<お似合いの恋人たち>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大ちゃんが風邪を弾いた。

 

原因は・・・やっぱりアレだよなぁ・・・。

 

思い当たる事が1つ。

 

一昨日の夜。久しぶりにロングタイムなメイクラブで布団そっちのけでイタしたのがまずかったか・・・。

 

オレも今度の舞台の稽古が始まるし、大ちゃんも忙しくしてた仕事が1段落してやっとの逢瀬。しばらく会えず仕舞いで、まぁ溜まってたっていうか・・・お互い柔らかな肌の感触に餓えてたって言うか・・・歳甲斐もなく、その・・・ね。

 

思い当たるのは唯一それしかなくて、週末が見頃だって言うからお花見デートの予定も立ててたのに、桜が見頃な時に大ちゃんは鼻水ダラダラでとてもじゃないけど浮かれたデートなんて出来る状態じゃなくて・・・。

悔しいのは解るけどオレだけのせい?高熱にうなされてる大ちゃんはさっきからオレに恨み言。

 

 

「も〜〜お花見!!ヒロのせいなんだからぁ〜。」

 

 

「ちょっと、オレだけのせいじゃないでしょ!?大ちゃんだってもっとって言ったじゃん。」

 

 

「そーゆーこと言うな!」

 

 

「言うよ。積極的に乗ってきたの大ちゃんじゃん。」

 

 

「乗ってないもん!!」

 

 

「乗りました!!もっとって腰振ったの大ちゃんだったじゃん。」

 

 

「言うな!この恥知らず!!」

 

 

「事実は正確に!!」

 

 

「そーゆーことばっか覚えてんじゃないよ!!歌詞はすぐ飛ばすくせに!」

 

 

熱のせいなのかテレのせいなのか、顔を真っ赤にした大ちゃんは怒って反対側に寝返りをうつ。

 

具合の悪い大ちゃんはちょっと可愛くて思わずイジワルをしたくなる。まぁこの感情が結果的に大ちゃんに風邪をひかせることになったんだけど。

 

いつもだったら気を使って布団を被せてあげたりするんだけど、あの時は久しぶりの興奮と、多分大ちゃんも同じように興奮してたみたいでいつになく積極的でそのさまが可愛らしくて、この後もしばらくオアズケになっちゃうのかって思ったら隅々まで堪能しないと勿体ないなんてちょっと欲も出て、張り切りすぎて熱いって言う大ちゃんを身ぐるみ這いで足元に布団を蹴りやった。

 

こうなってくるとやっぱりオレのせいか?

 

ここ最近の中では少し肌寒い日に何時間も素っ裸で、しかも汗までかかせてたらそりゃあ風邪だってひくよなぁ・・・。

オレって悪い恋人だな。

ま、それだって全部大ちゃんが可愛すぎるからいけないんだよ。

オレのドストライク。

なんでこんな人がいるかな〜って思うくらい、オレのツボにはまるんだよな・・・。

 

正直、好みの問題から言ったら全然違うはずなのに、だって男だし。

だけどそれすらも超越するくらい可愛らしく見えちゃうんだからしょうがない。

恋は盲目ってこの事か?まさにオレにとってエモーショナルな出会いだったわけだ。

 

 

布団の中からずびずびと鼻をかむ音がして白いティッシュの塔が積み上げられていく。

花粉症とあいまってなのか、鼻がひどいらしい。まぁ、大ちゃんは大抵風邪ひくと鼻水ひどいんだけどね。

いつだったか締め切りの納期が近い時なんか、えらくマスクを重ねてふうふう言いながら作業してたから、そんなにマスクしてるからだよって言ったらティッシュで鼻栓してるからマスクが取れないのって逆切れされた。鼻声通り越して最早判別不可能な言語で指示を出す大ちゃんに爆笑したら本気で殴られたもんね。

 

今はそこまで酷くはないけど、とにかく熱が出て鼻水が止まらないらしい。

だから大ちゃんの機嫌は悪い。

楽しみにしてた花見に行けなかったもんだから、余計に機嫌は悪い。

 

 

「ヒロのばぁ〜か。ばぁ〜か。ばぁ〜か。何で僕だけ風邪ひいてんだよぉ〜。」

 

 

「そりゃあ鍛え方が違うよ。」

 

 

「違うもん。バカは風邪ひかないんだもん。」

 

 

「あ、ひでぇ〜。」

 

 

