの横でジョンが嬉しそうに吠える。

 

 

「ほら、相棒が行こうって誘ってるよ。」

 

 

「もぉ〜そういう事言う?ちょ、ジョン!雨降ってるから行けないってば。」

 

 

喜ぶジョンを宥めながら助ける求めるヒロの視線。

お座りとジョンを傍らに座らせてその側にヒロを呼ぶ。

 

 

「ね、雨が降ってる時はお家で仲良くしようね。」

 

 

二人の頭をよしよしと撫でて笑ってみせる。

もぉ〜と言いながらも嬉しそうなヒロの笑顔に僕も嬉しくなる。

 

 

「それにしても急に来たね。どうしたの?」

 

 

大人しくなったジョンを撫でながら隣に座ったヒロに聞いてみる。

 

 

「ん?だって・・・退屈だったんだもん。」

 

 

「やっぱりお散歩じゃん。」

 

 

「えぇ!?そう?」

 

 

「ま、決まった散歩コースに来た事は認めてあげよう。」

 

 

「決まったって・・・。」

 

 

口を尖らせるヒロに背中を預け窓の外を見上げる。

 

 

「他の散歩コースに行ったら承知しないぞ。」

 

 

窓に当たる雨粒。

温かいぬくもりが僕をそっと包む。

 

 

「心配しなくてもおりこうなワンコですからね。」

 

 

「ほんとかなぁ〜。」

 

 

クスリと笑うとヒロと目があった。

 

 

「ついでにマーキングしても?」

 

 

「ついで?」

 

 

「ついでなわけないじゃん。もちろんそこもちゃぁ〜んとしつけされてますから。」

 

 

そう言ってニヤリと笑うヒロ。

 

 

「ばぁ〜か。」

 

 

僕を包んだぬくもりがきゅっと強くなる

クスクスと笑いながら僕達はワンコ達がじゃれあうようにキスをした。

 

 

 

 

 

 

 END20110224