「お花見行くのぉ〜写真撮るのぉ〜。」

 

 

潤んだ目は熱のせいだけじゃなさそうで、さすがにちょっと気の毒になった。

 

大ちゃんが花見を楽しみにしてたのは知ってたし、別にきちっとした約束をしてるわけじゃないけど、毎年揃って桜を見るのがオレ達にとっても特別な年中行事のようになってたから。

普段はなかなか人目を気にして歩けない場所も花見を名目に並んで歩けるその時間がやっぱり嬉しい事も事実。それが出来ない事が大ちゃんも悔しいに違いない。さっきからの悪態もそう考えれば可愛いもんだ。

 

 

「解ったよ。何でも大ちゃんの言う事聞いてあげるから、今日は黙って寝てなさい。」

 

 

「えぇ〜〜。ホントに何でも聞いてくれる?」

 

 

「何でも。」

 

 

「じゃあ〜・・・熱い!!」

 

 

そう言って布団をはいでみせる。

 

 

「ダメでしょ!ちゃんとかけて。」

 

 

「ウソツキ〜〜。何でも聞いてくれるって言ったじゃ〜〜ん。」

 

 

「それとコレとは別。そんな事してると良くならないよ。」

 

 

「ヒロのイジワル〜〜。」

 

 

ちょっとの隙間も作らないように大ちゃんを布団でぐるぐる巻きにしてたしなめる。

 

 

「身体痛いよ〜。喉痛いよ〜。お風呂入りたいよ〜。」

 

 

「ハイハイ。お風呂は後で入れてあげるから。」

 

 

「やだ〜〜。お肉食べたい〜〜。オレンジジュース〜〜。ワンコ達と遊びたいよ〜〜。」

 

 

「だぁ〜いちゃん。」

 

 

全く熱のせいだけとは思えないワガママっぷりで駄々をこねる大ちゃんがそれでも可愛いなんて思ってしまうオレはやっぱり病気なのかもしれない。コレは風邪よりたちが悪い。

 

ずびずびと鼻をかみながら大ちゃんがニコリと笑った。

 

 

「ねぇ、ホントに何でも聞いてくれる?」

 

 

「うん、いいよ。」

 

 

ジュースを飲みたいと言った大ちゃんを軽く起こしながら答える。

大ちゃんはジュースをちゅーちゅー飲んだ後、企むような目で言った。

 

 

「あのね、子供欲しいの。」

 

 

「はぁ!?」

 

 

いきなり何を言い出すんだ!?

 

 

「僕ね、新しい赤ちゃん、欲しい。」

 

 

「ちょ・・・大ちゃん!?」

 

 

「ヒロ、赤ちゃんちょうだい。」

 

 

真剣に潤んだ目で見つめられて思考回路がめちゃくちゃになる。

 

 

「あの、ね、ちょっと落ち着こうか、大ちゃん。落ち着いて〜。

オレと、大ちゃんは、愛し合ってます。それは解ってます。

赤ちゃん出来るくらいエッチもしています。

だけど、オレがどんだけ頑張っても、さすがに大ちゃんを孕ませる事は出来ません!!ゴメン!!」

 

 

「何で僕が孕む前提なの・・・。」

 

 

ギロリと睨まれてオレの心をひんやりとした風が吹く。

 

 

「僕だって一応ありますけど。そりゃあヒロには劣りますけども!!」

 

 

「ちょ・・・ちょ、ちょ、待って!え!?オレ!?」

 

 

裏返った声に大ちゃんがたまらずに笑い出す。

 

 

「あはは。おっかしい〜〜。ヒロの顔!!」

 

 

ケラケラと笑う大ちゃんにやられたと舌打ちして頭を掻く。一人満足そうにしてる大ちゃんが悔しくて何かやり返す手立てはないものかと頭を捻る。

 

 

そうだ!!

 

 

オレはニヤリと笑って言い返す。

 

 

「赤ちゃん、作りましょ。」

 

 

「えぇ?」

 

 

「大ちゃんが元気になったら、家族増やしましょ。」

 

 

「ヒロぉ!?」

 

 

今度は大ちゃんが目を白黒させる番。

オレはこの作戦が成功する光景を心の中で描きながら一人満足気に笑みをこぼす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、大ちゃんの家に宣言通り新しい家族が『一匹』増えた。

大ちゃんはビックリしながらも新しい家族を大歓迎し、早速名前を考えるようにオレを急かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

    END 20110413